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■事業の内容

(1) 新規防汚剤の化審法による試験
 事業に参加した塗料メーカーより、塗料化技術と防汚性とについて概略の目処が得られている新規の防汚剤の提案を行い、合計14種類の防汚剤を選定した。このように多数の防汚剤が候補となったため、次の手順により事業を進めることとした。
[1] 化学物質のデータ検索等資料収集
 この14種類の化学物質についてデータ検索を実施し、化審法に従った試験実績がなく試験が必要なものを選別した。その結果、1つの防汚剤について一貫した化審法試験を実施せずに、より多数の防汚剤について化審法手順の必要段階の試験を幅広く実施することが必要との結論を得た。このため事業計画の変更を行い、以下の諸試験を実施した。
[2] 活性汚泥中における微生物分解性試験
 分解性がよく長期毒性も低いと想定された化学物質2種類{N,N-ジメチルクロロフェニル尿素、N-(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド}について試験を実施した。前者は難分解性を示したがデータ検索の結果から低濃縮性、復帰変異試験は陰性と推定されるため、これ以降の化審法試験を実施すれば安全な防汚剤と認められる可能性が高まった。また後者は加水分解して食分解性物質に変化することが認められたため、安全に使用できる目処が得られた。
[3] スクリーニング毒性試験1(細菌を用いる復帰突然変異試験)
 データ検索より、比較的安全性が高いと想定されるがデータのない化学物質4種類{N,N-ジメチルクロロフェニル尿素、N,N-ジメチル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、2-ピリジンチオール-1-オキシド亜鉛塩、および2,4,6-トリクロロフェニルマレイミド}の試験を実施した。いずれの結果も陰性であったが、分解生成物に対して追加試験を要するものがあった。
[4] スクリーニング毒性試験2(ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験)
 データ検索より、比較的安全佳が高いと想定されるがデータのない化学物質4種類{2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シンクロプロピルアミノ-s-トリアジン、2,4,5,6、テトラクロロイソフタロニトリル、N,N-ジメチル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、2-ピリジンチオ-ル-1-オキシド亜鉛塩}の試験を実施した。いずれも弱い陽性、または疑陽性であったが、来年度以降の反復投与毒性試験の結果により安全性が判定できよう。
以上の結果、防汚剤として塗料に使用可能と考えられるもの、今後の反復投与試験の候補となるもの、及び有機化学物質でないため化審法の対象外と想定されるもの、等がほぼ明らかになった。
(担当場所:塗料メーカー)
(2) 塗料中の防汚剤の溶出分解性の研究
[1] 海水中への溶出速度測定
 海水を入れた恒温槽中の回転円板式試験装置を試作し、TBT塗料と2,4,5,6、テトラクロロイソフタロニトリル含有塗料(以下、候補塗料と称する)とを用いて溶出速度を測定した。また次に示す海中浸漬試験にも溶出速度測定用の試料を加えた。溶出速度は時間と共に変化するが一定の傾向がなく、候補塗料はTBT塗料に較べて1桁低い値となった。文献データとの比較検討、精度に大きく影響する分析法など、今後の進め方について多くの知見が得られた。
[2] 海水中での分解性に関する試行実験
 溶出速度実験と同じ試料を用いて、恒温槽中で分解性の実験を行った。実験条件は、光の有無と海水中の微生物の有無とし、表層海水の状態を模擬した。候補塗料はTBT塗料に較べて分解性が著しく高く、また光よりも微生物による分解の方が効果が大きいと認められた。さらに、精度の確認とデータの詳細な検討が必要である。
[3] 分解性に関する文献調査
 TBT,TPTなどを中心として十数編以上の文献を調査し、実験の参考とすると共に、データの比較検討に利用した。
(担当場所:船舶技術研究所)
(3) 塗料の防汚性の研究
 造船所3個所、塗料メーカー8個所で方法を統一して海水中浸漬試験を実施し、1か月及び3か月の付着状況を調査した。試料は化審法試験で選定された14種類の他に、TBT、亜酸化銅等の比較試料を加えた31種類である。付着生物の種類と量は海域による差が大きいことが認められ、また季節の影響も予想されるため、今後さらに継続して実験を継続する。
(担当場所:日立造船他)
■事業の成果

船底防汚塗科は船体抵抗の増加を防止し、燃料消費の経済性を向上させるために大変重要なものである。十数年前に開発された有機スズ防汚剤のTBTやTPTは優れた防汚性を有するものの、環境中への蓄積影響、人体への長期摂取の場合影響が問題視されるようになり、化審法によりその使用が厳しく規制されることとなった。
 本事業は有機スズに替る安全有効な防汚剤を見出すことにあり、その環境保全性と安全性とを確認するためには、化審法に従った試験を実施すると共に、防汚性も含めて各方面の有識者の評価を得ることが必要である。本年度の成果として、数種類の有力な新規防汚剤の候補が選ばれた。これらをさらに絞り込み、また他の候補も追加して、化審法の反復投与試験や防汚性の結果を用いて評価することにより、安全適切な防汚剤が選定できるものと考えられる。





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