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■事業の内容

(1) SC(スーパー・キャビテーション)プロペラの翼断面形状に関する研究
 最適SCプロペラを設計レベルで可能にするためには、SCプロペラの翼素である翼断面形状の性能向上が評価できなければならない。そのため、前年度に開発したSC翼型性能計算法をさらに改良し、揚抗比の向上を目指して圧力分布の与え方、前縁にキャビテータを付加する等の工夫を加えた。
 この理論を用いて、前年度に開発試作した翼型3個(SRNE翼型、SRJN翼型、SRJL翼型)にさらに改良を加えたSRJN型、SRJL-<2>翼型の2個を製作し、ノンキャビテーション状態及びキャビテーション状態の揚力、抗力、モーメントを3分力計を用いて計測した。さらに、LDV計測法の光源の改良とトラバーサーの製作とにより流場計測を実施し、それらのデータ解析の結果・所定の性能と高揚抗比が得られたことが確認された。
(2) SCプロペラの性能解析法に関する研究
 昨年度に開発した性能解析法は小規模なキャビテーション状態の範囲でしか実験結果に適合しなかったため、これをさらに拡張、改善して、プロペラ翼前縁からキャビテーションが発生して、プロペラとキャビテーションとの相互干渉が強い大規模状態の性能解析が可能なように改良を加えた。
 このため、膨大となる計算処理を効率よく実施できるよう、記憶装置の増設、LAN利用方法の確立、性能解析装置の整備等を行った。性能解析法として、揚力体理論を基とした表面渦分布法(QCM)、揚力面理論を応用してSC用に開発したSC-VLM等が検討され、結果としてSC-VLMが実験結果ともよく一致し、SC状態におけるプロペラの推力、トルク、単独効率、及びキャビティ長さ等の性能評価に十分に使用できることを認めた。
(3) SCプロペラの設計手法に関する研究
 上記の性能解析法の検討と改良に基づき、また前年度に開発したSCプロペラをべースとしてこれに本年度に製作した翼型の長所を採り入れ、2個のSCプロペラを設計・製作した。
 1個は翼端近くにはSRJN-<1>翼型を採用し、翼根部近くはSRNE翼型を採用したSRAL(昨年度に設計、製作)の流れを汲むSRNJプロペラ、他の1個は昨年度設計製作したSRIJ-<2>を改良し、翼断面にSRJN-<2>を採用し、翼輪郭形状を変更したSRIJ-<3>プロペラである。いずれも低い迎角でもなるべく所定のキャビテーションが発生するようにとの理論的な検討に基づく改良であり、特にSRNJプロペラのプロペラ効率は、従来にない0.72という高い効率を達成できた。
 一方、プロペラ翼の強度に関する検討の結果から、SRIJ-<3>プロペラの想定使用状態では若干の強度不足が予想されたため、性能を低下させずに強度を保持できるような追加のSRIJ-<4>プロペラの設計も行い、所期の目的を達成できることが確認された。
(4) 研究のとりまとめ
 3年間に得られたデータの整理方法を検討し、本研究で開発したSCプロペラの設計手法、評価手法を実際の設計に使用しやすいように整理した。さらに、SCプロペラの簡易設計法を作成した。派生的な課題として、キャビテーション水槽の動力計の形式が実験結果に微妙な影響を与えることも分かった。
 開発された合計3種類5個のSCプロペラ翼型及び5個のSCプロペラばそれぞれ特色があるため、これらの考え方の流れを整理し、今後のプロペラ開発のための資料とした。さらに、競艇用プロペラについても、本研究で開発された理論を用いた設計が行われた。
■事業の成果

最近の船舶の高速化の需要増加に伴い、高速性能に優れたスーパー・キャビテーション・プロペラ(以下SCプロペラと称する)への期待が高まっている。しかし、SCプロペラは従来商船用としては小型のレジャー・ボートに用いられる程度で大きなニーズがなく、従ってSCプロペラの設計に関しでは、極めて旧式なシリーズ試験結果に基づく設計チャートがあるのみであった。また、理論的な解明も遅れており、試行錯誤的な手法で設計されているに過ぎず、最近の進んだ流体力学的な解明手段を用いた研究はほとんどなされていなかった。
 本研究はSCプロペラの設計法確立に資するため、その性能解析法と性能評価法とを確立させ、さらに信頼のおける設計データを整えることを目的として、3年間にわたり実施してきたものである。
 本年度の成果として、先ず基本的なSCプロペラの翼要素である翼断面形状について、初年度の既存SC翼型の性能解析と昨年度の3種類のSC翼型の実験結果、及び翼型性能の理論的な解析法の改良等を基として、さらに高揚抗比の性能をねらった斬新な翼型2種類を開発できた。また、SCプロペラの性能解析法として、昨年度に引き続きプロペラ翼に渦格子を配置するいろいろな方法を検討し実験結果と最もよく適合する方法としてSCプロペラ用の準連続渦分布法(QCM)を開発した。さらに、両者の研究を結合させて新しいSCプロペラを設計・製作し、実験により所定の性能が得られることを確認し、SCプロペラの設計手法を確立することができた。
 これらの研究においては、プロペラの推力や荷重度等を仮定して行われたものであるが、研究内容にはプロペラ翼強度の検討も含まれているため、具体的な船型等が与えられた場合にも充分に適用できるSCプロペラの設計手法とその性能評価手法が確立されたものと思われる。





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