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■事業の内容

(1) 材料の新利用技術の研究
[1] 膨脹型救助艇材料の耐候性に関する調査研究
a. 概要
 本調査研究は、1974年SOLAS条約1983年改正で新たに救命設備として登場した救助艇(膨脹型及び複合型)の船体材料であるゴム引布について耐候性に関する試験を行い、その成果をこれらの生産に必要な資料に供することを目的としている。
 平成元年度は4年計画の最終年度として、供試材の暴露台(銚子市(財)日本ウエザリソグテストセンター銚子暴露試験場)における暴露試験経年3年目の供試材の物性試験を完了した。また、実船にとう載されている救助艇についてその実態を把握するための調査を実施した。
b. 供試材
 供試材は国内各社の複合型救助艇(試作品を含む。)の材料であるゴム引布(4種類)であり、昭和61年7月に上記試験場にとりつけ、平成元年7月に最終供試材を回収した。
c. 試験方法
(a) 暴露試験
イ. 暴露試験
 屋外暴露試験方法通則(JIS Z 2381)の直接暴露試験である。
ロ. 供試材の取付
 供資材は、1.5m×1.2m及び0.4m×0.4mの寸法で、暴露台上の補助枠にとりつけてある。取付に際しては裏面への自然環境因子の影響を阻止してある。(昭和61年7月30日取付)
(b) 物性試験
 物性試験は、2年暴露供試材について船舶艤装品研究所で実施した。試験は外観試験、引張試験、接着力試験、引裂き試験及び気体透過試験の5種類である。
d. 実船調査
 本船にとう載されそいる救助艇の積付状況の実態を調査して経年による船体の劣化状況を明らかにした。調査は新造後約2.5年経過した複合型救助艇(とう載している本船は約650総トンのフェリーボート)を対象とした。
e. 試験及び調査結果のまとめと今後の課題
 4年間に亘る調査研究の結果は次のとおり要約される。なお、供試材のうち二重布2種類については、その材料を実用化しており、また、一重布2種類は強度アップした別材料を使用することとなっている。
(a) 強度
 強張強さおよび接着力強さの経年ごとの最低値は、経年とともに若干の低下がみられた。引裂強さについても経年による強度低下がみられ、一重布材は特に著しい低下を示した。
(b) 色彩
 全般的に彩度の減少が見られた。また、一部の供試材の赤味が薄くなったものの、全般的には大きな変色はなかった。
(e) ガス透過性
 3年暴露の範囲内では、全般的にガス透過度が減少する傾向を示した。
(d) 斑点の発生
 供試材B、Dは暴露1年以内で、供試材Aは暴露3年以内で暴露面に黒い斑点が発生した。暴露面に硫酸化合物が形成されていることから、酸化劣化によって生じたものと考えられる。しかし、その劣化深度はゴムの表層に止どまり、ゴム引布の強度に影響を与えない程度であろうと考えられる。
(e) 実船における救助艇の実態
 2年3ケ月暴露された救助艇の耐候性は十分あり、保護カバーは艇を保護する上で大きな効果を有する。また、救助艇の防舷材およびスケートは積付装置およびラッシングベルトとの耐摩耗性に十分効果のあることが判明した。
 以上により救助艇の船体材料であるゴム引布の耐候性を明らかにすることができ、救助艇を生産する上で有効な資料を得ることができた。しかし、負荷された状態でのゴム引布の耐候性、接着部のガス透過性の経年変化に関する調査等残された課題もあり、でき得れば適当年数を経た時点で、とう載実艇についての材料試験等を行うことが望ましい。
(2) 般用品の生産研究
[1] 大型膨脹式救命いかだの性能改善に関する調査研究
a. 概要
 昭和61年7月に1974年SOLAS条約第2次改正が発効し、膨脹式救命いかだの定員規制が条約及び国内規則から削除されたことから、予て懸案となっていた多数の膨脹式救命いかだを搭載している大型カーフェリー及び大型旅客船の膨脹式救命いかだ積付スペースの問題、一斉投下時に危険性のある多段積付方式の問題等を解決するため、各メーカーにおいて試作された大型膨脹式救命いかだ(以下大型いかだという)について、昨年度に引続き各種性能試験を実施し、評価を行い、実用化への道を開いた。
