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■事業の内容

(1) 化審法による試験
 過去2年間において、第1次及び第2次の供試候補防汚剤合計21種類についてデータ検索を行い、安全性の確度が高いと認められる防汚剤について,化審法に準拠した諸試験を実施したが、その結果から安全性と防汚性の大略の目処が付けられた。本年度は若干の不十分なデータを補強するための化審法試験を行い、さらに今後必要になると想定される海産生物への影響を検討するため、次の試験を実施した。これらの試験は化審法に定められた基準に適合した公的機関で実施した。
[1] 復帰変異試験
 2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-s-トリアジンについて実施した。
[2] 染色体異常試験
 2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-s-トリアジン及びロダン銅について実施した。
[3] 海産生物に対する安全性試験
 2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリルについて実施した。
 得られた全試験結果について安全性評価を行い、塗料化するに当っての使用量規制その他留意点をまとめた。

(2) 塗料中の防汚剤の溶出分解性の研究
 過去2年間にわたり、海水の表層域と中層・底層域における防汚剤の分解モデルについて研究を行ってきたが、最終年度も光分解と微生物分解を主要因とみなした下記海洋環境模擬分解試験を継続し、データの収集を図りながら、データの信頼性、試験法の妥当性等について検討し、分解試験法としての測定基準(試験装置の要件、試験法のマニュアル)を作成した。
 供試防汚物質は、塩化トリブチルスズ(TBT)及び2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル(TPN)であり、試験海水としては東京湾及び外洋から夏期に採取した海水を用いた。
 試験は平成2年度に使用した装置により、分解容器を定温(25℃)の通気状態にして、供試防汚物質の初期濃度を50ppbとして経時的な濃度変化を測定した。また、平成2年度と同様ガスクロマトグラフ法により供試防汚物質の残存量を経時的に定量分析した。
 試験条件としては光照射の有無、滅菌の度合い等をパラメータとした。

(3) 防汚性の研究
 候補防汚剤単独、及び亜酸化銅併用による塗装試料、並びに比較標準塗装試料により次の防汚性試験を実施し、防汚特性を調査した。
[1] 前年度第1次候補品の後期海中浸漬試験の追跡調査
 平成4年4月〜6月の3ケ月間に浸漬試験を継続実施し、各塗装試験板上の動物、植物及びスライムの付着状況を観察した。
[2] 前年度第2次候補品の前期海中浸漬試験の追跡調査
 平成4年4月〜9月の6ケ月間に浸漬試験を継続実施し、各塗装試験板上の動物、植物及びスライムの付着状況を観察した。
[3] 第2次候補品の後期海中浸漬試験
 平成4年5月〜平成5年1月の9ケ月間に浸漬試験を実施し、各塗装試験板上の動物、植物及びスライムの付着状況を観察した。
 これらの結果を総合的に解析評価して、防汚剤、浸漬海域、性能等の関係がすぐ判るようとりまとめた。
■事業の成果

船底防汚剤については、従来有機錫化合物が主流をなして来たが、これら防汚剤の環境残留性が問題化し、トリフェニル錫化合物、トリブチル錫化合物共に『化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律』(化審法)によって第2種特定化学物質に指定され、その使用が厳しく規制されるに至った。
 このため塗料業界では、有機錫化合物に代わるより安全な防汚剤の開発に力を注いでいる。これら新規防汚剤は化審法上、いずれも既存化学物質であるが、農薬に類似する物質であるため、環境残留性や塗装作業での安全性について十分調査しておく必要がある。これらの調査結果を公的機関で検証し、各界の有識者の判断を得て、初めて造船、海運業界で安心して使用することができる。
 本研究は化審法に準拠した毒性・環境残留性等の試験、海水中に溶出する物質の挙動の把握試験、及び海水中浸漬試験を行い、安全性と防汚性を確認することを目的とする3年計画の最終年度の研究であり、以下の成果が得られた。
 化審法対応試験については、21種の候補防汚剤について安全性を評価するために基本的に必要なデータが得られ、塗料化して海水中に浸漬した防汚性能試験結果とも合わせて評価を行い、17種類の防汚剤については有機錫化合物よりも濃縮性が低く、その使用方法、使用条件等を考慮すれば安全性を害することなく使用できる見通しを得た。
 また、防汚性判定に使用した塗料化試験は防汚剤単独系と亜酸化銅併用系の2種のみであり、本来防汚塗料は樹脂組成とのバランスの上に成り立っていることから、配合条件によってはより優れた防汚性を発揮できると思われる。
 新規防汚剤の溶出、分解性の研究については、前年度と同じ物質(TBT及びTPN)について光分解と同時に微生物分解試験を行うとともに、これまでの試験結果を総括して分解試験法としての妥当性を検討した。
 その結果、以下のことが判った。
1. TPNは光分解作用を強く受けるため(半減期半日程度)海水表層部での分解はかなり急速に進むと考えられ、光の到達しない海中においてもTPNの半減期はTBTに比べ1/3程度であることが認められ海水中では分解しやすいとの評価を得た。
2. 光分解と同時に生分解の評価ができる試験法について検討し、海水の分解活性を保持するための通気法、光分解に適した照射法等の検証を行って、海洋中での防汚剤の分解シミュレーション試験法として有用となる見通しを得た。
 塗料の防汚性については、全国11箇所で海水中浸漬試験を行ったが、いずれの防汚剤も動物・植物ともに亜酸化銅併用系に効果がみられ、また、防汚剤単独系でも程度の差はあれいずれも効果が認められた。





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