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■事業の内容

(1) 無人潜水艇による海底調査手法に関する調査研究
 平成3年度に引き続き、無人潜水艇を用いた海底調査機器の設置・設置状況及び姿勢の確認、修正・作動確認等及び回収方法についての検討と海底観測ステーションシステムの実海域実験、取得データ・資料の整理・解析を次のとおり行った。
[1] 調査・実験方法の検討
 海底観測ステーションシステムの研究開発で試作された各装置(精密距離測定装置及び地殻上下変動観測装置)は自己浮上のための装置、深度調整用重錘等のため当初より寸法・重量ともに増加し無人潜水艇で取り扱える範囲を超えたことが判明したので、各装置の設置までは海上保安庁所属の測量船の分担となり、無人潜水艇では設置後の各実験作業を取り扱うこととして実験の方法・手順を検討した。
[2] 調査・実験
a. 無人潜水艇の潜水テストを兼ね地殻上下変動観測装置の設置予定の海域(北緯35°04′、東経139°18′、水深1,370m)に当たる海底を調査した。海底は平坦な砂泥質であった。また流れも比較的ゆるやかであると観察された。
b. 測量船による精密距離測定装置の設置作業を付近の海域警戒を兼ね200〜300mの至近距離で電波測位機による位置の測定、カラー魚探による着底状況の確認等の支援を行った。
c. 精密距離測定装置の設置後、無人潜水艇によります受信部、ついで送信部の海底での捜索を開始した。
 受信部は長時間(約26時間)の捜索にもかかわらず発見できなかった。送信部は約2時間で発見し、その位置、姿勢等の確認調査をおこなった。位置は測量船で着底したとされた位置より205°,230mずれていた。姿勢は正方形フレーム構造の一辺が約5cm程浮き上がってやや傾いていた以外には損傷もなく、ほぼ正常に設置されたことを確認した。
d. 受信部が未発見であったため、予定していたこれに続く各実験、信号ケーブルの展張と水中着脱コネクタの結合、マグネットスイッチによる電源投入、計測動作の開始確認等の実験作業を行えなかった。
e. 地殻上下変動観測装置の設置・回収実験はこれらの捜索等の間、測量船により吊り下げロープにより行われ、支援作業は行わなかった。
f. 実験最終日に送信部の回収を予定していたが、海況悪化のため断念せざるを得なかった。ただ音響切離装置による応答は確認した。
g. 約1カ月後、別途手配の作業船により音響切離装置の作動による重錘切り離しで装置全体を自己浮上させて回収に成功した。受信部の音響による応答確認を行ったが応答は得られず、今回作業での回収は断念した。
(2) 北太平洋海洋変動予測システムの調査研究
[1] 海洋変動のシミュレーションモデルの調査研究
a. 入力条件の整備
 シミュレーション解析の対象海域は、南緯75°〜北緯60°、東経120°〜西経70°の範囲について行った。
 水平分割は緯度方向に5°毎とし最大36区分、緯度方向に5°毎とし最大27区分とした。
 鉛直分割は0m〜200m(第1層)、200m〜500m(第2層)、500m〜1,000m(第3層)、1,000m〜2,000m(第4層)、2,000m〜5,500m(第5層)、5,500m以上の第6層とした。
ア 風の応力
 NASAの瞬時データを年間平均値に処理したデータを計算格子上に配置した。
イ 水深
 大洋水深総図から5°毎の代表水深を読み取り使用した。
ウ 海面での熱交換・水収支量
 原データは平成3年度のものを使用し、南緯60°以南のデータが無い海域は補完データを使用した。
エ 水温・塩分
 JODCデータから各5°毎の各層の深度に該当するデータを平均し、使用した。
オ 諸パラメータ
 モデルを支配する要因として、風の応力の強さ、熱、塩分及び運動量の混合係数、時間定数項が考えられることから水平渦動粘性係数、鉛直渦動粘性係数、水平渦動拡散係数、鉛直渦動拡散係数を設定し使用した。
b. シミュレーションモデルによる北太平洋の流動計算プログラムの作成
ア プログラムの作成
 モデルの基礎式の前提条件としては静水圧近似と海面の水位は変動しないと仮定した。
 基礎式としては、運動方程式、連続式、ポテンシャル温度と塩分の拡散方程式、状態方程式とした。
イ 流動計算
 流動計算にあたっては初期条件として、海水は静止しているとし、また計算時間及びタイムステップは、△t=900秒、シミュレーション期間=5年、反復回数=172,800とした。
 計算ケースは予備段階から種々の条件を変えて、25ケースを実施した。
ウ 流動計算結果
(a) 水平流動
 第1層 風の影響が大きかった循環もこの時期には密度効果の影響も加わって、従来言われている海洋表層の循環系に似た循環を示している。
 亜寒帯では北緯40°を中心にして日本近海から東に向かう北太平洋海流相当流が北アメリカ大陸西岸まで連続して見られ、一部は北上してカムチャッカ半島に達して南下する一連の循環を形成している。
 オホーツク海から東北日本沿岸にかけては、反時計回りの循環が見られ親潮相当流も明瞭に見られる。また、黒潮と黒潮続流及び北太平洋海流の流速は、概ね10cm/sから25cm/s程度の範囲にあった。
 亜熱帯では、北太平洋海流の一部がカリフォルニア半島に沿って南下し、北緯15°付近で西流し、フィリピン東部海域に達し、流れはここで分岐し、南シナ海を抜け北上したものは黒潮相当流となって日本沿岸に達し、一連の循環を形成している。
 この他にも従来の知見に無い流れが見られたり、赤道反流の流速も算出された。また、南半球の南赤道、亜熱帯、南極周極循環系に相当する循環が見られた。
 総括的に見た流速の分布は、西岸海域で強化されて比較的強く、東岸海域で比較的弱いことが判明した。
 第2層 流れのパターンは第1層と殆とかわらず、全体的に流速の規模が小さくなっている。またボックスモデルで示唆された流れのパターンと似ている。
 第3層 子午線方向の小さな循環が明瞭に現れた。
 第4層 西岸海域と南極及び熱帯に見られる子午線方向の流れを除いて流速は小さいが、西岸海域と子午線方向の流れは第3層よりむしろろ大きくなっている。
 第5層顕著な流れは西岸の強化流と南極周極帯を西に流れる流れで、その他は殆ど数cm/s程度の規模である。
 北緯5°付近には微弱であるが両半球の南北方向の循環を境とするように、東に向かう流れが見られ、赤道が大循環における一つの境界領域を形成していることが伺える。
(b) 鉛直流動
 200m面では東岸域を除いて、北半球亜寒帯で湧昇、北半球亜熱帯で沈降、赤道周辺で湧昇、南半球亜熱帯で沈降、南極周極で湧昇域となっている。流速は大半が1×10-5cm/sを超える規模であるが、湧昇・沈降が接する海域では流速規模が小さい傾向がある。
 500m面では赤道東側海域と隣接する東海域を除いて分布、流速規模とも200m面とほぼ同様である。
 1,000m面になると上層とは様子が異なり、南北両沿岸海域では沈降の傾向が強まっている。
 2,000m面では南極周辺海域と、太平洋西海域及び東北岸海域を除いて流速規模が小さい。
 全体的に見ると、第3層からは赤道海域西側とカリフォルニア沖を中心に上下両層に海水を補給し、第4層では南極周極海を除いて、概ね上下両層から海水が補給され、中層に海水が集まる結果となっている。
[2] データ同化手法の構築
 平成4年度の研究ではボックスモデルにより表現できなかった北太平洋のきめ細かな流れが再現できた。この結果、海洋での流れは風の影響や表層での熱や塩分の授受により形成された密度の分布場が重要な要素となっていると考えられる。これらを参考に現実的な流れと数値計算で求めるために設計したデータ同化手法を、今年度はアシミレートしないケース(γ=0)について試計算を行った。
 25ケースにわたる感度解析及び試計算の結果から、水温塩分場が時間とともに初期値から離れて行くために起きる流れが認められた。これらのことから半連続的にデータを同化できるγ≠0のケースについて検討していくこととする。
 今回試験的に行ったγ≠0の試計算結果、水温、塩分、密度等はγ=0の場合に比較して、現実の分布に向かって分布形が変化し始めていることが示されている。
■事業の成果

