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■事業の内容

本開発研究は、海水浴場等、浅海域における水面・水中・水底のゴミを効果的に除去するクリーン作業船の開発を目標とし、平成3年度から3ケ年計画で実施するものである。平成3年度は、要素技術の検討、波強制力に推定計算と安全性の検討及び模型実験による安全性の確認を行い、これらの成果をとりまとめたものである。
(1) 要素技術の検討
 クリーン作業船が稼働する浅海域における作業条件のもとで、波強制力を最小にする形状ならびに機器配置を検討した。
(2) 波強制力の推定計算と安全性の検討
 前年度実施された予備検討では、直方体を基本とした比較的単純な形状のものを対象とし、船体運動学の分野で用いられているストリップ法によって概略計算を行った。
 しかしながら、今回開発するクリーン作業船は非常に複雑な形状であるため、これに作用する流体力を求める計算法として三次元特異点分布法を採用し、安全性の検討を行って、以後実施される模型試験結果との対比に供した。
(3) 模型実験による安全性の確認
 浅海域を模擬した水槽において、波強制力試験及び自由模型による波浪中試験を行い、クリーン作業船に対する波強制力特性を調べるとともに、転倒・滑動に対する安全性の確認を行った。
[1] 実験水槽
・ 長さ×幅×水深 : 60m×30m×0〜2m
・ 造波機     : 最大波高0.15m
・ 海浜傾斜    : 1/10
[2] 供試模型
 実機の1/5の縮尺模型を製作した。重量中心位置を相似にするとともに、浮力部も相似にした。
・ 長さ×幅×高さ : 1,000mm×460mm×740mm
・ 空中重量    : 80kgf
[3] 実験方法
a. 波強制力試験
 供試模型のクローラ部に取付けたロードセルを水槽底に固定し、5成分の波強制力の計測を行った。波浪条件は、規則波及び不規則波とし、波高一定で波周期を数種に変更した。
b. 波浪中試験
 供試模型を水底面に対して自由状態(ロードセルを外した状態)に設置し、規則波及び不規則波中での転倒・滑動の状況を目視観察した。
(4) 成果のとりまとめ
上記の研究成果をとりまとめて報告書を作成し、委員ならびに関係機関に配付した。
■事業の成果

本事業は、海水浴場等のゴミ汚染に対処するため、海浜の波打際など比較的水深の浅い場所での水面・水中・水底に存在するゴミを効果的に回収することを目的とした「浅海域クリーン作業船」の開発を行うものである。平成3年度は、クリーン作業船の要素技術の検討・波強制力の推定計算と安全性の検討及び模型実験による安全性の確認を行った。 
(1) 要素技術の検討
 前年度に提案した当初のクリーン作業船の形状について、水深1.5m、有義波O.5mにおける転倒・滑動に対する安全性を検討したところ、不安定であることが判明した。
そこで、機体の下部形状に以下の対策を施した。
・ 空中重量の増加(バラスト)
・ 浮力の低減(形状の見直し)
・ 上下方向波強制力の低減
・ 左右方向波強制力の低減(側面投影面積の減少)
 上記対策の結果、転倒に対して2.7、滑動に対して2.1という安全率が得られた。
(2) 波強制力の推定計算と安全性の検討
 複雑な機体に作用する流体力を計算するために、三次元特異点分布法を採用し、没水部の物体表面を多数のパネル(四辺形)に分割して計算した。計算条件及び項目は次のとおりである。
・ 水深   : H=1.0、1.5m
・ 波    : 規則波(波方向90')
・ 検討項目 : 左右・上下方向波強制力、横方向波強制モーメント
[1] 左右方向波強制力
 本機の滑動に対する重要な外力である。単位波振幅当たりの波強制力振幅の最大値は、水深1.0mで4.8t、水深1.5mで7.2tである。
[2] 上下方向波強制力
 本機の接地に関連した外力である。単位波振幅当たりの波強制力振幅の最大値は水深1.0mで2.3t、水深1.5mで1.0tである。水線面積を極力小さくするといった対策が有効に影響している。
[3] 横方向波強制モーメント
 本機の波力による転倒に対する外力である。単位波振幅当たりの転倒モーメント振幅の最大値は、水深1.0mで4.0ton・m、水深1.5mで4.9ton・mである。
(3) 模型実験による安全性の影響
[1] 波強制力試験
a. 規則波中試験
 浅海域では、波の谷がつぶれ、逆に波の山が鋭く立ち上がるという波形変化が認められた。
 左右方向波強制力は、陸側に押される方が大きく、波高0.5mで約2tである。滑動に対する安全率は2程度で、滑動に対する問題はない。
 転倒モーメントは、陸側に回転する方が大きく、波高0.5mで約1.5ton・mである。安全率は5程度であって、全く問題はない。
b. 不規則波中試験
 水深1.5mの場合、波高0.5mにおける滑動に対する安全率は、左右方向波強制力の有義値について2.0〜2.7で安全である。
また、転倒に対する安全率は7.8〜8.1で問題ない。
[2] 波浪中試験
模型を水底に対して自由状態にして転倒・滑動の状態を観察した。
 水深1.0mでは全く滑動しない。水深1.5mの場合、波高を許容条件の4倍の2.2mにしたところ、最大5m程度滑動した。しかし、転倒は如何成る条件でも発生しなかった。
[3] 実験値と計算値の比較
 上下方向波強制力、左右方向波強制力及び転倒モーメントについて、先に求めた計算値と実験値とを比較した。
 一部、両者の差異が大きいところもあるが、設計における実用的な見地からみると全体的に両者はほぼ満足できる程度に一致していると評価できよう。
(4) 予想効果
 改善された機体形状に対する波強制力の推定計算及び模型試験の結果、滑動・転倒に対する安全性は十分であることが検証された。
 また、当初危惧された沖側への滑動・転倒は全く問題にならないこと、ならびに今回開発された浅海域における波強制力推定計算方法は、ほぼ妥当なものであることが確認された。
 以上の成果は、来年度に予定されている実証機の設計・製作に極めて重要な知見を与え、今後の浅海域のクリーン作業に対する研究の素地を示したものと思料される。





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