b. 供試品
 いかだメーカー4社の改良型大型いかだ(定員50人)を1型式づつ計4型式及びシーアンカーメーカー1社のシーアンカー1型式を供試品とした。
c. 試験方法
(a) 曳航安定性試験
 満載状態(定員と艤装品)の大型いかだをシーアンカーは使用しない状態で、穏やかな海上を3ノット以上の速力で曳航し、曳航力及び大型いかだの安定性を調べた。
(b) 曳航強度試験
 満載状態(定員と艤装品)の大型いかだをシーアンカーを展張した状態で、穏やかな海上を3ノット以上の速力で曳航し、曳航力及び大型いかだと曳航用具の異常の有無を調べた。
(c) シーアンカーの抵抗力測定試験
 大型いかだ用として開発されたシーアンカー1個を約2.8ノット及び3.5ノットで曳航し、水圧低抗値及び振れ回り等を計測した。
(d) 片舷引き上げ試験
 無荷重の状態でボンベの反対側の舷を引き上げ、その力を測定した。
(e) 軽荷安定性試験
 波浪階級5以上という厳しい条件の海面において試験を実施するため、作業者の安全を考え、片舷引き上げ試験及びシミュレーションによる安定性の解析の結果から選定した大型いかだ1型式について、軽荷時における波浪中での挙動を観測し、転倒の有無を調べた。
(f) シミュレーションによる安定性の解析
 軽荷安定性試験の供試大型いかだ1台の選定及び試験海域の波浪条件が適当でない場合であっても、波浪5以上の海面における大型いかだの安定性の評価を得るため、シミュレーションによる安定性の解析を行った。
d. 試験結果
(a) 曳航安定性試験
 曳航中のいかだは十分な安定性を示し、いかだ本体及び曳航取付部は何れも破損、はがれ等の異常がなかった。
(b) 曳航強度試験
 いかだ本体及び曳航索取付部は、何れも破損、はがれ等の異常がなかった。
 また、シーアンカーは正常な展張状態であり、本体布及び取付部等に破損等はなかった。
(c) シーアンカーの抵抗力測定試験
 低抗値は所期の成績を収め、また本体に損傷、加工部のほつれ、ひび割れ等の異常はなかった。
(d) 片舷引き上げ試験
 引き上げ角度約15度、約30度、約80度について引き上げ荷重を計測し、一番小さいいかだを軽荷安定性試験の供試品に選定した。
(e) 軽荷安定性試験
 波浪階級5の海域において実施したが転倒はなかった。
(f) シミュレーションによる安定性の解析
 供試いかだの形状は4社ともほぼ同じであるため、4型式のいかだともほぼ同程度の安定性のあること、いずれのいかだも試験基準であるシー・ステート5の状態において転覆しないことが分った。
e. まとめ
 諸試験及び考察の結果、供試いかだは形状、構造、強度及び安定性が十分であることが確認された。
[2] 航海用電子機器の保守点検に関する調査研究
a. 概要
 航海用電子機器の船舶への備え付けは、船舶の用途・大きさ・航行区域により法的に義務付けられているが、これらの機器の小型・軽量化と乗組員の省力化に伴い、現在では船舶の用途・大小等を問わず殆どの船舶が備え付けている。
 かかる現状においては本年度は、船速距離計の船上においての保守点検・作動確認のための要領標準を作成するため、各環境下における試験を実施し、その性能・作動状態を調査した。
b. 供試品
 現在使用されているメーカー2社の型式承認品(同等クラスのもの)を各1個づつ2個購入した。
c. 試験方法
(a) 初期性能測定
 速力表示誤差試験、距離表示誤差試験、速力感度試験、追従速さ試験、絶縁低抗試験、絶縁耐力試験を型式承認試験基準に従って行い、性能を測定する。
(b) 温度環境下試験
 常温より30分で55℃とし、そのまま2時間30分保持し30分かけて常温とし更に30分放置し、次に1時間30分で-30℃まで温度を下げ、そのまま2時間30分保持し1時間30分かけて常温とし、2時間30分常温のまま放置する。このサイクル(12時間)を連続7日間行い(その間供試品は作動のまま)、24時間ごとに常温において外観、記録の異常の有無を調べた。
