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■事業の内容

(1) 波浪とそれに伴う当舵による船速変化及びその推定法の現状調査
[1] 全体計画
 本事業の3年間の全体計画を検討し、成果のイメージを確立した。最終年度に出来上がる波浪影響修正法では、大型計算機による処理と、パソコンによる処理とを適切に複合させたような規模を想定することとなった。
[2] 推定法調査
 アンケート方式により現状調査を行うと共に、各種文献の調査を行い、本事業に利用できる内容を抽出した。
[3] 解析
 アンケート結果と調査資料の内容を整理・分類し、波浪影響の修正法の必要度が大きいこと、試運転の約20%で何等かの修正を行っていること、概略2%程度の低抗増加が見込まれること等が把握でき、さらに貴重な実績データが多数得られた。
[4] 検討
 解析結果を基に、実験、解析等を実施する上での重点事項を固め、それらが修正法の精度へ与える影響度を検討した。
(担当場所:日立造船他)
(2) 水槽試験
[1] 実施方法の検討
 現状調査の解析、検討の結果と、[3]の理論による推定法との関連を検討し、水槽試験の実施方法、計測内容等を決定した。
[2] タンカー船型テスト
 肥大船の典型例として、SR196で採用されたタンカー船型を用い、長波頂の規則波又は不規則波と、各方向からの短波頂不規則波とにおける船速低下量を測定した。FnはO.129、有義波高は3cm,5cmである。また、コンテナ船型についても、短波長の斜め波中で実験を行った。波長船長比はO.3と0.5、FnはO.15〜0.3である。船速低下量には、当舵と偏角の変化量が大きく関係することが明らかになった。
[3] 確率論的実証試験の予備試験
 不規則波中では抵抗をはじめ、各種の測定値が不規則に変化し、限られた計測時間では誤差が生じるため、充分な距離を航走した場合の波振幅時系列と分散値の収束性を検討した。この結果、追波の場合の収束性が悪く、修正精度の問題点となることが明らかとなった。
(担当場所:横浜国立大学、大阪大学、船舶技術研究所)
(3) 理論による推定法の検討
[1] 波浪中航走時の力学モデルの検討
 低抗変動と推力変動の釣り合いに関する従来の丸尾式を改良し、定常横力と回転モーメントに関する理論式を得た。また半役回転楕円体を用いてデイフラクション成分の検討を行い、力学モデルの改良手法に利用した。
[2] 定常力の計算法検討
 上記のモデルを用い、3次元特異点分布法による低抗増加の計算式を作成して計算を実施し、実験値との比較検討を行い、問題点を抽出した。
[3] 自航要素の推定法検討
 操縦性力学モデルを基として、回頭、横流れ、当舵に伴う自航要素の変化等を検討し、関連する要素ごとに修正法に及ぼす影響度を明らかにした。
(担当場所:東京大学、九州大学他)
■事業の成果

船舶竣工時の速力試運転は平水中の速力を確認するための重要な性能試験でありながら、多少の波浪があっても実施せざるを得ない場合が多い。潮流や風力の影響に対する修正法は確立されており、統一的な方法が採用されているが、波浪の影響は複雑であり、理論は不十分で利用できるデータも少なく、精度のよい適切な修正法がない。
 本研究は、この波浪の性質や波の方向、波浪に基づくいろいろな船体運動、及び当舵等の操船による影響を整理解析し、精度のよい統一的に使用できる波浪影響修正法を見出そうとするものである。
 平成2年度はその第一年度であり、まず試運転状態と、その計測データ解析の実態を調査し、問題点を整理できた。その結果、修正法の具体的な実用性を考慮してその規模を定めた。さらに、波浪による船体応答に基づく低抗増加を実験と理論の両面から検討した。このような問題は、従来は操縦性や船体運動の問題として捉えられていたため、波浪影響の修正という見地から、目的に合致するような理論の再構築が必要であり、その初年度の目的は達成されたものと考える。





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