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■事業の内容

(1) 航行環境の定量的評価手法に関する調査
[1] 調査方法及び内容
a. 委員会を開催し、研究方針の策定、作業内容の検討、アンケート調査内容の検討を行い本年度の研究結果をとりまとめた。
 わが国の主要狭水道、内湾、沿岸における航行危険度を定量的に評価し得る手法を求め、それに基づく航行シミュレーションあるいはシュレータ等の実用性について調査研究を行うにあたり、本年度は5ケ年計画の第3年度目として交通環境作業部会及び自然環境作業部会に分れて精力的に調査研究を行った。
b. アンケート調査
 わが国の主要海域において、船舶航行の危険性について操船者が主観的にどのように評価しているか、及び危険回避の行動基準はどのようなものであるかをアンケート調査し、一次解析を行った。アンケートの集計、解析調査については、(株)マリンリサーチに依頼して実施した。
(a) アンケート配布数
 外航船、内航船、海上保安庁、海上自衛隊、水産・漁業会社、パイロット協会その他  2,089部
(b) アンケート回収部数  1,198部(回収率57.3%)
c. シミュレーション実験等
(a) 交通環境の評価指標を求めるため、今までのシミュレーション、シミュレータ実験の結果を解析し、交通環境の概念的評価を行った。
そして、出会いの質的評価について
・ 操船負担
・ 時間的、経済的負担
・ 残存危険度
の3項目について検討した。
(b) 自然環境の評価指標を求めるため次のシミュレーション、シミュレータ実験を行って、自然環境の概念的評価を行った。
イ. 自然環境が船の特性に及ぼす影響を評価するため、シミュレーシーン計算による浅水影響の検討を行った。
ロ. 与えられた自然環境の中を船舶がどれ程の危険回避能力を持って航行できるかを評価するため操船シミュレータによる平行移動操船実験を行った。
(c) 視覚情報が避航操船に与える影響を評価するためシミュレータ実験を行った。
(d) シミュレータ利用に関する調査研究に資するため、平成元年8月に運輸省電子航法研究所の空域シミュレータを視察した。
(e) 施設調査
イ. 実施日   平成1年8月21日
ロ. 場所    三鷹(電子航法研究所)
ハ. 参加人員  委員等14名
 航空路及びターミナル管制のより安全で効率的なシステムの開発・評価を目的としたシミュレーション実験が行われており、現在計画中の羽田空港拡張工事、関西新空港の完成後に採用すべき新しい空域管制運用システムの開発研究が進められている。
 この他に衛星利用航行援助システムの開発実験、種々の電子航法装置の実験設備等を調査した。
d. 国際会議への代表の派遣
 平成元年10月に北京で国際された国際シミュレーション会議に出席して、世界におけるシミュレーション技法の現状と動向を把握するとともに貴重な論文などの資料を入手し、その一部を翻訳した。
北京国際シミュレーション会議
イ. 開催日   平成1年10月23日〜25日
ロ. 開催場所  北京
ハ. 調査員   海上交通研究部長  藤井 啓史
船舶技術研究所 高速流体研究室長  不破 健
[2] 報告書の作成
a. 部数   50部(コピー製本)
b. 配布先  委員会、関係官庁等
(2) 東京湾における安全対策に関する調査研究
[1] 調査方法及び内容
a. 委員会を開催し、次の事項について検討した。
(a) 東京湾安全調査研究委員会
平成元年度報告書について検討を行った。
(b) 第一専門委員会(航路体系及び航行環境に関する調査研究)
 第1回委員会において東京湾の現状を分析し、第2回委員会においては、事前に全委員に送付した航路体系案について検討を行い問題点を抽出した。
(c) 第二専門委員会(管制及び指導に関する調査研究)
 東京湾における管制と指導の現状を把握し、現状に対する問題点及びこれら問題点を改善する案を抽出した。
(d) 第三専門委員会(海洋レジャー活動等の安全対策に関する調査研究)
 東京湾における遊漁船等の現状を把握し、プレジャーボートの増加に伴う問題と検討すべき対策を抽出した。
b. アンケート調査
 本調査研究では限られた期限での限られた委員会数で多岐にわたる調査研究を行うため、平成元年4月に具体的調査検討項目につき、全委員に対しアンケート調査を実施し、調査検討項目を決定した。
