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■事業の内容

(1) 防錆塗膜の耐久性
[1] 塗膜の耐久性に関する試験及び評価
a. 塗膜の劣化度合の化学的判定法の検討
 実船・構造物等の塗膜劣化度測定にインピーダンス法を適用した、実用的なインピーダンス計測装置を試作し、同測定装置の広面積塗膜面への適用性について実験・検討を行い、実用化の目途を得た。
 また、5ケ年の研究成果について、総合とりまとめを行い、塗膜の耐久性評価法、塗膜の劣化促進試験について下記成果を得た。
塗膜の耐久性評価法
○ 実験室実験で検討した結果、外観、付着強さ、カレントインターラプタ法による抵抗・容量及びLCRメータ(1KHz)によるインピーダンス法等の評価方法では塗膜の劣化度の経時変化は把握しにくい。
○ 市販のインピーダンス計測装置(FRA)を塗装鋼板の評価のために使用する場合には、塗膜の劣化の状態によっては高周波数側と低高周波数側でインピーダンスの値が大きく異なるため、広い周波数帯域にわたって安定な計測ができないため注意を要する。
○ 塗膜の評価には低周波数1〜10Hzにおけるインピーダンス測定から得られるtanδ法による評価法が有効であって、実用型塗膜測定装置として自動感度調整機能を備え、周波数特性として1〜32Hzの低周波数発振型インピーダンス計を試作した。
○ インピーダンス計測法は被計測転からアース線をとる必要があったが、構造物からアースを引くことなく、塗装鋼板面のインピーダンスを計測する新しい方法を開発し、少なくとも3ケの電極の組合わせによって、実用可能の見通しを得た。
塗膜の劣化促進試験
(a) 塩分濃度の異なる温海水浸漬試験
○ タールエポキシについては浸漬200日まで、外観の異常もなく、また、塩分濃度がインピーダンス及び付着強さに与える影響は小さく、加速劣化性も小さい。
〇 塩化ゴム系については浸漬200日まで、塩分濃度が外観、インピーダンス及び付着強さに与える影響がわずかに見られるが、これらの劣化指標との相関性は明瞭でない。
○ 上記の検討結果から、塩分濃度の異なる温海水浸漬による試験ではタールエポキシ及び塩化ゴム系の塗膜劣化への促進性は小さいと判断される。
(b) 温度勾配下浸漬試験
○ 塩化ゴム系の劣化形態は、当初発錆が観察され、試験時間が長くなると塗膜が共存し、一方タールエポキシはふくれ発生から始まり、時間の経過とともに発錆が加わっている。このように塩化ゴム系とタールエポキシとは劣化形態が異っているが、これは塗膜中の防錆顔料の配合量が影響していると思われる。
○ 実環境での寿命(ふくれ発生)を文献等から、塩ゴム系を4年、タールエポキシを8年として、本試験による促進倍率を算出すると塩ゴム系が30倍、タールエポキシが580倍となり、実環境での耐久性とは相反する促進倍率となった。
○ 本試験は本研究の1〜2年度に実施した関係上、今回得られたFRA法でのtanδによる検討は実施できなかったが、今後tanδの周波数特性と劣化指標の関係を検討することにより、塗膜劣化との相関性は得られるものと考えられる。
(c) 劣化促進液浸漬試験
○ タールエポキシでは、自然海水浸漬と本試験でのインピーダンスの比から、目算により加速倍率を求めると、約200倍となった。一方塩ゴム系では、塗膜インピーダンス及び吸水率の変化が非常に大きいが、これは塗膜の促進液による劣化のため、水分の拡散速度が試験の途中で変化したものと考えられる。劣化促進液による促進法はタールエポキシに対しては有効と判断されるが、塩ゴム系に対しては余りにも加速促進が大きいため、他の試験液の検討が必要と考えられる。
(担当場所:三菱重工業)
[2] 塗膜の耐久性に与える要因の検討
a. 表面処理グレードと塗膜の耐久性
