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■事業の内容

(1) 構造強度についての調査研究
[1] 構造解析による船体構造の変形及び応力の研究
a. 大型解析モデルの構造解析
 初年度に定めたバリエーション船型3船型のうち、最も柔構造である二重船底高さが2.0mでかつ船側タンク幅2.OmのTYPE-2船型を基準船型として、二重底部、船側部のガーダー配置を変化させた構造様式の検討を行い、平成3年度、4年度と同様な大型解析モデルを用いてFEM解析を行い、ガーダー配置の主として変形に対する主要部材の影響を調査した。
 主な結果は次の通りであった。ガーダー等の追加効果は、二重底部や船側部の変形量を減少させ、特に隔壁と隣接横桁間の相対変形量の減少が大きいが、部分ガーダーを設置した場合は、その境界部で徐々に剛性を低下させる必要がある。二重底に全通ガーダーを追加した場合は、船体中心線付近の応力低下の効果は大きいが船側部では小さい。また簡易梁モデルの有効性とその精度の限界等が明らかとなった。
b. 二次部材の構造解析
 また、二次部材に関しでは、主要部材の変形に起因する付加応力の割合調査を行い、主要部材の変形に対する影響度の調査を行うとともに、応力集中部を対象として構造詳細(スチフナ寸法、端部形状等)と発生応力の関係の調査を行い、応力の緩和を考慮した構造詳細の検討を行った。
 主な結果として、付加応力は二重底縦通ロンジでは大きく船側部縦通ロンジでは小さく、従来のタンカーに比べて二重船殻タンカーでは隔壁に近い横桁付置にも付加応力が生じる等のことが明らかとなり、また応力集中部への対応手段や疲労対策等が得られた。
[2] 総合的な強度評価と合理的な設計指針の確立
 TYPE-1〜3船型及び従来の単底構造タンカーの大型解析モデル及びズーミング解析モデルによる構造解析結果を基に、総合的な強度評価として、主要部材に関しでは二重船殻構造深さと主要部材の変形、応力との定性的、定量的関係を導くとともに、主要部材の変形、応力に関する特性及び設計上の注意点を取りまとめ、また、二次部材に関しでは主要部材の変形と付加応力の定性的、定量的関係を導くとともに、二次部材の発生応力の特性及び設計上の注意点を取りまとめた。
 さらに、合理的な設計指針の確立として、簡易梁モデル、大型解析モデルの構造解析結果及び総合的な強度評価を基に、二重船殻構造深さの決定要因、ガーダーの効果的配置等主要部材に関する設計法の指針を導くとともに、二次部材の応力集中部における構造詳細の設計法を導き、さらに、二次部材に関する疲労強度の見地から考察を行った。
(2) スロッシング荷重の調査研究
[1] 理論計算によるスロッシング荷重の研究
 スロッシングの数値解析法に関しでは2次元タンクを対象として、SOLASURFと呼ばれる自由表面を持つ流体の流動解析コードに改良を加えた解析法を用いた。解析法の改良で特に苦労した部分は、タンク内の液体が少ない場合の浅水影響であり、ガーダー等の内構材に対する液体の衝突、跳ね返り等の挙動を実態に合わせて解析可能とすることにあった。この検証に当たっては、模型実験結果との比較検討を行うことにより、解析の有効性を確認できた。
 最も懸案としていた動揺により露出・没水を繰り返す水平桁の取り扱いについて、計算の時間きざみや空間の分割数の組合せを変化させることにより、解析法の改良を図り、その精度を上げることができた。
 2次元タンク内の流体スロッシングの挙動に関し、数値シュミレーションをシリーズとして計算した結果、流体の速度ベクトルとタンク壁面に誘起される圧力分布を時間経過にそって示すことができ、コンピュータの画像処理装置の整備により実験と数値解析とのスロッシング現象がよく合致することを示した。
[2] スロッシング模型実験
 本年度は昨年度までに製作した2次元模型の実験装置を3次元の運動が可能なように改造し、3次元用の模型タンクの製作、圧力計の整備等を行い、実験条件の高度化を図った。また2次元模型タンクの実験をさらに追加して実施すると共に、2次元と3次元の実験結果の比較検討を行った。
 2次元模型タンクの実験計測データについては、本年度は主にスロッシング圧力の空間分布を示して各模型の各液位に対する圧力分布傾向の解析を行ったことが特色である。また、パネルセンサーを設置した計測結果から、受圧面積が計測値に及ぼす影響を解析調査した。計測された衝撃圧力のピーク値にばらつきがあるため、統計的に分析を行ってその特性を調査し、規則的な動揺の場合には衝撃圧力の確率分布はレイレイ分布で近似できること、不規則的な動揺の場合は形状パラメータが0.5程度のワイブル分布に近いこと等が明らかになった。
[3] 総合的なスロッシング荷重の評価
 多数のシリーズ試験の結果から、不規則波中のスロッシング圧力は規則波中の模型実験結果と船体の波浪中応答関数とから求められることが確認され、液体運動の同調点の判定方法、スロッシングに対するタンク形状や制水用内構材の効果などが明らかとなった。この結果を応用することにより、スロッシングを防止するか、または構造強度に対して影響のない範囲に押さえるための設計方法が確立できた。
■事業の成果

タンカーの損傷による油流出と海洋環境の破壊が世界的に重要な問題となり、二重船殻構造が義務付けられるようになった。載貨重量10万トン程度の中型タンカーにおいては、従来の単底構造のタンカーと異なり、中心線の縦通隔壁のない構造配置が経済的と考えられるため、幅広で内部構造材の少ないタンク構造となる。
 その結果船体が柔構造となり、特に二重底部や二重船側部及び横隔壁の剛性が低下し、主要部材の変形が大きくなり、それに起因する二次部材の付加応力も大きくなることが予想された。また、タンク内部の構造部材の減少と平滑化に伴い、貨油のスロッシング運動が激しくなり、壁面への衝撃的な荷重が生じることが心配される。
 本研究はこれらの問題を解明して安全かつ合理的な構造のあり方を見出すために、船側・船底の二重船殻構造の深さや部材の配置寸法が変化した場合の主要部材の強度、二次部材の変形、スロッシング荷重等について研究したものである。
 研究の成果として、二重船殻構造深さと主要部材の変形、応力との定性的、定量的関係を導くことができ、主要部材の変形、応力に関する特性及び設計上の注意点を取りまとめた。また、二次部材に関しては主要部材の変形と付加応力の定性的、定量的関係を導くとともに、二次部材の発生応力の特性及び設計上の注意点を取りまとめた。さらにスロッシングに対するタンク形状や制水用内構材の効果などが明らかとなり、この結果を応用することにより、スロッシングを防止するか、または構造強度に対して影響のない範囲に押さえるための設計方法が確立できたものと思われる。





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