[2] 報告書の作成
a. 部数   75部(コピー製本)
b. 配布先  委員会及び関係官庁等
(3) 海難防止の国際的動向に関する調査研究
[1] 調査方法及び内容
a. 委員会による研究
 今年度IMOで審議された、1972年の海上における衝突の予防のための国際規則の一部改正、沖合施設周辺の安全区域及び航行安全、大陸棚及び排他的経済水域上の沖合構造物の撤去について、関係官庁からIMO会議の資料に基づいて説明を受け、これらの問題点等について検討した。
 また、SAR条約に基づくSAR計画の状況及びGMDSSの体制、運用等に関連して、隣接国の動向、アジア・太平洋地域における捜索救助セミナーの開催を始めとするSARの分野での国際的な協力の状況について関係官庁から説明を受け、SARに関する国際的動向を把握するとともに問題点等について検討した。
b. IMO会議への代表の派遣
 IMO第57回MSCに調査員を派遣し、1972年の海上における衝突予防のための国際規則の一部改正等についてわが国の対処方針の反映を図るとともに各国の動向の調査及び情報収集を行った。
 なお、今年度開催予定であり、調査員を派遣する予定であったIMO第36回NAVは次年度に延期された。
第57回MSC会議
イ. 開催日  平成1年4月3日〜12日
ロ. 場所   ロンドン
ハ. 調査員  企画部長 矢野 健爾
[2] 報告書の作成
a. 部数   130部
b. 配布先  委員会及び関係官庁、団体、図書館、教育機関等
(4) 沿岸における特異海難発機構の解明及び救助技法等に関する調査研究
[1] 調査方法及び内容
a. 委員会を開催し、調査研究方針、各部会の調査内容、方法等を検討した。
b. 過去に発生した海難のシミュレーション、文献等の調査を実施した。
c. アンケート調査
(a) アンケート配布数
海上保安庁職員  260名
一般船社乗組員  200名
[2] 調査の概要
a. 過去に発生した海難のモデルとしてキャプテン・トレーダー号及び第65惣宝丸ケースをとりあげ、事故当時の気象・海象条件を解明する為に数値シミュレーションを行った。
b. 過去に発生した海難29例について気象・海象及び地形との関連を統計的に調査集計した。
c. 文献により救助船舶の復原性能及び低速航行時の操縦性能調査及び船体に働く外力の調査並びに航体動揺に関する調査を行った。
d. 過去の特異海難事例の救助状況及びその問題点について調査した。
e. 救助に従事した経験のある者として海上保安庁職員260名、民間200名を選び、アンケート調査を実施した。
 アンケート調査の解析にあたっては海上保安大学校高橋助教授に依頼して実施した。
アンケート調査の目的
(a) 救助方法の現状把握及び問題点の抽出
(b) 救助要員の作業能力の限界の把握
(c) 救助作業の判断基準及び救助の限界の把握
(d) 救助器具の使用の限界及び問題点の把握
[3] 報告書の作成
a. 部数   35部
b. 配布先  委員及び関係官庁
(5) 港則法上の危険物の性状情報管理等に関する調査研究
[1] 調査方法及び内容
a. 委員会を開催し、調査方針の検討、具体的な調査方法、内容について検討を行い、その結果をとりまとめた。
(a) 港則法上の危険物の情報管理に関する調査研究
 危険物の性状等の変更があった約1,100品目について、内外の文献を参考とし、コーディングシートに添い調査した。
作業を進めるに当り次の事項についても整理した。
イ. 危規則(四訂版)に従い、積載方法のコード内容を整理した。
ロ. D.O.T.刊行EMERGENCY RESPONSE GUIDE BOOK(1987年)に従い潜在危険性のコード内容を最新のものに整理した。
ハ. 委員会で指摘された品目及び次の項目について調査した。
(イ) 削除品目
(ロ) 名称変更品目
(ハ) 積載方法
(ニ) EmS. MFAG番号
(ホ) 潜在危険性の指針番号
(ヘ) 殺虫殺菌剤の包装等級別濃度
(b) 選定基準の調査研究
爆発危険性を主眼とした副次危険について調査を進めた。
 また、委員長に報告書とりまとめを願い、特に爆発副次危険性の評価に酸素平衡量を考慮することについての検討を行った。
b. 港則法の危険物の性状情報管理等に関する調査を浦川委員に委託した。
[2] 報告書の作成
a. 部数   40部
b. 配布先  委員及び関係官庁
