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■事業の内容

(1) 地域造船産業振興調査(中部地区)
[1] 中部地区における造船業及び関連工業の現状
 調査の基礎資料とするため、県内総生産、製造業製品出荷額、産業別就業者数等中都地区経済の概況、造船事業者の企業規模、建造修繕実績、舶用製品の生産実績、輸出動向等中部地区造船業及び関連工業の現状を調査し、これらをとりまく環境について把握した。また、需要予測調査として、西暦2000年までの同地区新造船及び修繕船の需要予測を、[1]大型船舶(建造許可対象船舶:2,500GT以上)、[2]中小型船舶(5GT以上、5,000GT未満の鋼船の内、航船舶)、[3]漁船(5GT以上50GT未満の海水動力漁船)、[4]プレジャーボート、[5]修繕船需要の5つの分類について算出した。
[2] 中部地区の造船業及び関連工業の直面する問題点と活性化
 我が国及び中部地区の造船業及び関連工業の現状把握から、現在造船産業が直面している問題点として、仕事の山谷と労働力不足、設備投資の停滞と生産性の停滞、経営基盤の脆弱化等の抽出を行った。また、それらを踏まえた上での活性化に向けた課題として、労働力の確保、生産性の向上と技術開発の推進、経営基盤の強化と経営体質の近代化について、それぞれ調査分析を行った。
[3] 造船業及び関連工業における生産性の向上と良質な労働力の確保
 生産性の向上と良質な労働力確保に向けての課題として、機械化・自動化等による生産の向上、労働集約型産業から知識労働集約型産業への転換、産業イメージの向上や労働条件の改善等による労働力の確保等について調査検討を行った。また、中部地区造船業における労働力不足、労働条件の実態及び若者の就職意識の実態と就職動向について調査を行い、良質な労働力確保のための改善等について検討を行った。
[4] 造船業及び関連工業における新分野開拓と経営の多角化
 大手、中小の造船業及び関連工業における技術開発の現状を把握し中小造船所等での技術開発テーマの発掘・技術開発を推進する方策等について検討を行い、技術を中心とした新分野の開拓方向について明らかにした。また、今後ますます多様化・活発化すると予想されている海洋性レクリェーションについて、その関連事業への進出事例を調査し、多角化方策の1つとして提案した。
[5] 情報ネットワーク化への展望
 将来的に中小造船業にとって重要な課題となる情報ネットワークの形成について、その概念、他産業の実例調査、造船業・関連工業で考えられる方向について検討を行った。
[6] 魅力ある造船所像
 以上の調査結果により、魅力ある造船所像の必要性、基本的条件、将来イメージ等についてとりまとめた。
 今回の調査の結果、中部地区造船業及び関連工業は、不況を脱出し明るい兆しが見えてきたが、長期構造不況の中で不況産業イメージが定着したことや、若年労働者の意識の変化等により、若年労働力の獲得が困難な状況にある。また、過去2回にわたる合理化による大幅な人員整理の影響があって、労働者が高齢化しており、日本の優れた造船技術の伝承という点だけでも将来に対する概念がある。舶用工業や大手、中堅の造船業などでは、機械化、自動化(コンピュータ化)などに対応した技術者への需要が高まってきており、そうした人材を獲得するため、賃金などの労働条件の向上とともにいわゆる3K労働を解消した労働環境の改善など、企業の魅力を向上させる必要性が高くなってきている。よって、今後造船業及び関連工業が活性化していくための主要課題として、[1]良質な労働力の確保、[2]仕事の相互融通と共同化(分業化)への展開、[3]機械化・自動化と技術開発の推進、[4]収益性を重視した経営姿勢と造船業界の強調、等が必要であることを指摘するとともに、長期的な視点に立った「魅力ある造船所像」を提案し、関係業界はこれらの課題に一致結束して対処し、魅力ある産業づくりに邁進していくことが必要であると指摘した。
(2) 造船業及び造船関連工業の経営者セミナー
 造船業及び造船関連工業の経営者及び造船関係団体の幹部を対象に経営者等がこれからの経営指針として正しい認識と的確な判断を養うため政治、経済、景気等の諸問題について一流講師8名による講演会を京都において3日間行った。
[1] 講演場所:京都グランドホテル(京都市下京区堀川塩小路)
[2] 開催年月日:平成2年8月1日〜3日
[3] 講師及び演題
a. 石川島播磨重工業(株)社長            稲葉興作氏
「見込み違い、失敗からの反省」
b. 運輸省海上技術安全局長             戸田邦司氏
「造船業をとりまく国際問題」
c. 政治評論家                   飯島清氏
「我が国の政治の動向と焦点」
d. 外交評論家                   加瀬英明氏
「国際政治とこれからの日本」
e. (株)三菱総合研究所取締役会長          牧野昇氏
「90年代の世界と日本」
f. 政治評論家                   屋山太郎氏
「日米摩擦を打開するには何が必要か」
g. 東海銀行調査部次長               岡正生氏
「世界の景気の行方と為替・金利」
h. 聖路加看護大学学長               日野原重明氏
「あなたの心臓を守るために」
[4] 受講者数:260名
※ 本事業は平成3年4月30日完了予定である。
■事業の成果

我が国の造船業及び造船関連工業がその経営の活性化を図り、引続き国際的優位性を維持していくためには、技術開発の促進、船舶需要の喚起、新たな海洋事業分野への転換等を図るとともに、高度情報化時代の中でますます複雑化・多様化していく社会的ニーズを迅速かつ的確に把握し、これらのニーズに応えていくための体制を整備することが重要な課題である。よって、本年度においては、中部地区について地域造船産業振興調査を実施した。
 調査は、中部地区造船業及び関連工業を今後活性化し、魅力ある産業として再構築していくことを目的に、これを実現していくための諸方策について調査研究を行った。調査の結果、同地区造船業及び関連工業が現在直面している問題点、及び今後活性化していくための主要課題を具体的に指摘することができた。とりわけ、造船業は人間の技能に依存せざるを得ない現場部門を有することから、当面の課題である良質な労働力の確保のための方策を提言することができたことは、魅力ある造船産業への再構築に寄与するものであり、造船産業のの振興に資するものとなった。
 また、経営者セミナーにおいて、我が国における著名な講師が経営者に対し、国際環境、経営、経済、文化等にわたり講演を行うことは、経営の適切な判断と正しい認識を養うものであるとともに、同じ目的を持つ企業等が一同に会し親交を深めることは、造船関係事業の明日への活力となるものであり、今後の振興に資した。





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