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■事業の内容

(1) ハイリースキュードプロペラの流力性能に関する研究
[1] 実船プロペラ翼面圧力計測
 供試用HSP(3.6mφ、5翼、スキュー角45°)を新らたに製作し、溝加工を行った後、昨年度のCPと同様24個の圧力計(PS-5KB及びPS-2KB)を0.7Rと0.9Rを中心にNo.<2>及びNo.<4>翼のバック面に各6個所、No.<3>翼のフェイス面に6個所、No.<5>翼のフェイス面とバック面に各3個所取付け、配線工事を行った。
 加工された供試HSPはプロペラ工場からNKK浅野ドックまで運搬し、入渠した青雲丸に対して10月23日〜27日の5日間プロペラ換装、配線工事、有線テレメータ取付け、その他計測準備工事を行った。
 実船実験は1990年10月27日〜11月2日に相模湾伊豆七島付近で、昨年と同様の圧力計測システム(有線テレメータ方式)を用いてプロペラ回転数70、90、100、110、149、163RPMの6状態において行われ、多数の有益なデータを取得できた。
 これらのデータはパソコンで解析し、昨年度のCPによる計測結果と比較した結果、次のような点が明らかとなった。
〇 1回転中の荷重度をCPとHSPで比較すると、0.7Rの前縁近傍ではCPの方が大きく、0.9Rの後縁近傍から翼端にかけてはHSPの方が大きい。
〇 半径方向の圧力分布は、CPでは翼端において急激に荷重が減少していることが想像されるのに対し、HSPでは翼端で持っている荷重が非常に大きい。
〇 揚力面理論による計算結果と計測結果を比較すると、CPの0.9R、HSPの0.7Rより内側において、正面側の圧力を波形としては計測と同じであるが低めに計算する傾向がみられる。背面側の圧力は右舷側ではほぼ計測値と合っているが、左舷側では計算値が低めになる傾向がある。
〇 HSPについて渦格子法による計算結果と計測結果を比較すると、圧力係数の定量的な一致は劣るが圧力分布の形状はほぼ合っている。CPに比して計算精度が劣るので更に改良する必要がある。
(担当場所:船舶技術研究所、横浜国立大学)
[2] トレーサーによる三次元流場計測
 昨年度のCPによる実験と同様、青雲丸船尾部に各機器誘導管、各機器台等を溶接し、計測機器としてCCDカメラ3台、ストロボ装置1台、トレーサー放出管6本を取付けた。但し、昨年度の経験からかなり精度向上対策が図られた。
 流場計測実験は青雲丸によりa.項の圧力計測と同時期に90、110、145RPMの3状態で行った。トレーサー球は比重が1.04と1.4の2種類で全部で2,892個投出流向及び流速は、これらのトレーサー球の動きをCCDカメラで連続撮影し、得られたデータを電算処理して伴流分布図を求めた。
 その結果次のような点が明らかとなった。
○ プロペラ回転数が増加すると、伴流係数値は小さくなる。
〇 2次流れとしては、ビルジ渦の一部のようなものが観察された。
〇 CP装着時とHSP装着時の流れを比較すると、後者の方が伴流が狭く、2次流れが小さい。
○ 実船推定伴流分布との比較では、船体中央部を除いては計測した伴流係数値の方が大きく、伴流幅が広くなっている。
(担当場所:東京大学)
(2) ハイリースキュードプロペラの強度に関する研究
[1] 実船(青雲丸)プロペラ翼応力計測
 昨年度のCPによる実験と同様、歪ゲージはKFW-5-D16-11-L500を使用し、取付け位置も昨年度と同様プロペラのNo.1翼フェイス面0.7R、0.8R及び0.9Rの3点にプロペラ工場において貼付け、配線、防水工事等を行った。その後、加工された供試HSPはプロペラ工場からNKK浅野ドックまで運搬し、(1)の実験と同時期にドック内工事を行い、計測準備を完了した。
