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■事業の内容

多軸船の副部抵抗及び船体との相互干渉影響をより精度よく推定するための手法を見出し、多軸船の推進性能推定精度向上を図るため、7m及び10m相似模型船による抵抗試験、副部抵抗分離計測などの水槽試験に加え、副部構成要素を単純化した部分モデルに対し、最近の流体力学的解析手法を利用して流場・抗力等に関する解析的検討並びに実験的検討を行った。更に、これらに昨年度までの研究成果も加味し、副部特性の新しい推定手法の検討を行った。

(1) 副部抵抗に関する尺度影響及び分離計測の研究
[1] 相似模型のシリーズ試験
 副部特性推定手法検討の基礎資料を得ることを目的とし、SR108の2軸1舵船型をベースに初年度に設計製作した7m模型船と相似で、シャフトブラケット、シャフト及び舵の着脱可能な10m模型船を製作し、7m模型船と共に各副部の着脱を行って抵抗試験を行い、これらの副部の有無が全抵抗及び船体沈下量に及ぼす影響を調査し、前年度までの試験結果と併せて尺度影響に関する吟味をした。
試験状態    :計画満載イーブンキール(昨年度と同様)、副部の
有無6種類
試験速度範囲  :フルード数0.05〜0.34
試験結果の解析法:シェーンヘルの摩擦抵抗係数算式を用い、2次元及び3次元解析の2種類

[2] 副部抵抗分離計測
 1Om模型船については、模型船を再調整して船体に組み込んだ3分力計を用いて、船体周りの流場に置かれたシャフトブラケット、舵などの副部に作用する流体力を計測し、副部単独の抵抗、上下力(揚力)及び横力を求めた。
計測対象副部:シャフト・ブラケット、舵
試験状態  :シャフト・ブラケット2状態、舵3状態
計測項目  :流体力

(2) 副都周りの流れの研究
 昨年度に引き続き、副部周りの流体力学的機構を把握し、抗力推定法を構築するための詳細かつ具体的な研究課題を策定し、これに基づく調査研究を実施した。
[1] 流場の実態把握実験
 流線の観測に適した回流水槽において、副都周り流れの実態把握の一つとして副部の部分モデルによる船体表面対応平板との接合部付近の流場観測を行うと共に摩擦応力計測を試み、同時に副部構成要素の典型として、平板上に立てたストラットに関し、最近の数値流体解析技術を利用し、レイノルズ数103〜106の範囲について各機関分担して接合部影響も含めた流況、圧力分布、抗力等の流場特性を析出すると共に回流水槽において抗力計測も実施した。
[2] 副都周りの抵抗特性評価法
 数値流体解析技術を適用して主船体を含めた副都周り全体流れの把握を試み、新推定法構築の際の基礎データを得た。
[3] 部分モデル抗力計測及び流れの計算
 船体、副部、プロペラの相互干渉の大要を把握する目的で、シャフトブラケット付プロペラ単独試験を、また、昨年度までの自航試験を検証データとして、自航要素の理論検討を行い、相互干渉に与える諸影響について検討を行った。

(3) 副部特性の推定精度向上の方策の検討
 昨年度までの研究成果及び本年度に得られた上記各項での研究成果を総合的に活用し、昨年度構築された骨子を基に、より合理的な副部特性推定手法を構築した。すなわち、副部抵抗の評価が、副部単独抗力と主船体干渉抗力の和として与えられるものとして、それぞれの推定手法をこれまでの研究成果を利用しつつ構築し、提案した。
[1] 副部単独抗力の推定法
 副部単独抗力については、シャフトブラケット、シャフト、セミホッシング、舵に関し、各々の構成要素ごとの幾何形状及び流入流場も考慮に入れた抗力推定法(含簡便法)を構築した。
 この推定法に基づいて計算を行い、実験結果と対比して各副部毎に評価を行った。
[2] 主船体干渉抗力の推定法
 主船体干渉抗力については、シャフトブラフット、ボッシング及び舵それぞれに関し、模型試験により副部有無の差により折出した抵抗差と、分離計測による副部抗力計測結果との差を評価対象として理論検討を行い、推定手法の構築を行った。
 また、以上の2成分の推定手法を総合し、新しい合理的な推定法として提案、この適用性を10m模型船による水槽試験結果との比較により総合し、その妥当性を確認した。
■事業の成果

フェリーや客船など多軸船において、ボッシングやシャフトブラケット等副部系の抵抗が船体抵抗に与える影響は大きく、その船型計画や推進性能向上にとって重要な要素となっている。本研究は従来の水槽試験を主体に最近の流体力学的解析手法も利用して、副部系周りの流れを調べ、干渉影響の検討を行って副部抵抗をより精度よく推定する方策を見出そうとするものである。
 本研究は平成2年度より本年度までの3年間実施され、この間従来手法の調査、最近の計測技術を駆使した水槽試験、流場観察等の模型試験、及び最近発展の著しい数値流体力解析技術を利用して副部抵抗に関する尺度影響及び分離計測の研究、副都周り流れの研究を実施、従来、流力的に複雑で検討が難かしいとされていた多軸船の副部周りの流力現象にメスを入れ多くの知見を得ると共に、これら成果を総合的に活用し、副部特性のより合理的な新しい推定手法を構築・提案した。
 今回提案した推定手法はまだ生まれたばかりであり、まだ不備の面も多々あると思われるが、この実用面でのより広い活用と磨き上げについては今後の造船所での船型設計の場に委ねることとなる。本推定手法の骨格は今後末永く活用され、多軸船の性能向上に資するものと考える。





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