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■事業の内容

[1] 国際規則と船舶設計等との関連に関する調査研究
a. 国際規則と船舶設計等との関連調査
(a) 国際規則に対するわが国の意見の取りまとめ及び提案資料の作成
 海上人命安全条約、国際満載喫水線条約、海洋汚染防止条約等に関連するIMO(国際海事機関)海上安全委員会(MSC)、海洋環境保護委員会(MEPC)及び関連各小委員会の資料、それらに対する各国の提案及びコメント、各船級協会の資料等をもとに検討を行い、わが国の意見及び提案資料を作成した。
(b) 上記国際条約・規則等を国内法に取り入れるに際しての問題点の検討を行った。
b. 国際規則と船舶設計等との関連のための調査及び試験
 IMO海上安全委員会(MSC)、復原性・満載喫水線・漁船の安全小委員会(SLF)、救命・捜索救助小委員会(LSR)、無線通信小委員会(COM)、防火小委員会(FP)、設計設備小委員会(DE)、航行安全小委員会(NAV)、コンテナ貨物小委員会(BC)、及び海洋環境保護委員会(MEPC)等、各委員会における審議の推進、並びに各種規則に関連して、次の調査及び試験を行った。
(a) 1966年国際満載喫水線条約の基本的見直し
(b) 退船システムの評価に関する調査研究
(c) 脱出シュータ試験基準検討に関する試験
(d) 実大火災室による燃焼ガス毒性に関する試験
(e) 船舶内装材料熱荷重規定に関する試験
(f) 防火仕切りに使用されるガラスの保全性に関する試験
(g) 火災時に発生する煙の制御方法に関する試験
(h) バルクキャリアの損傷原因に関する調査
(i) 船舶の操縦性基準に関する研究
(j) 高速船の国際基準に関する研究
(k) 新世代衝突予防システムに関する検討
(l) 船舶からの海上大量流出油対策に関する調査・試験
(m) ばら積貨物の安全輸送に関する研究
c. 国際会議出席等
 本年度IMO本部(ロンドン)等で開催された下記委員会に出席し、わが国の意見の反映を図るとともに、国際規則に関連して情報の収集、国際的動向の調査、意見の交換等を行った。それらの結果については、運輸省に報告するとともに、本基準研究部会の各分科会及び小委員会に報告した。
[2] IMO新復原性基準に関する調査研究
 1974年の海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS)採択会議における付帯決議を受けて、IMO復原性・満載喫水線・漁船安全委員会(SLF)において行われている「船舶の復原性規則の改良作業」に対応するため、本年度は、損傷時復原性基準並びに非損傷時復原性基準について、以下の検討作業を行った。
a. 損傷時復原性基準の検討
(a) 100m未満の乾貨物船の損傷時復原性基準
(b) 旅客船の復原性基準
b. 追波中の非損傷時復原性基準の検討
(a) 斜め追波中の復原性の検討
(b) 斜め追波中の転覆現象に関する模型実験及び数値解析
(c) ブローチング発生条件の検討
(d) 追波中操船マニュアル案の検討
(e) 追波中の復原性基準関連シリーズ計算
[3] 内航船の復原性に関する調査研究
 総トン数500トン未満の内航船等については、船舶復原性規則の適用が除外されているが、近年この種の船舶の転覆事故の発生により、十分な復元性を有する船舶の設計が行えるよう、内航船に対する復原性基準の策定が急務とされている。本調査研究においては、同基準の策定に必要な基礎資料を整えるため、前年度に作成されたIMO A.167及びA.562に準拠する「内航船の復原性基準案」に関して、現存の内航旅客船への適用性に係る以下の項目について検討を行なった。
a. 内航旅客船の現況調査
b. 基準案適用試計算
c. 追波中の復原性能
[4] 特定の放射性物質の海上輸送に係る安全性の調査研究
 わが国の原子力政策の根幹である核燃料リサイクルの確立と円滑な運用を達成するためには、使用済核燃料から再利用されたMOX燃料の安全確保を図る必要がある。このため、平成3年度からその海上輸送の安全性についての調査研究を行っている。平成4年度においては次の項目の検討を行い、安全輸送基準策定に資する。
a. 輸送物関係
b. 運搬船関係