(6) 船舶航行情報共同利用システムの事業化可能性
[1] 調査方法及び内容
a. 委員会による調査
(a) 「船舶航行情報共同利用システム」の利用に関するニーズ、及び現状の船舶・船会社等の情報収集コストの実態に関するアンケート調査・ヒアリング調査結果を基に、事業化可能性に関する収支予測のフィジビリティ・スタディを実施した。
(b) 運輸省部内で関係部課関係者を招集して、システムの設置運営機関・既存情報提供体制との機能分担等について協議した。
(c) 第三回委員会を開催し、事業化可能性に関する収支予測のフィジビリティ・スタディ結果を報告・検討した。
(d) 第三回委員会結果を受けて、再度、運輸省部内で関係部課関係者を招集して、システムの設置運営機関・既存情報提供体制との機能分担等について協議した。
(e) 事業化可能性に関する収支予測のフィジビリティ・スタディ結果を受けて、内航船社・外航船社を対象に、船舶航行情報共同利用システムの利用等に関するヒアリング調査を実施した。
(f) 第四回(最終)委員会を開催し、本年度の調査研究報告書の検討を行った。
b. アンケート調査及びヒアリング調査
(a) アンケート調査
イ. アンケート配布数
外航船、内航船、代理店、大学、教育機関その他 約600部
ロ. アンケート回収部数  141部(23.8%)
(b) ヒアリング調査
船舶航行情報共同利用システムに関する調査を次のとおり実施した。
イ. 平成1年12月6日〜7日   静岡県清水市
ロ. 平成1年12月14日〜15日  大阪市
c. 船舶航行情報共同利用システムに関する調査研究に係る事業化可能性の調査を(株)三菱総合研究所に委託して実施した。
[2] 報告書の作成
a. 部数   200部
b. 配布先  委員会、関係官庁、団体、図書館、教育機関等
■事業の成果

(1) 航行環境の定量的評価手法に関する調査研究
 本年度は調査研究計画の第3年度にあたり、昨年度に引続き、交通環境と自然環境の二つの観点から航行環境の基本的な評価方法について調査研究を進めた。
その結果、およそ次のような成果を得た。
[1] 交通環境を評価するためにこれまでに行われてきた様々な評価方法・指標を系統的に整理して、本委員会が目指す評価方法の位置づけを明らかにした。
[2] 昨年度検討した基本的な考え方に基づいて、出会いの質的な評価について
a. 操船操作負担
b. 時間的、経済的負担
c. 操船者の主観的困難度
の3項目について検討した。そして、これらの項目と出会い状況に関する諸要素とを関係づける方法を検討した。
[3] 船の操船性能を表わす一つを指標として本委員会で用いる平行移動操船性能を船の大きさ、船の種類、水深を変えた数値シミュレーションによって求めた。
[4] 操船シミュレータを用いて操船者が平行移動操船を行うために必要な水域を検討した。
[5] 視界情報にとって操船者が出会いの危険度をどの様に判断するかを操船シミュレータを用いて、出会い状況、視程を変えて調査した。
[6] 航行環境を総合的に評価するための方法について検討した。
[7] 航行環境に関する操船者の問題意識と現実の航行環境に関する評価を知るためにアンケートを実施して、1,198名から貴重な回答を得た。本年度は1次解析を行った。
[8] システムシミュレーションと科学技術計算に関する北京国際学会に出席して、シミュレーションやシミュレータ技術に関する情報収集を行った。
[9] 航行環境の定量的評価のための機器として考えられるシミュレータ利用に関する調査研究に資するため、運輸省電子航行研究所の空域シミュレータを視察した。
[10] 本調査研究に資するため、国内外における航行環境を主とした航海、操船、管制等に関する文献類を収集してそれらの一部を邦訳した。
(2) 東京湾における安全策に関する調査研究
 本年度は2年計画の初年度であり、東京湾の現状分析、問題点の抽出を行い、東京湾における航路体系及び航行環境、管制及び指導並びに海洋レジャー活動等の安全対策についての問題点を明確にすることができた。
(3) 海難防止の国際的動向に関する調査研究
 今年度IMOで審議された、1972年の海上における衝突の予防のための国際規則の一部改正の問題、沖合施設周辺の安全区域及び航行安全の問題、大陸棚及び排他的経済水域上の沖合構造物の撤去の問題等について関係官庁、関係団体の参画を得て、わが国の対処方針の検討に資することができた。