 表面処理グレード10種と防食塗料3種を組み合せた塗装試験片を用いた飛沫部及び没水部の天然試験、促進試験実施するとともに、5ケ年の試験結果を、総合解析し、表面処理グレードと塗膜耐久性の関連についてとりまとめ下記の成果を得た。
○ 外観上は飛沫部、淡水部とも低級なグレードであるパワーツール処理の方がサンドブラスト処理よりも欠陥が発生しやすく、また、飛沫部に暴露した塩化ゴム塗料は3〜4年経過するとチェッキングが発生し、電気抵抗の低下、電気容量、tanδの増加が著しくなることが認められた。
〇 電気特性は飛沫部、淡水部とも経時とともに電気抵抗は低下、電気容量およびtanδは増加する傾向が認められた。
〇 付着強さについては、飛沫部のエポキシ、塩化ゴム塗料、淡水部の3種嚢類の塗料で低級なグレードであるパワーツール1処理材の付着強さ低下が著しくなることが認められた。
○ 天然試験と促進試験との比較では、飛沫部の促進試験(紫外線照射7H+40℃天然海水浸漬7日を1サイクル)はエポキシ、塩化ゴム塗料については、1.2倍〜1.6倍の促進倍率であり、一方淡水部の促進試験(40℃天然海水浸漬)はタールエポキシ塗料の付着強さに関しては約1.4倍率が得られた。
(担当場所:三井造船、川崎重工業)
b. 変動荷重と塗膜の耐久性
 5種類の防食仕様塗膜について、種々の条件下における繰返し荷重試験(曲げ荷重:±20kgf/mm2、速度10cpm)を行い、繰返し荷重が塗膜の耐久性に与える影響について調査した。
 また、5ケ年にわたる試験結果について総合的なとりまとめを行い、下記成果を得た。
○ 塩化ゴム系塗膜は、繰返し荷重の影響を受け、比較的早期に塗膜抵抗が低下する傾向にある。
○ タールエポキシ系塗膜及びエポキシ系塗膜は、低温海水環境下では、塗膜傷の有無にかかわらず繰返し荷重下においても異常は見られなかったが、常温海水下では有傷塗膜の傷周辺部にふくれ発生が見られた。
○ 厚膜無機ジンクとタールエポキシ系塗膜及びエポキシガラスフレーク系塗膜の2種は、海水温度や塗膜傷の有無にかかわらず繰返し荷重の影響を受けず、かなり長期にわたる耐久性が期待できる。
○ タールエポキシ系塗膜の人工海水中における腐食疲労寿命分布はワイブル分布に従う傾向を示し、その形状防食母数は裸材の場合と比較して小さく、塗膜の疲労寿命の変動が大きいことを示した。
○ 繰返し荷重を受けることによって塗膜の付着強さは減少し、その傾向は繰返し応力が大きくなるほど増大する。
(担当場所:日立造船)
c. 変動及び衝撃荷重下の塗膜の腐食疲労への影響
 変動荷重を受ける塗装材塗膜の交流インピーダンス計測を援用マイクロコンピュータシステムで連続的に行い、塗膜の耐久性との関連を検討するとともに、平成元年度までの結果について総合的なとりまとめを行った。
○ 繰返し荷重を受ける塗膜のインピーダンスの抵抗成分は時間とともに低下するが、途中で荷重が中断すると抵抗成分が増加する傾向を示す。
(担当場所:横浜国立大学)
[3] 防錆塗膜の殖久性データの総合的判定法の検討
a. 塗膜の耐用年数及び余寿命評価に関する総合的データベース
 SR182、SR201、POSEIDON号等の塗装仕様塗膜の耐久性に関するデータを収集・整理し、塗膜の各種劣化データに関するデータベースを拡充・強化した。また、すでに完成した塗膜の耐用期間に関するデータベースと耐久性に関するデータベースを統合し、構造物の塗膜による防食設計時の耐用年数評価、構造物の使用中における塗膜の余寿命評価等が可能なシステムの検討を行い、劣化度データベースを構築した。
b. 塗装施工が耐久性に及ぼす影響の検討
 塗装試験片による水中疲労試験を行い、塗装パラメータ(主として膜厚分布)塗膜付き試験片の腐食疲労寿命との関係を調査し、施工要因に関する。データベースを構築した。
c. 暴露試験によるデータ収集
 実海域暴露試験、大気中暴露試験及び浮体構造物での暴露試験を継続実施し、塗膜の物性値の変化、腐食の発生等を調査し、データをデータベースに追加し、データベースの改良を計った。