c. MOX燃料海上輸送の安全性の評価
[5] 高燃焼度使用済核燃料の安全輸送に関する調査研究
 現在、わが国において稼働している実用軽水炉は、省燃費の見地等から高燃焼度化の趨勢にある。高燃焼度使用済核燃料は濃縮度、発熱量、線源強度が共に高く、在来燃料に比べて危険性の高いものである。従って、これを収納する輸送容器の性能、運送の方法、運搬船の構造・設備等について検討を行い、当該使用済核燃料輸送の安全基準を早急に作成する必要がある。このため、平成4年度においては次の事項について調査研究を実施した。
a. 高燃焼度使用済核燃料輸送容器の安全評価法の検討
b. 運搬船の特別要件の必要性の検討
c. 軽水型実用原子炉施設の実地調査
[6] 火災試験の判定基準に関する調査研究
 近年、IMOにおいては、SOLASの規定に関連する「火災試験方法」に関する審議が継続的に行われて来ており、IMO A.471等、「火災試験方法」を定める多くの勧告が出されている。これらの「火災試験方法」については、一部は既に国内規則において準用されているが、その判定基準については、必ずしも明確化されていない。このため、IMOの火災試験基準について、その判定基準の明確化に関する検討を行う。
■事業の成果

[1] 国際規則と船舶設計等との関連に関する調査研究
a. 国際規則と船舶設計等との関連検討
 IMO等において、規則の制定、改廃に係る検討・審議が行われている船舶関係の国際条約・規則等に関連する各種の事項について検討を行い、提案資料を作成するとともに、制定、改廃が行われた規則等の国内法制化に資する資料を作成した。
b. 国際規則と船舶設計等との関連検討のための調査及び試験
 IMO海上安全委員会(MSC)、復原性・満載喫水線・漁船安全小委員会(SLF)、救命・捜索救助小委員会(LSR)、防火小委員会(FP)、設計設備小委員会(DE)、航行安全小委員会(NAV)、コンテナ貨物小委員会(BC)、及び海洋環境保護委員会(MEPC)等、各委員会における審義の推進、並びに各種規則に関連して、次の調査及び試験を行った。
(a) 1966年国際満載喫水線条約の基本的見直し
 IMO SLFにおいては、1966年国際満載喫水線条約(66LL)の乾舷に関する規定を見直し、近年発展の著しい耐航性理論に裏打ちされた、より合理的なものに改正しようとの提案が審議の課題となっている。
 このため本年度は、前年度に引き続き、任意の甲板上海水打ち込み確率に対応する船首乾舷の高さを導く回帰式の構築について検討すると共に、船首乾舷、フレア等の船型と海水打ち込みの許容限界の関連について検討を行った。
イ. 耐航性理論に基づく船首乾舷決定のための回帰式の構築
 船型要素の影響を取り入れるため、先ず、前年度検討した肥大船型に更に痩せ形船型を加えて、全体で67隻の船型に関する不規則波中における船体相対水位の短期予測を行い、船型要素と船首相対水位のデータベースを作成した。次に、海水打ち込み発生確率ごとの船首乾舷高さを求め、船長、船幅、喫水及び船型要素の関連付けを行って、一定の海水打ち込み発生確率に対する乾舷の大きさを推定する回帰式を求めた。最後に、誘導した回帰式の結果と66LL、並びに中国提案式による結果との比較を行い、これらの算定値に対する評価を行った。
ロ. 船首乾舷、フレア等船型と海水打ち込みの許容限界の検討
 船首乾舷を決定するに当たって重要な要素である海水打ち込みと、それに伴って発生する甲板上水圧の大きさについて検討を加えた結果、船首フレア部の形状によって船首部海水打ち込みの様子は大きく左右され、大きなフレアは青波の発生を押さえること、甲板上衝撃水圧の発生は青波の発生に伴って生ずることなどが判明した。
 これらの検討結果は、条約見直し改正作業に有効な資料としてとりまとめられた。
(b) 退船システムの評価に関する調査研究
 船舶遭難時、迅速に退船行動を全体的にとらえるため、避難シミュレーションモデルを導入して退船時の人の流れを模擬するシミュレーションを行い、避難に要する時間、滞留の発生等について検討を加えた。船体傾斜時及び動揺時における廊下歩行速度及び階段歩行速度が実験結果から求められ、避難完了時間との因果関係が把握された。
(c) 脱出シュータ試験基準検討に関する試験