無人潜水艇による海底調査手法に関する調査研究では、別途開発された海底観測ステーションシステム実機の取り扱いを前提とした調査・実験方法の検討を進め、ステーションに付加された自己浮上装置、深度調整用の重錘等に伴う寸法・重量増加及び設置海域の条件を考慮して行った。
 設置及び回収の作業は測量船側が行い、無人潜水艦及び支援船側は設置、回収の支援と海底での作業を分担することとした。
 ステーションの各装置のうち地殻上下変動観測装置については、設置予定海域の海底での状況を調査し、海底はほぼ平坦な砂泥質であり、流れもゆるやかであることを確認した。
 また精密距離測定装置については、受信部、送信部の設置支援後直ちに捜索にかかり、送信部は比較的短時間に海底における設置位置、姿勢及び周囲の状況の確認を行うことができた。
 また、北太平洋海洋変動予測システムの調査研究においては、前年度までの結果に基づいて、数値計算によるデータ同化手法のプログラミングと試計算を行い、25ケースにわたる感度解析と試計算を検討した結果、データ同化手法のプログラムを確立する事ができた。
 ボックスモデルの結果と試計算(γ=O)結果との比較から、通常の3次元の流体力学モデルでは、水温・塩分場と密度場が時間とともに現実の値から離れていき、信頼できる流れの場が求められず、数値計算におけるデータ同化手法が有効な手法である事が再確認できた。
 以上のように、本調査研究は水路業務等の海上保安業務に無人潜水艇を将来導入し保有するための使用方法、調査手法等を調査研究するとともに、海底観測ステーションシステムの開発に伴う海底への調査機器の設置、運用、回収についての試験を行うことにより、無人潜水艇の使用に関する基礎的技術の確立に寄与するものと思われる。





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