 実船計測も他の実験と同時に翼面上3か所の点について昨年同様FMテレメータ方式の計測システムにより70、90、110、149RPMの4状態で行われた。
 計測データを解析した結果、次のような点が明らかとなった。
〇 応力分布は翼角度位置が45°付近で各回転数とも急激に大きくなり、回転が進むにつれて多少の凹凸はあるものの漸滅する傾向がみられる。
〇 応力値は、回転数が増加するに従ってその最大値も増加している。
〇 応力の最小値は各回転数とも310°付近にある。
 また、プロペラ軸への歪ゲージの直貼りによる2方式のスラスト計測を行い、解析の結果、出力の大きい歪ゲージ(N型半導体ゲージ)を用いるとヒラリデス方式の計測が可能であることが明らかとなった。但し、計測値に対してトルク影響の修正が必要であり、ゲージ貼付時の芯のくるいを無くすことが重要である。特に2方向ゲージの直交度に製作誤差のないことを確認する必要性が明らかとなった。
(担当場所:船舶技術研究所、大阪大学)
[2] 模型プロペラ翼応力計測法の開発
 実船計測に対応して、模型において翼応力を計測し、実船と模型との相関を調べることを目的に、計測装置として、5チャンネルの有線テレメータ方式の送受信器の製作、供試模型プロペラとして、直径221mmのハイリースキュードプロペラの製作を行い、この模型プロペラに実船プロペラに対応する位置に歪ゲージを貼付ける方法(埋め込み方式)とプロペラ表面への直貼り法の2種類の計測方式により実船試験対応の翼応力計測を行った。
 これらのデータを解析し実船での計測結果と比較した結果、次のような点が明らかとなった。
〇 実船データはプロペラ回転数によらず大略一定となっている。
〇 0.7Rでは半径方向も円周方向も一部の低回転でのデータを除き三者のデータはよく一致する。
〇 0.8Rでは振幅及び最大値を除き大きな差がみられる。
〇 0.9Rでは半径方向の計測値は実船と模型で比較的良好な一致がみられるが、円周方向については回転数変化について同様な変化を示している。
〇 計測位置の違いについて比較すると、実船では半径方向や円周方向の歪計測値の平均値や振幅ばかりでなく他の値についても根元に行くに従って、即ち、0.7Rでの計測値が一番大きい。模型についてみると、半径方向では0.8Rの計測値が最も大きく、円周方向では0.7Rの値が若干大きい傾向がみられる。
〇 ゲージの貼り方の違いで比較すると、直貼り方式の方が実船データとの対応がよい。
(担当場所:船舶技術研究所)
■事業の成果

ハイリースキュードプロペラは通常型プロペラと同等またはそれ以上の性能を持ち、プロペラ起振力を減少させる効果が期待されるため、多種多様の船舶に採用されている。そのため折損や曲損等の事故の報告も時おり見られる。このような事故を未然に防止するためには、翼応力の解析方法による計算精度が確認されていなければならず、実船プロペラの船後での作動状態における応力集中部での翼応力の実態、及びその基礎となる翼面圧力分布の状態を実船によって把握する必要があり、実船試験を行ってハイリースキュードプロペラ特有の問題点を明らかにして、さらに安全で高性能なハイリースキュードプロペラの実現を図ることを目的として昨年度から2か年計画で研究が開始された。
 平成2年度は最終年度として、昨年度と同様練習船青雲丸を利用して、ハイリースキュードプロペラにCPの場合と同じ圧力計及び歪ゲージを取付けてプロペラ翼面の圧力と応力を計測するとともにトレーサー方式による船尾流場計測を行い、更に実船対応翼応力計測模型実験を行って多量の有益なデータを取得できた。
 これら2か年の計測データは、すでに述べたように総合的に解析され、その成果は今後翼強度設計に係る有益な資料として活用されるものと期待される。





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