(c) 電源変動下試験
 電圧90V、周波数47.5Hzで各24時間、110V周波数52.5Hzで各24時間、合計4日間行い24時間ごとに常温において外観、記録の異常の有無を調べた。
(d) 温度環境下試験
 常温より2時間かけて、温度55℃、相対湿度95%に16時間保持し2時間かけて常温状態にもどしそのまま4時間保持する(24時間)、これを合計7日間行い24時間ごとに常温において外観、記録の異常の有無を調べた。
(e) 振動環境下試験
 振動条件は、5Hzから6Hzまでのランダム加振を、前後・左右・上下の各方向について24時間加振し、各加振後に外観、記録の異常の有無を調べた。
d. 試験結果
(a) 初期性能測定
 両供試品とも良好であった。
(b) 温度環境下試験
 アナログ式のものは温度が-20〜-30℃附近で歯車が凍結し、そのため速度表示に影響はなかったが、行程の積算が一時停止したが温度が一定となると再度作動し始めた。デジタル式のものは何等異常が認められなかった。
(c) 電源変動下試験
 両供試品とも特に異常は認められなかった。
(d) 湿度環境下試験
 温度環境下試験と同様、アナログ式では試験開始後4時間程度の間は作動が不安定であったが、その後はほぼ安定した。デジタル式では殆んど異常が認められたかった。
(e) 振動環境下試験
 アナログ式のものでは、固定ネジのゆるみ及び差し込み部品の飛び出しがあり、デジタル式では固定ネジのゆるみ、基板上に立てて固定した部品の折損及び表示部とメイン基板を結ぶリボンケーブルがコネクタ部分からはずれかかり接触不良を起したが、両供試品とも固定ネジ部にネジのゆるみ止めとしてスプリングワッシャを取り付けることにより正常に作動した。
e. まとめ
 試験及び総合意見より、船上において常に保守点検すべき部品又は部位が判明し、また点検方法・検査手順を検討した結果、船速距離計の船上における保守点検・作動確認のため要領標準を作成することができた。
■事業の成果

(1) 材料の新利用技術の研究
○ 膨脹型救助艇材料の耐候性に関する調査研究
 本事業は暴露3年間に亘る4年間の研究調査であり、本年度をもって計画事業のすべてを完了した。本調査研究の結果、救助艇材料のゴム引布の劣化状況、ガス透過性の傾向、斑点の発生問題等の実情が明らかにされ、また、とう載中の実艇の調査によりその実情及び問題点が把握されて、救助艇の生産に必要なかつ貴重な参考資料が得られた。
(2) 船舶用品の生産研究
[1] 大型膨脹式救命いがだの性能改善に関する調査研究
 本年度の調査研究は昭和63年度に実施した高温膨脹試験、低温膨脹試験、投下試験及び復正試験において発生した問題点を改良した大型膨脹式救命いかだについて、形状、構造、強度及び性能並びにシーアンカーの形状、構造及び寸法等について、性能基準に照し実証試験で確めることであったが、調査研究の結果は形状、構造、強度及び安定性が十分であることが確認され、大型膨脹式救命いかだの実用化に道が開かれた。さらに、軽荷安定性試験の成果は安定水のうの数と総容量の実証試験となるとともにシミュレーションによるいかだの安定性の評価の方法の道を開き、今後の大型膨脹式救命いかだの開発に当り非常に有効であると考えられる。
[2] 航海用電子機器の保守点検に関する調査研究
 本事業は船速距離計について調査研究を行い、今年度の試験のうち特に温度環境下試験、湿度環境下及び振動環境下試験の結果、アナログ式とデジタル式の差異を知り、船上においての保守点検・作動確認要領標準を作成することができた。また併せて今後改善又は改造すべき事項についての指針を得ることができ、性能の改善・向上に寄与するところ大なるものと考えられる。





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