(担当場所:船舶技術研究所)
(2) 防汚塗膜の耐生物汚損性
[1] 回流水槽による溶解度因子の定量化と耐生物汚損性
 流速7.5m/sec及び10m/secでの回流水槽及び大型ロータリー試験、実船における塗膜の消耗度試験(対象船2隻、約1年間)を実施し、塗膜劣化消耗度の比較を行った。また、3ケ年の研究結果をもとに、回流水槽試験装置による防汚性能の定量的把握及び短期評価試験法についてまとめるとともに、次世代の低公害性消耗形防食塗料に対する同様な試験法の適用性についても検討した。
○ 回流水槽装置による防汚塗膜の性能試験法は、自己研磨形防汚塗料の短期評価法として有効であり、実船における長期牲能を近似的に評価できる方法であることが明らかになり、本装置による防汚性能の標準試験方法を設定した。なお、低公害性消耗形防汚塗料に対する本法の適用性は塗料のタイプにより選択性があり、更に検討の余地があることが確認された。
(担当場所:中国塗料)
[2] 文献調査
 本年度はスライムの定量法、耐生物汚損及び船底塗料に関する文献154編と本4冊を収集し、その内容要約を行うとともに、5ケ年にわたる収集文献の内容要約を付して別冊の文献集としてまとめた。なお、これらの文献等については、各アイテム毎に整理番号を付し、事務局に保管した。
1) 防汚剤の溶出機構        8編  ( 42編)
2) 船底塗料の試験方法       6編  ( 34編)
3) 表面粗度と摩擦抵抗・燃費節減   4編  ( 31編)
4) 船底塗料関連(配合・性能)
ア) 報文          14編  ( 99編)
イ) 日本特許        76編  (252編)
ウ) 外国特許        10編  ( 41編)
5) 安全衛生            16編  ( 82編)
6) 生物関連            13編+4冊(115編+16冊)
 7) その他             7編  ( 43編)       
合  計  154編+4冊(739編+16冊)
( )内数値は5ケ年の総計
(担当場所:関西ペイント)
■事業の成果

就航後の船体損傷例の大部分は構造材の腐食衰耗によることが明らかにされており、これは防錆塗膜性能の定量的評価に基づく塗装設計が現状では充分でなく、また防錆機能中の塗膜の劣化度合の定量的評価技術がないため、塗膜欠陥発生の予知、事前の腐食損傷対策が不充分なためである。
 本調査研究は、以上の観点から昭和60年度から5ケ年計画で実施し、本年度は調査研究の最終年度として、5ケ年の研究成果を総合的にとりまとめ、下記成果を得た。
 防錆塗膜については適正な塗装設計を行うに当って最重要項目である塗膜の劣化度の評価方法を中心に、塗膜劣化因子として下地処理グレード、外部応力の影響を検討し、さらに塗膜劣化に関するデータベース作成を行った。その結果、塗膜の劣化指標として低周波域の電気的インピーダンス(特にtanδ)が有効な指標となることが明らかとなり、マイクロコンピューター利用による連続測定技術、3電極法による実用的な測定技術等を確立できた。また、塗装系の劣化モードの理論的検討とデータベースの確立とにより、塗膜の厚さ、種類、構成及び使用環境に応じた耐用期間等の事前評価の可能性を見出すことができた。
 防汚塗膜について防汚性能の定量的評価のために防汚剤の溶出速度の測定法の検討、および表面に付着したスライム量の定量法としてアントロン法を中心とした全く新しい評価方法を検討した。
 以上、船舶・海洋構造物の塗装仕様の最適化及び防錆塗膜の耐久性評価法及び長期防汚塗膜の耐生物汚損性に関する貴重な成果が得られ、これらの成果は、今後の船舶・海洋構造物のメインテナンスの向上、あるいは船舶の運航上の燃費節減に大いに役立つものと思われる。





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