 IMO LSRで検討されている脱出シュータについて、関連するSOLAS条約改正及び試験基準作成に必要な資料を得ることを目的として、本年度は国内の製造メーカーへの訪問による実態調査、吊り下げ型及び滑り台型のシュータ並びに第一種膨脹式救命筏を用いた試験を実施した。今回行った実験により。荒天時におけるシュータ及び救命筏による脱出方法並びに操作方法等に関する実験資料が得られ、種々検討を行った結果をIMO LSR小委員会へ条約改正案として提出し、救命設備規則改正に資する資料が作成された。
(d) 実大火災室による燃焼ガス毒性に関する試験
 IMO第36回FPにおいて、火災時に発生する燃焼ガスの毒性評価試験方法として、実大火災室を用いる方法が提案されている。そこでその提案に沿った試験を実施し、その実用性及び適合性を検討して、IMOにおける審議に資するとともに、船舶安全性向上に必要な資料を得ることを目的として本研究が実施された。
 ISO-9705の試験方法に準拠した実物大の火災試験室の内壁に張り付けた船舶内装材に点火して火災を発生させ、そのガスに含まれる各種成分(HCN,SO2,NOx,HC1,CO)並びに酸素濃度及び流量を測定し、燃焼発熱量を算出した。これらの結果から実大火災試験におけるガス発生の状況を解析し、当該試験方法の有効性等を検討するとともに、赤外分光ガス分析計を用いた燃焼ガス分析装置を設置して、有毒ガス測定方法を検討した。
 本実験の結果により、当試験方法は、実際の火災の発達をよく再現でき、発生するガスだけでなく、火災の発達を直接示す発熱速度も良く測定できるので、火災の危険性を総合的に調べることができる極めて実用的な方法であることが確認された。
(e) 船舶内装材料の熱荷重規定に関する試験
 IMO第36回FPにおいて、内装材(表面材等)の熱荷重の現行SOLAS条約の規定値45MJ/平方メートルを20MJ/平方メートルに引き下げる提案があり、これに対する意見の提出が各国に要請されている。このため、我が国で建造された客船について居室の内装材等の実状を調査し、使用されている可燃性材料についてISO-1716の試験方法に従って発熱量試験を行い、熱荷重を総合的に調査した。この結果、壁・天井材に関しては45MJ/平方メートルを20MJ/平方メートルに下げても問題は無いと考えられるが、規制の対象となっていない家具、備品の熱荷重が比較的大きいことなどが判明した。
(f) 防火仕切りに使用されるガラスの保全性に関する試験
 近年建造される旅客船には、スプリンクラーによって保護された「防火構造大型ガラス仕切り」が設置されている例が少なくない。これらは、スプリンクラーによって保護されているとは言え、その保全性は、未だ試験によって確認されておらず、IMO FPにおいても、緊急テーマとして取り上げられようとしている。このため、その保全性確認の試験方法、及び構造基準検討のための試験を実施することとした。
 本年度は、小型加熱試験炉、散水装置等を製作し、加熱温度、散水率、散水開始時期等を変えて試験を行い、保全性の要件、並びに散水の無い場合の煙遮断効果等について調査した。
 試験の結果、生ガラスは耐熱性及び耐熱衝撃性はないが、一方、強化ガラスでは、水無しの状態でも14分から20分は耐熱性があり、また、散水を加熱開始後3分以内に開始すれば耐熱衝撃性が保たれ、散水により輻射熱は約1/4〜1/5に減じられ遮断効果は大きいこと等が判明した。
(g) 火災時に発生する煙の制御方法に関する試験
 船舶火災において発生する煙を船内から排出し、未延焼区画への煙の進入を阻止して船舶火災時の人命保護を確保する要件について、将来のSOLAS条約改正を目標として、IM0第33回FPから具体的な審議が開始された。本件に関するIMOにおける審議に対応するとともに、国内法則化のために必要な資料を得るため、平成元年度以来、船舶火災時の各区画への煙の伝播の性状、並びに煙の伝播の抑止・制御方法とその効果について試験研究を実施して来た。
 本年度においては、FPにおける検討の経過を反映して、煙を含んだ高温ガスを送り込む位置、及び排煙・加圧要件に対応する換気装置、並びに防煙装置の作動状態を種々に変えて、前年度に用いた居住区実大模型について煙の伝播試験を実施し、火災時における煙の動きを把握するとともに空調排煙設備の有効性を検証した。さらに、煙の流動に関する数値解析を行い、煙の伝播性状が把握され、防火に対する安全性の検討並びにIMOにおける審議に必要な資料が得られた。