 また、1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約(SAR条約)に基づく各国SAR計画の状況及びGMDSSの体制、運用等に関連してSARの分野での隣接国の動向、国際的な協力の状況について関係官庁から詳細な説明を受け、今後のSARの国際的動向を把握するとともに、わが国の今後の対応の検討に資することができた。
 さらに、IMO第57回MSCに調査員を派遣し、1972年の海上における衝突の予防のための国際規則の一部改正等について、わが国の対処方針の反映を図るとともに、各国の動向の調査及び情報の収集を実施することができる。
(4) 沿岸における特異海難発生機構の解明及び救助技法等に関する調査研究
[1] 初年度研究の成果
a. 塩釜沖海難及び銚子沖海難各1例について、当時の気象・海象条件を再現し、数値化した事により他部会で調査・研究を進める為の基礎資料を得ることができた。
b. 過去に発生した厳しい気象・海象下での海難29例について既存資料をもとに統計的な要因解析を行った結果、気象・海象と海難との相互関係について多少の解明ができた。
c. 海難救助船舶の平水中の性能及び荒天下における外力の影響を文献調査することにより整理できた。
d. 過去に発生した救助が困難であった海難4例についてヒアリングその他の方法により調査し、技術上の問題点を整理した。
e. 実際に救助活動に携わった者に対しアンケート調査を行ったことにより、救助実態を把握し、問題点を抽出することができた。
[2] 本事業の期待される効果
a. 海難防止上
(a) 沿岸荒天下における低速航行や停船時における中小型船舶の動揺について、シミュレーションを通してよりよい方法や作業能力を解明する。
(b) 地形と気象との関連及び航行船舶に及ぼす影響の解明を図りたい。
b. 海難救助上
(a) 沿岸荒天下における海難救助船舶の運用方法について参考となるものを出す。
(b) 海難救助にあたり、指揮者の作業遂行上の判断基準や救助作業の限界についての資料を提供していきたい。
(c) 救助器具の改善や使用方法について助言していく。
(d) 救助に従事する実務者に参考となるマニュアル的なものを作成する。
(5) 港則法の危険物の性状情報管理等に関する調査研究
 昭和63年9月港則法施行規則の危険物の種類を定める告示が改正され、新規物質及び大幅な変更のあった品目についてはコーディングシートに従って、また変更内容が比較的脳微であった品目について変更事項の区分別に調査整理を行った。
 爆発危険性の判断に関する調査では、酸素平衡の値が判断基準として利用できる可能性が高いことが確認された。
 上記の調査結果は、港則法の危険物の運送及び貯蔵に携われる関係者にとって極めて有益であり、また副次危険として爆発性を有する危険物の選定するにあたって「酸素平衡」という指標を参考とすることにより一層の客観評価ができる。
(6) 船舶航行情報共同利用システムの事業化可能性に関する調査研究
 船舶航行情報共同利用システムの整備及び構築のためには、ユーザーにとって最も便益が図れる情報の提供体制が望まれる。そのためには、適正な料金によりユーザーを確保し、同時にPR等も充分に行っていくことが必要である。
 本システムの整備にあたっては、海上保安庁、気象庁等からの各種情報提供が必要であり、既存の情報提供機関との役割分担・提供体制の検討を行い、設置・運営機関の業務内容・性格を決定していくことが望ましい。また、昭和62年度の調査から今日までの間に気象、海象等に関し、各種の新たな情報の公表が行われていること等を勘案し、本システムで提供する情報の内容についても再吟味する必要があろう。
 また、本情報システムへの加入により、海上保険料率の低下に資するシステムを構築していくことも今後望まれるところである。
 なお、収支予測の結果から明らかなように或る程度のユーザーが確保できれば、本システムは収支採算性のある有望な事業であることが判明したが、このユーザーの確保については、外航船(日本商船隊)、内航船の分類に限定せず、外国商船、マリンスポーツ、レジャー等の新たなユーザー層が育ちつつあることにも留意していく必要があろう。





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