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■事業の内容

(1) 保有隻数調査
 小型船舶保有隻数の現状を把握するため、艦種別に既存資料により推計した。
 小型船舶、特に総トン数5トン未満の船舶については、「船舶法」に基づく登録制度がないため、保有隻数を明確に把握することができない。よって、プレジャーボートの保有隻数を(社)日本舟艇工業会の調査した国内メーカー、ディラー等の販売実績、輸入実績等から算出した艇数に、[1]モーターボート(FRP)及び長さ5m以上のヨットについては耐用年数を平均25年±5年とし、21年目以降毎年10%づつスクラップされるものと推定。[2]5m未満のヨットについては、耐用年数を平均15年±5年とし、11年目以降毎年10%づつスクラップされるもとの推定。以上を考慮して推定した。この手法は平成元年度に当財団が実施した「小型船舶の利用者保護体制確立のための調査研究」にて使用した手法であり、日本小型船舶検査機構(JCI)の検査実績と照合しても極めて近似したものであると確認されている。
 調査の結果、1991年末の保有隻数を艦種別にみると、モーターボートは約21万8千隻、ゴムボート約1万3千隻、ヨットは約5万2千隻で合計約28万3千隻となった。水上オートバイについては、1980年の国内販売隻数108隻が1991年には保有隻数約5万7千隻に達した。

(2) 小型船舶所有者の実態調査
 小型船舶の増加及び海洋レジャーの普及に伴って所有者層、マリーナなど保管・係留方法、海洋レジャーの形態、事故やトラブルの内容、特定制度に対する認識等も変化していると考えられる。よって小型船舶特定制度を確立するためには、これらの実態を十分把握しておく必要があるため、小型船舶の所有者を対象に全国的なアンケート調査を行った。
 調査の対象とした船舶は、JCIの検査を受けた長さ12m未満の海洋レジャーに使用されるモーターボート、セーリングクルーザー、水上オートバイ、遊漁船(漁船登録していない遊漁船でフィッシングボート)を対象とした。配付先はJCIの検査を受けた小型船舶所有者の中から全国的に3千人を無作為に抽出して行い、約1千2百人から回答を得た。
【調査項目】
 [1] 所有者の属性、所有艇の種類、所有形態
 [2] 保管場所、維持費用、舟艇の点検・整備、舟艇の利用目的
 [3] 損害保険の有無、事故トラブル
 [4] 小型船舶特定制度、船体識別番号(HIN)について等

(3) 地方自治体に対する実態調査
 特定制度・船体識別番号(HIN)に対する自治体の意識調査を主体にしつつ、海洋性レクリエーションの健全な発展を図るために必要な一般的な基礎資料を整備することを目的に実施した。
 調査対象は47都道府県と横浜市、名古屋市、大阪市、神戸市、福岡市、北九州市の計53地方自治体で、回収数48、回収率91%であった。また、補足的に宮城県等9地方自治体及び周辺の15マリーナでヒアリング調査を行った。
【調査項目】
[1] アンケート記載部署、マリーナ及びプレジャーボートの所管部署等
[2] 保有隻数把握状況、放置艇把握状況、廃船処分状況等
[3] 小型船舶の特定制度についての考え方等
[4] 小型船舶の船体識別番号制度についての考え方等
[5] 水面調整事例について

(4) 特定制度及び船体識別番号(HIN)の導入調査
 特定制度とHINの必要性、HINに盛り込む情報・桁数、対象とすべき船舶の大きさ、輸入艇の取扱い等について調査検討を行った。

(5) とりまとめ
 以上の調査結果をもとに小型船舶特定制度及び船体識別番号の導入方法についてとりまとめた。
[1] 特定制度
 小型船舶の所有者を特定する制度の導入については、最も強く必要性を感じているのは地方自治体であり、その理由として最も大きなものは、放置艇対策であった。しかしながら、特定制度の整備は所有者に新たな義務付けを課すこととなり、また、行政面においても数十万隻といわれる5トン未満の小型船舶の登録事務を円滑に行うための組織・人員体制等をいかに整えるかという問題もある。よって、問題化している地方自治体の放置艇対策の当面の対応策として、JCIの個人情報の開示(船舶の所有者名等個人情報については、これまで船舶の堪航性の保持及び安全確保など船舶安全法の目的に沿った場合に限り限定的に活用されていたが、放置艇対策等公益に資する目的で国または地方自治体から照会があった場合には、法的及び実体的に問題のない範囲で個人情報を開示することとなり、平成5年2月より実施されている。)を利用することとしたが、実施の効果については今後ともフォローアップしていく必要があると指摘した。
[2] 船体識別番号(HIN)
 HIN実施の目的には、[1]小型船舶の財産価値、製造者等の明確化により利用者、流通の円滑化を図る。[2]小型船舶の艇体を特定することにより登録制度の3円滑な実施を図る。以上があるが、実施方法としては、どちらに重点を置くかによって変わってくるものと考えられるが、検討した結果以下の問題点等が明らかになった。
a. 適用対象船舶の範囲
 ISO(国際標準化機構)の範囲との違いをどうするか等。特に既に登録されている5総トン以上の船舶、漁船については必要性は低いと思われる。
b. 小型船舶製造・販売業者の意向への配慮
 商品価値への影響等も考えられるが、HINをISO基準どおりに実施することによって業界の発展が阻害されることはない。
c. 制度の強制力について
 登録制度が目的ならば強制が望ましいが、当面は任意。中長期的視点にたてば利用者保護、国際間の整合性確保のため、ISO基準を導入することが望ましい。
■事業の成果

近年、国民意識の変化等により余暇活動に対する価値観も大きく変化しており、こうした中でヨットやモーターボート等小型船舶を用いた海洋性レクリェーションの健全な振興を図る必要性は益々高くなりつつある。しかしながら、小型船舶については所有者を特定する制度がなく、保有隻数や整備状況等不明なために、安全対策等の利用者保護体制の不備が目立っている。したがって、このような事態に対処するため、平成3年度の調査検討結果をもとに、利用者保護対策として小型船舶特定制度の検討を行った。
 調査の結果、所有者、マリーナの他特に都道府県、大都市圏を構成する政令都市などの地方自治体における小型船舶対策について、対策の実態及び意識を把握することができた。また、放置艇・放置廃船対策、地域住民とのトラブルの解決、プレジャーボートを取り巻く漁業、海運・港湾等の既成産業との水域利用調整等を円滑に行うにあたっては、小型船舶特定制度の導入が必要であるとの見解をほとんどの地方自治体が示していることが明らかになった。一方、特定制度導入により最も大きな影響を受ける小型船舶所有者については、現時点では特定制度に対して必ずしも合意が得られているといった状況ではなく、これは制度そのものに対する要望の低さ、強制的な制度導入による新たな義務付けへの懸念等が反映されていると確認された。さらに今後検討すべき諸問題について指摘することができ、小型船舶の健全な発展に資するものと思われる。





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