(h) バルクキャリアの損傷要因に関する調査
 近年、ばら積貨物船の海難事故が多発しており、しかもあまり厳しいとも考えられない海象の下で事故が発生しており、IMOでもこのような事故の要因を調査し、事故防止対策をたてることが緊急の課題として取り上げられている。これに対応するため、本研究においては、現存のばら積貨物船について、これまでに発生した船体損傷の記録を調査・解析し、さらにこれら船舶の運用・保守状況、特に船倉内部の構造部材についてその腐食・衰耗度及び塗装仕様並びに貨物の荷姿等について調査を行った。さらに、ばら積貨物船の設計時における想定荷重及び許容応力に関する調査に加え、健全時及び損傷時の船体構造強度についてもFEM解析を行い、構造部材の疲労強度等に関する基礎的な検討を行った。本研究の結果、ばら積貨物船の海難事故の主な要因として、倉内肋骨の衰耗に起因する船側外板のき裂・離脱が推定された。また、船体損傷を未然に防止するための有力なシステムの一つとして考えられる航海記録計の機能についても調査を行い、資料にまとめられた。
(i) 船舶の操縦性基準に関する研究
 IMO DE小委員会においては、'93年を目標として、操縦性基準作成に向けて検討が行われており、その基準が有効に機能するためには船舶の設計時における操縦性能の正確な推定法の確立が最も重要な課題であるとして、操縦性能を推定するためのガイドライン(MSC/Circ.389)を作成し、実船実験、並びに理論計算による関連資料の収集を各国に呼び掛けて来た。これに対応して、わが国においても操縦性能推定法の確立に必要な基礎資料を得るため、本年度においては、以下のシミュレーション水槽試験及び実験試験を行った。
イ. 波浪中での操船運動
 港湾内等における低速での操船時においては、小波高でも短波長の波により、船体は大きな波漂流力を受けて保針が困難になる場合がある。その対策を検討するため、ガスキャリアの自由航走模型船について、波長・波高・船速を変えて、直進試験及び旋回試験を行い、波漂流力とその結果生じる漂流運動成分の調査及び運動推定法のチェックを行った結果、波漂流力に関する知見が得られた。
ロ. 満載状態における操縦性能推定法の向上に関する研究
 操縦性基準の要件は、満載状態に対して設定されると想定されるが、船舶の完成時に行われる「海上公式試運転」は、一般にバラスト状態で行われる場合が多く、その試験結果から満載状態における操縦性能を精度良く推定する方法を確立する必要がある。そこで、タンカー模型について、Zig Zag試験とシミュレーション計算とを実施し、実船の海上試験結果との比較により、バラスト状態の試験結果から満載状態における操縦性を推定する実用的な方法について詳細な検討を行った。
ハ. 操縦性基準の性能レベルに関する研究
 操縦性基準に規定すべき性能のレベルについて、操船シミュレーションにより検討を行うとともに、700隻以上の実船についてのデータベースの資料を解析して、我が国の提案するレベルが設計上対応できる範囲のものであることの確認を行った。さらに、操縦性能実績と船舶の主要目等との関連について調査し、初期設計の段階における操縦性能予測の可能性について検討した。
ニ. 操縦性能推定のための実船実験
 前記ロ.に関連して、バラスト状態の試運転結果から満載状態における操縦性能を推定するため、さらに試験精度に関する検討を行うため、3隻のタンカーについて旋回性能試験、10゜/10゜Z試験、20゜/20゜Z試験及び緊急停止性能試験を実施して、基準性能との比較が行われた。
(j) 高速船の国際基準に関する研究
 近年の目覚ましい技術の向上により、高速化・大型化・多様化が急速に進む高速船について、その安全基準を確立し、高遠船の技術開発の急速な発展に対応して行くことが緊急の課題とされている。
 IMOにおいても、限定された旅客船を対象とする既存の高速船基準(DSCコード)を見直して、より広範囲の高速船に対応する基準(HSCコード)の制定を目指して検討が行われている。この様な情勢に対処するために、当調査研究においては、平成元年度から4カ年計画により高速船の安全基準に関する検討を行って来た。
