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■事業の内容

 平成2年度は、M系列を用いた水中測位システムの実験装置の一部を試作して、実験装置を完成した。
 実海域実験については、実験場所を選定するとともに、実験方案を作成し、これをもとに実験を実施し、その結果を解析・評価した。
(1) 基準局(1基)の試作
 平成元年度に設計・試作したものと同一の基準局1基を試作し、実験システムを完成した。
(2) 実海域実験方案の作成
 平成元年度においては、実験方法として「スパッド台船」方式を提案した。しかしながら、スパッド台船を長期間にわたり岸壁近辺の海域にとどめておくことは、海上交通及び漁業障害等のため困難であること判明した。そこで、実海域実験は、台船を使わず既存の岸壁を利用して行うこととした。
 実験項目は、安定度及び精度確認試験、分解能確認試験及び測位能力確認試験の3項目とし、指令局と基準局間の距離HL、指令局の受波器間距離l1及び基準局と海中作業船相当の基準局間の距離l2をパラメータとして実験方案を作成した。
 実験ケースは、上記3項目で14ケースである。
(3) 実海域実験
 実験海域として横須賀新港地区を選定した。この地区は岸壁延長400m、前面水深-10mが確保できる。
 実験期間は、データ収録期間を含め、12日間とした。
 測定データは、3個のスラントレンジ及びそれらから求められる海中作業船位置X,D,Lがリアルタイムに収録される。
X:指令局からみた作業船の水平方向位置
D:指令局からみた作業船の垂直方向位置
L:指令局からみた作業船のスラントレンジ
[1] 安定度及び精度確認試験
 指令局と基準局間の距離HL、指令局の受波器間距離l1及び基準局と海中作業船相当の基準局間の距離l2のパラメータを変えて、それぞれの影響について測定するとともに、光波測距機による測定値と比較して、安定度及び精度を調べた。
[2] 分解能確認試験
 作業船相当の基準局の設置深さを1m上下させて測定し、分解能を調べた。
[3] 測位能力確認試験
 指令局及び基準局を水中に固定し、作業船相当の基準局を交通船から吊り下げ測位できる最大距離を調べた。
(4) 解析・評価
 各実験ケース毎に数10個のデータを収録し、これらから標本平均、標準偏差を示すとともに、距離については光波測距機の測定値と比較した。
 その結果、実験範囲では距離精度及び分解能は極めて良好であることが判った。
 但し、測位能力については、交通船の航行方向や水温分布及び気泡の影響等によって、最大距離は探知できなかった。
(5) 成果のとりまとめ
 上記の研究成果をとりまとめて報告書を作成し委員ならびに関係機関に配付した。
(6) 委員会等の開催回数
委員会   3回
小委員会  5回
W.G.    1回
■事業の成果

本事業は、今後ますます沖合化へ進む海洋工事に必要される海中作業船の位置を高精度に測位するシステムを開発するものである。平成2年度は一部の試作を行って実験装置を完成させ、別途作成した実海域実験方案にもとづいて実験を実施した。
[1] 基準局(1基)の試作
 平成2年度は基準局1基を試作し、前年度の設計・試作した指令局及び基準局1基と併せて実験装置を完成した。
 本システムは、M系列相関法による海中作業船の位置を計測する高精度測位システムである。
 海中作業船及び基準局は、指令局からの質問信号に応えて応答信号を発生するトランスポンダであり、各々固有のM系列パターンに応答し、指令局用のM系列応答信号を発生する。指令局はA,O,Bの3個の受波器と送波器Tを持つ。送波器Tから基準局及び作業船に質問信号を送り、応答信号をA,O,Bで受信して、受信信号の到達時間差によって方位を、到達時間によって距離を求める。本システムは、既知の基準局への距離を測定して補正係数をもとめ、作業船への測定値を修正するという点に一つの特長がある。
[2] 実海域実験
 横須賀新港地区において実海域実験を行い、以下の成果を得た。海中作業船位置は下記によって示される。
X:指令局からみた作業船の水平方向位置
D:指令局からみた作業船の垂直方向位置
L:指令局からみた作業船のスラントレンジ
a. 安定度及び精度
・ スラントレンジについては、距離約400mまでは距離に関係なく、標準偏差3〜4cmで得られた。
・ X及びDについての標準偏差は、次式で示される。
s=(0.72〜1.18)×(L/100)/l1(m)
b. 分解能
・ l1=1〜2mでは、誤差は僅か数cmであるが、l1=0.5mになると誤差はやや増大する。
c. 測位能力
・ 今回の実験では、最大探知距離は得られなかった。その理由は、作業船相当の基準局を搭載した交通船の航行方向、海水中の水温分布及び気泡等の影響が考えられる。
以上の結果から、次のことが確認された。
・ M系列相関方式は、パルス方式に比べ、雑音特にパルス性雑音の大きい海域においては、極めて有効である。
・ 2種類以上の異なるM系列信号は、処理によって判別可能である。
・ 測定精度については、指令局の受波器間隔を設定することによって、十分目的に満足させることができる。
(2) 予想効果
[1] M系列相関方式による高精度測位システムは、海中作業船の測位に対して極めて有効な方法であり、今後の利用が期待されるが、その実用化に当っては、期待精度、実海域実験結果及びシステム規模を十分にふまえた検証を行う必要があろう。
[2] この高精度測位システムは、海中の固定装置の測定には最適であり、各種の海中構造物の測位に対しての利用が可能である。





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