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■事業の内容

(1) 北太平洋海洋変動予測システムの調査研究
[1] データ同化手法の構築
 平成4年度の検討結果に基づいて、北太平洋を対象としたデータ同化手法による海洋変動シュミレーションの海域分割を行い、入力条件を作成した。すなわち北緯0°〜60°、東経120°〜西経110°を対象海域とし、緯度・経度方向に2°の間隔で、深さ方向は10〜12個のレベルに分割した。各区域についての入力条件となる風の応力(NASAの資料による)、水深、海面での熱交換量・水収支量を作成した。基礎式に基づきデータ同化手法の流動計算プログラムを開発・作成し、入力条件を与えて流動の試計算を行った。
[2] 北太平洋海水粒子の追跡計算
 データ同化手法により得られた北太平洋の流速場から、粒子の追跡プログラムを開発・作成し、粒子の投入場所、粒子個数、追跡する層、追跡ステップ数を設定し、追跡計算を行った。
[3] 入力条件、計算結果等は汎用性の高いファイルに記録し、利用し易い形式とした。またデータ同化手法の計算結果については、既往の知見も考慮し、同法の有効性を確認した。
 検討会に於て次のような事項について審議・検討を行った。
a. 流動の季節変動計算の要望は、既存のデータ量との関係で日本近海しか対象とならないこと。
b. 黒潮の流動計算による流速は、実測値の1/2となる点。
c. 湧昇と沈降の再現は今回の研究では困難であること。
d. 海水粒子の追跡計算の結果と水路部で実施した漂流ブイの海流観測との比較、但し漂流ブイの場合は表層流に限られること。
e. 流動計算と境界条件の設定の影響
f. 計算格子の間隔により、中規模以下の渦の表現の困難さ。
g. 粒子の追跡計算と観測結果との比較で移動速度が小さくなる原因はメッシュ内の平均流であること。
h. 粒子の投入地点を黒潮本流域内に設定し、沈降を考慮しない追跡計算を行うと比較が容易となり実用的である。
(2) 観測衛星データ利用による海洋情報高度化システムの調査研究
[1] 他機関調査
 岩手、東北、東京、京都の各大学、気象庁(気象協会)、漁業情報サービスセンタを訪問し、衛星データの収集又は入手、データ処理手法・手順、処理のハード及びソフトの状況・内容を調査し、結果を整理・解析した。本事業の目的に適う形態・体制としては、気象庁(気象協会)、漁業情報サービスセンタが参考となることが判明した。
[2] 最適アルゴリズム(algorithm:計算の手順や問題解決のための手順)の検討
 衛星データにとって不要又は障害となる雲域除去についての従来手法を比較検討し、閾値法と凝集度を用いる手法の組合わせ手法の採用を決定した。
 具体的に演算処理プログラムを開発し、種々雲域除去処理を施した結果、従来よりも改良されたデータを得ることができた。
[3] 海表面水温図作成システムの設計
 原画像データの平滑化手法、デジタルフィルタを調査研究し、システムの設計を行い、水温分布に関する演算処理プログラムを開発した。
[4] 海流図作成システムの設計
 設計に際し
a. 補正が正確であること
b. アルゴリズムが簡単で、処理速度を低下させないこと
c. 必要な要素が一定値に又は自動的に決定されること
を留意し、パターンマッチングによる海流図作成システムの基本設計を行った。

■事業の成果

(1) 北太平洋海洋変動予測システムの調査研究
 本事業は平成2年度から平成5年度まで4か年にわたって実施した。
 平成2年度は、観測データの収集・整理・解析を行ない、海洋における観測絶対量の不足にもかかわらず、統計学的手法、データ補完等により、対象海域の水温・塩分の平均場を描画し、本研究の基礎データを作成した。またデータ同化手法については力学的に方程式を解くことと異なり、計算過程で観測データを同化し、水温・塩分の計算値を観測値に近い状態で流動場を求めることが実際に可能であり、有用であることが判明した。
 平成3年度は、シミュレーションモデルに関しては、北太平洋の流動場を等深度結合と等密度結合の2種類のコンパートメントモデルにより解析し、北太平洋のきめ細かい海流、湧昇流、沈降流が再現できた、またデータ同化手法の設計についてはモデルの基礎式を決定した。
 平成4年度は、シミュレーションモデルの調査研究に関しては、流動計算プログラムを作成し、試計算を実施した。計算過程において水温・塩分場が時間とともに初期値から離れて行く結果発生すると思われる流れが認められ、現実の密度分布を維持した状態で解析を求めることが重要であることが実証できた。
 データ同化手法の構築については、予備的に実施した補正項を影響させた計算結果は補正項を影響させない場合に比較して、水温・塩分分布場が現実値に近づき、数値計算におけるデータ同化手法が有効であることが実証できた。
 平成5年度は、前の3年間の調査研究をもとにして、データ同化手法の構築を行なった。太平洋全域を水平2°鉛値11層の格子系とし、流動解析を実施した。この結果は、現在我々が知りうる既存知見に照らして、充分な精度で海洋流動を再現することができ、データ同化手法の構築は一応の完成となった。
 また、海水粒子の追跡計算は、過去に行なわれたブイ流跡調査結果を概ね再現することができ、前述の流動の再現性を裏付けることができた。このように海水流動を直接視覚化するシステムの構築により、解析結果を事故防止対策や救助支援対策として幅広く応用する道を開いた。
 本事業の成果として次のようにまとめることができる。
 データ同化手法により現在の現実的な密度分布場での流動をきめ細かに再現することができ、この結果、将来における本来的な意味でのデータ同化システムによる変動予測を方法の上で可能にした。また同化手法による流動解析結果を用いた粒子追跡結果とブイ流跡の実測データの整合性は多くの追跡計算を行なうことにより遠隔地域における海難に対応し、緊急的な対策や救援活動等に幅広く応用することが可能となった。
(2) 観測衛星データ利用による海洋情報高度化システムの調査研究
 米国が打ち上げている気象衛星及び地球観測衛星から入手した水温及び海表面高度データを利用し、日本近海における海流図等の内容の高度化と迅速な作成・提供が図れるシステムの構築を目指し、3年計画の調査研究の初年度として事業を実施した。
 他機関の参考事例調査、データ処理手順・方式の検討、処理プログラムの開発を含む水温作成システムの設計・試作及び海流図作成の基本設計を行ない、水温図作成については、データの処理・改良により品質のよい特定海域の水温分布図を作成することができた。





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