 本年度においては、構造強度、防火構造・消防設備、運航体制の3部門に分けて、以下の検討を行った。
1) 構造・強度基準に関する検討
イ. 高速船構造基準(案)の検討
 新型式高速船については、荷重設定及び強度評価等に関して解析的手法により設計を行う解析準拠型の「高速船構造設計ガイドライン案」をまとめるとともに、一方、在来型で実績の多い単胴船を対象として「規則準拠型基準案」の検討を行った。
ロ. 高速船の外力及び構造応答の検討
 単胴型高速船の波浪中衝撃水圧実験の計測結果と既存基準との比較を行うほか、水中翼船について波浪中運動応答に関するシミュレーション計算を行い、荷重設定法について検討した。また、SES模型について波浪衝撃荷重の計測を行い、応答計算及び荷重設定の方法について検討を行った。
 さらに、水中翼船の水中翼システムの強度評価についても検討を加えた。以上に加えて、アルミ合金の溶接継手について重畳ランダム疲労試験を実施し、疲労強度に関する資料が得られた。
2) 防火構造・消防設備基準に関する検討
イ. 将来船舶の防火材料及び散水消火装置の性能要件に関する試験
 高速船の居住区の内装材料等の可燃材が持つべき難燃性、発熱性などの防火性能要件、並びにそれに関連して、スプリンクラーなどの散水消火装置の性能要件を実験的に検証するため、船室に相当する実物大の火災試験室内で椅子等を燃焼させ、スプリンクラーで消火する試験を実施して、水量、作動開始時間及び消火能力等の関連を調べた。
 その結果、効果的に消火するためのスプリンクラーの必要散水量及び作動開始タイミングは、内装可燃物の燃焼特性に依存することが明らかとなり、散水消火装置の性能要件と内装材料の防火要件は、発熱量及び発熱速度と関連して策定されるべきことが判明した。さらに、高速船に適した軽量のスプリンクラーシステムの実用化が可能であることが確認された。
ロ. 火災感知器の応答性能評価
 火災安全基準を総合的に検討する際、消火・避難の迅速さを評価するうえで基準となる火災感知器の応答特性を実験的に把握する必要がある。
 本年度は、非火災報率を抑えるとともに応答性を高めるための複数センサーの採用並びに一酸化炭素センサーの併用等の試験を行い、避難安全と感知器応答の関係並びに新形式感知器の高速応答スプリンクラーへの適用性等について調査した結果、感知器の応答性向上のためには、設置密度を上げることが有効であることが判明した。
ハ. 避難安全に関する研究
 船舶の火災安全対策には、発火防止、早期感知・消火・延焼防止、避難等があるが、船体重量の見地から特に制約をうける高速船にあっては、防火仕切りの重量を極力制限し、他の項目で補う必要がある。そのため、特に避難に着目し、高速船火災安全基準案で必須要件とされる避難時間の算定のために必要なプログラムを開発して、3層甲板を有する高速旅客船について設定された避難経路に沿って避難行動する過程のシミュレーション解析を行った。その結果、ドア部、階段等での滞留が大きく、避難時間に影響を与えていること等が判明した。
ニ. 高速船火災事故想定の検討
 高速船の火災安全性を総合的に評価するためには、出火、延焼、煙拡散、避難等の各段階において起こり得る事象を想定し、それぞれの段階における危険性を総合的に評価するための基本思想の構築が必要である。そのため、前年度に引続き、「高速船の火災事故想定シナリオ」について考察を加え、新しい火災安全基準案の作成に必要な安全水準の考え方について検討を行った。本シナリオにおいては、多重防護と機能要件化を基本とする火災安全の思想に拠っており、安全対策の水準を決定するために必要な事故シナリオの検討方法については、出火防止及び消火設備に関する事例を示して解説を行った。
3) 運航体制に関する検討
 本年度は、4年計画の最終年度として、高速船運航技術の評価方法の確立と運航体制のあり方を提案する事を主目標として下記の項目につき検討を行った。
イ. 高速船運航の安全性評価法の確立及び運航体制の評価
 本年度は、操船シミュレーションの改良を行うと共に、前年度検討した「高速船運航のための運航体制」について、操船シミュレータ実験を通じて検討を進めた。これによって、高速レーダー、ARPA、暗視装置、識別灯の装置類、当直配置、訓練効果等の人的要素、更に、航行ルール、輻輳度等の航行環境まで広範囲にわたり高速航行の安全性に与える影響を評価した。
