■事業の内容
(1) 海洋構造物の疲労設計法に関する研究 [1] 各種溶接継手に対する合理的な疲労強度評価法の検討 主板板厚30mmのスティフナモデルおよびダブラーパッドモデルについての疲労試験および有限要素法による応力解析等を行い、S-N線図作成の基礎データを得た。 また昨年度までに得られたデータも含め、ブラケット、スティフナーおよびダブラーパッドモデルの各シリーズのデータを総合的に検討して、各種溶接継手の疲労強度評価法をとりまとめた。 (担当場所:石播、日立、三菱、三井) [2] 疲労強度に対する板厚効果の合理的評価法の検討 疲労強度に及ぼす板厚効果について、昨年度までに行った試験結果も合せて、継手種類、溶接部改善処理が板厚効果に及ぼす影響、応力解析による板厚効果の原因について総合的に検討を行い、合理的評価法をとりまとめた。 (担当場所:新日鉄、住金) [3] 使用鋼材の種類と疲労強度の関係調査 海洋構造物で使用されるYP24,YP46およびYP70鋼を用いて製作した非荷重伝達型リブ十字すみ肉溶接継手の溶接のまま、プロファイルおよびトウグラインドの各モデルについて疲労試験を行い、基礎継手のYP36鋼のデータも含め、使用鋼材の種類と疲労強度の関係を総合的に検討し、その評価法をとりまとめた。 (担当場所:川鉄、神鋼) [4] ホットスポット応力評価法の検討 海洋構造物の代表的な溶接継手構造を対象として、疲労強度解析の前提となるホットスポット応力について、有限要素法による応力解析を行い、その適正な評価法の検討を行った。 (担当場所:NKK、東大、阪大) (2) 海洋構造物の溶接部の品質に関する研究 [1] 許容溶接欠陥に関する基礎試験 平成元年度までの基礎試験結果について解析を行い、止端部アンダーカットの疲労強度に及ぼす影響を定量化し、適切な溶接部の品質基準についてとりまとめを行った。 (担当場所:石播) [2] 溶接部の補修方法の検討 平成元年度に実施した基礎試験結果について解析を行い、疲労強度との関連で適切な溶接部の補修方法についてとりまとめを行った。 (担当場所:住重、石播) [3] 鋼管継手模型による確認試験 海洋構造物の代表的構造である鋼管継手について十字型模型、T字型模型について疲労試験を行った。 つぎに前年度までの試験データも含め、基礎試験のS-N線図と鋼管継手のS-N線図とを比較してプロファイルド、トウクラウンド、欠陥付各溶接の2×106寿命の強度、応力集中係数と疲労強度の関係の鋼管継手への適用性、基礎試験と鋼管継手における疲労亀裂発生寿命と破断寿命の関係を調べ、疲労寿命の意味合いを検討した。 (担当場所:川重、NKK) [4] ホット・スポット応力評価法及び疲労亀裂進展解析 疲労試験を実施した基礎継手(軸力を受ける十字継手、曲げを受けるT字継手)について、有限要素法および境界要素法による応力解析を行い、応力集中の推定式を導出し、また(1)[1]項の各種溶接継手のホット・スポット応力の本基礎継手への適用について検討した。 疲労亀裂進展については、まず十字継手、T字継手溶接止端部の板厚方向の応力分布を境界要素法により求め、初期微少亀裂の進展解析を行った。 つづいて十字継手、T字継手の溶接止端部から発生した疲労亀裂の進展をパリス則を用いて解析し、代表的な基礎継手の亀裂発生・進展について総合的な評価を行った。 鋼管継手については、十字型及び十字型継手のサドル部の溶接止端部の応力解析を行い、平板の溶接継手との対応によって疲労強度の評価を行った。 (担当場所:九大、NKK、川重)
■事業の成果
海洋構造物の疲労設計規格は、アレキサンダーキーランドの事故を契機として欧州の船級協会(例えばDnV)や関係官庁(例えば英国エネルギー庁DEn)等で改良充実させた。これらの規格は、実験室の基礎データをもとに作成されたものであり、実機に対する適用実績が少ないため、実機の多岐におたる形状を持つ構造に対しては無理な適用となり、不合理な形状寸法となることが多い。 しかしながら、これら海洋構造物に関する疲労実験は少なく、上記の要求の妥当性についての実験的検証は必ずしも十分ではない。また、溶接構造物の疲労強度を評価する場合、亀裂の発生が予想される部分(例えばスチフナー構造部分)の応力をいかに算定し、疲労実験データと対応させればよいかは主要な課題ということができる。特に本事業の課題の一つである疲労強度に対する板厚効果の解決には列統的な疲労実験の実施と同時に結果を裏付ける応力解析面からの補強が重要な意味を持つ。 そこで本研究では、本年度を最終年度としてブラケット継手、ダブラーパッド溶接部、スティフナー溶接端について疲労実験を行うとともに、応力解析を行い、各種溶接継手に対するホットスポット応力および合理的な疲労強度評価法をとりまとめた。 また、DEn、DnVなどの海洋構造物溶接継手の疲労設計ルールには板厚効果が取入れられている。この板厚効果は、従来鋼の溶接まま(止端処理なし)で得られており、止端処理等の疲労強度向上策が板厚効果に及ぼす影響は不明である。また、疲労設計ルールの板厚効果の妥当性については世界的な論議を呼んでおり、種々の検討が行われている。このため本研究では、今後海洋構造物に多く使われるであろうTMPC鋼について溶接継手の疲労強度に及ぼす板厚効果の実験を行い、これまでは継手種類に関係なく、-1/4乗則を用いていたのを、負荷形式と継手種類の組合せに応じてm=1/3、-1/5、-1/10、0となる板厚効果評価基準を取りまとめた。また溶接部の整形によって疲労強度の向上効果を明確にすることが出来、整形によって板厚効果を減少出来ることも明らかにした。 一方、製造面から見ると、構造設計にて想定した疲労強度を確保するには、損傷の起点となることが多い溶接継手部の工作品質をいかに適切に管理し、確保するかが重要となってきており、理論的、実験的根拠に基づいた合理的な溶接品質管理基準が切望されている。ここでは、溶接継手の基本的疲労特性を解明するべく単純形状継手に焦点を当てた基礎継手試験、さらにはこの基礎継手試験結果との対応を調べるために鋼管継手模型による確認試験を実施し、止端部の形状調査をもとにした応力集中係数、亀裂の発生寿命・伝播寿命に関する解析をべースに溶接ままの状態でのアンダーカットの許容量を明らかにし、基準をとりまとめた。 また、ビード止端部の代表的な処理方法であるショットピーニング、TIGドレッシングによる溶接継手部の疲労強度改善効果について実験・検討を行い、入熱量など施工条件と強度改善効果の関係を明らかにした。 溶接継手の疲労強度には溶接止端部の応力集中がもっとも関係があるので、応力集中係数の推定式を作成し、応力集中係数と板厚効果、応力集中係数と疲労亀裂発生・進展寿命の関係をとりまとめた。 以上本研究により得られた成果は、板骨構造物における構造的応力集中率の提案、溶接部の品質管理基準(案)および合理的な止端処理要領の作成により、海洋構造物の合理的な設計、建造の有益な指針となるばかりでなく、国際的な適用ルールの改正にむけて大いに役立つ貴重な資料となるものである。
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