ロ. 高速船の安全運航のための航行環境調査
 船舶航行システムの3構成要素(船舶、航行環境、運航者)の一つとしての「高速船の航行環境」について、本年度は高速船の安全運航を図る観点から、主として海上交通法規に関連する航法に焦点を絞って検討し、関連する海上法規の改正点の提案を行った。
ハ. 評価シナリオの作成と被験者の派遣
 航行安全を評価する場合の遭遇シナリオを作成すると共に、シミュレータ実験で操船する被験者として、大型在来船及び中型高速船の現役操船者を選定した。
ニ. 高速船運航要員の教育、訓練
 高速船運航の安全を確保するためには、船体・設備、航行環境の整備と共に、運航要員の能力維持向上の体制整備が不可欠である。そのため、国内外の高速船運航の例を対象として入手した関連資料を基に、現状における運航要員の教育、訓練の実情を取りまとめると共に、今後の指針として、特定のルートで使用される特定の船を操船するために必要な教育、訓練のあり方について取りまとめ、具体的なカリキュラム、方法、施設、期間等についての提案を行った。
ホ. 高速船の運航体制の提案
 操船シミュレータ実験による評価結果等に基づき、国内における高速船の安全運航を目指した高速運航のための運航体制のあり方について検討し、航法設備、運航要員、航行支援、運航要領に分けて「高速船運航体制基準案」を提案した。
(k) 新世代衝突予防システムに関する検討
 現在、海上における衝突予防は海上衝突予防法等の交通規則の順守によって行われているが、前広に他船の運動を予測する方法としてレーダートランスポンダの利用が可能となれば、より有効な衝突防止手段となることが前年度の調査により判明した。このような観点から、船舶間で操船意志の伝達ができる衝突予防システムについての検討を行い、船舶の航行の安全性向上に資することを目的として、本年度は、舵角信号変換装置とレーダートランスポンダの組合わせによる衝突予防システムを製作し、仕様どおりの性能が発揮し得るかどうかを陸上電波暗室内においてその性能を調べた結果、その有効性が確認された。
(l) 船舶からの海上大量流出油対策に関する調査・試験
 平成元年3月、アラスカ沖において発生したVLCCの海難による油流出事故を契機として、船舶からの油流出を低減するため、IMOにおいては二重船殻の導入等に関するMARPOL条約改正の審議が行われ、平成4年3月第32回MEPCで採択されて平成5年に発効が見込まれている。油タンカーの主保有国であり、かつ主要造船国であるわが国としては早急に対応を検討する必要があり、平成2年度から4年計画で船舶からの海上大量流出油対策に関する調査・試験を実施している。本年度においては、以下の項目につき検討を行った。
イ. 座礁・衝突時における燃料油タンクからの油流出に関する検討
 船舶の座礁・衝突時において、外板に接する燃料油タンクから流出する燃料油の挙動を実験的に確かめるため、破口を有する模擬タンクからの油流出実験を行った結果、破口からの油流出は燃料油の粘度及び積付率により影響されることが確認された。これにより、タンク底部の燃料油を高粘度状態のまま保持し、機関への供給管内等で燃料油を加熱するよう対策を講ずれば、座礁時に、二重底等に設けた燃料タンク底部からの油流出を軽減できることが判明した。
ロ. 確率論的手法による船体構造強度評価に関する検討
 船体の衝突・座礁事故時の油流出防止に対するタンカーの二重船殼構造の有効性に関する検討の一環として、確率論的手法を用いた損傷規模の確定及び油流出量の計算を行った。衝突時については、衝突船の運動エネルギーの頻度分布から被衝突船の船側への突入量についての確率を求め、また岩礁座礁時に関しては、単殻、二重船殻及び中間甲板の3種類の構造型式のVLCCタンカーについて船体損傷長さ、油流出の確率ならびに潮位差及び浮力喪失による曲げモーメントの解析を行い、3型式の構造様式についての評価に必要な資料が得られた。
(m) ばら積貨物の安全輸送に関する研究
 SOLAS <6>章の全面改正に伴い、液状化または荷崩れの危険性を





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