■事業の内容
海洋開発プロジェクト分野において、舶用工業の需要創出を図るため、次の調査を行った。 (1) 海洋開発の現状調査 自治体等が行う海洋開発(水産・沿岸・沖合等)プロジェクトの現状調査のため、都道府県及び臨海市に対してアンケート調査を行うとともに、一部の自治体には現地に出向いてヒアリング調査を行った。 [1] アンケート調査 a. 調査先及び回答 ・ 40 都道府県に調査表を発送 → 全都道府県より回答 ・ 121臨海市に調査表を発送 → 50臨海市より回答 b. 調査内容 「海洋牧場」、「沖合養殖施設」、「漁海況及び海域調査施設」、「漁港施設」、「システム化・機械化による漁場整備」、「マリン・レクリェーション」、「沿岸・沖合域開発」・「客船・高速艇・フェリー」の8分野に分類し、下記内容について調査を行った。 (a) 自治体として考えているイメージ (b) システム構成 (c) 近い将来(5年以内)の事業計画の有無及び内容 (d) 事業実施の際の留意点 (e) 機器メーカへの要請事項等 [2] ヒアリング調査 a. ヒアリング調査先 北海道、青森、秋田、和歌山、兵庫、大阪、広島、山口、大分の県庁市役所等 b. 調査内容 自治体等の総括担当部局を訪問し、「アンケート内容の詳細説明」、「現在実施されているプロジェクトの支援機器」、「自治体の開発計画に対する地元企業への要望」、「自治体としての海洋開発の動向」等について調査を行った。 [3] その他調査 新聞、ヒアリング、あるいは各種誌上等より得た最新情報を当会の刊行物において、迅速に広報活動を行った。 〔調査結果概要〕 海洋開発分野での舶用機器メーカーへの要請 1) 海洋牧場 総体的に安価で耐久性にとんだシステムの開発が望まれている。また、海域の相違により全ての面で汎用性を持つシステムの開発は難しいと考えられるが、地域性を考慮した事業化のためのマニュアル的なものが早急に必要となっていると思われる。 2) 沖合養殖施設 外力に対応できる新型イケスの開発を望むものが多く、かつ経済性を考慮することについての要望も多かった。沖合養殖施設は民間(漁業者)が所有することとなるが、現状の養殖業者の多くは零細業者であるため、こうした業者が事業展開を図っていくためには、イケス自体が安価であることが重要である。 3) 漁海況および海域調査施設 新機能を有する機器の開発を要望している自治体は数少なかったが、漁海況および海域調査施設の分野では、小型軽量化、取扱い・保守が簡便なもの、価格の低減など、従来ある機能や性能の改良・改善についての意見がだされている。 4) 漁港施設 記述回答の数が少なく傾向はつかめないが、カードなどで行える自動給油、給水施設などについての意見がだされているが、これは今後の機器開発の参考となろう。 5) システム化・機械化による漁場整備 具体的な施設より、施設の特性、材料などについての要望が多かった。施設自体は海域特性の相違によって単品開発する必要性が高いため、地元の研究者とメーカーの協力体制を取り、メーカーには開発を行う基盤整備をすすめて欲しいという考えが現われているものと判断される。 6) マリン・レクリェーションに関する施設 自治体自体がマリン・リゾートに対して企画などを求めている段階であるため、市場開拓が図れる分野といえよう。さらに「マリン・レジャー関連機器の開発」は、今後海洋関連機器メーカーにとっての課題であろう。 7) 沿岸・沖合域開発 具体的な機器イメージを回答した自治体はなく、事業参加やソフト開発を求めたもの、マリン・リゾートやウォータフロント開発を想定した回答があった。 8) 客船・高速艇・フェリー等 通勤利用の定期航路は欠航が許されないため、風波に強い船舶の開発、ならびに事業化を検討するうえでの情報提供が望まれている。 (2) 舶用工業の需要創出策 海洋開発プロジェクトに関連しての自治体等の各種助成制度、自治体の舶用企業への要請事項、さらには需要創出にあたっての企業の対応などについて調査・検討を行った。 (概要) 1) 技術開発・研究に対する助成制度 海洋開発の分野で助成制度が「ある」と回答したのは、都道府県、臨海市とも各々1件であった。他の制度に関連するものも含め海洋開発分野でも助成できるとしたのは、都道府県で約4割、臨海市で約2割で、この分野の助成制度はまだ整っていない。 具体的な技術開発、研究についての助成制度については、都道府県では「単独企業への技術開発費の援助」が最も多かった。臨海市では、技術開発費の補助よりも設備投資に係わる補助が多くなっている。 また「技術研究組合への助成」は都道府県で9件、臨海市で3件あった。海洋開発では、特に業種の枠を取り払った研究体制が望まれており、今後、各地の海域特性にあった機器の技術開発などでは、技術開発組合的な組織の重要性はますます高まると考えられ、地方自治体においても、助成策の検討が必要となろう。 2) 具体的プロジェクト 前述まで述べてきた8分野以外での具体的プロジェクトについても各自治体に設問してみた。その回答からすると8分野以外としているものも、現実には複合的なプロジェクトということができる。最近は、マリン・レジャー、レクリェーションと水産分野などの複合プロジェクトが多くあげられている。これは、現実面から海を利用する場合、漁業者を取り込まなければ円滑な事業推進ができないという側面があるためであるが、海域の高度な利用を考えても、今後多分野にわたるプロジェクトの複合化は重要な課題といえる。 (3) とりまとめ 上記の調査研究成果を整理のうえ、舶用工業としての今後の取組みに役立つ資料としてとりまとめ会員などに公表した。 (概要) 今回の調査は、海洋関連の各分野に関するプロジェクトの動向を知ることとともに、本工業会の会員企業が海洋開発プロジェクトの各種分野の技術開発や事業参加にどのように関与していけるかを探ることを目的にしたものである。そうした観点から、各自治体が舶用機器関連企業にどのような取組みを希望しているかについては、「技術開発について、対応可能な分野があれば積極的に活用」「事業への参加の要請」「企画・調査の段階からの参加の要請」など、いわば前向きの回答は、単純合計で都道府県が約6割、臨海市が3割の回答率となった。これに対し、「専門企業に任せたい」とした自治体は、双方とも1割未満で舶用機器関連企業に対する事業や研究への参加要請は、比較的高いといえる。ただし、単に技術開発のみの要請をしているのではなく、事業への参加を前提とした回答が高くなっている。 また、臨海市では「要請があれば考えたい」とする回答が約半数を占めているが、これは従来こうした市町村レベル主体で技術開発を伴うプロジェクトがほとんど実施されていなかった経緯から、具体的な対応策が定まっていないことが原因と考えられる。海洋関連機器メーカーにとって、需要が明確でないため、各地域の海洋開発プロジェクトに進出する際は、海域施設の設置動向などを地元自治体と協議し、早い段階(企画等の段階)から協力していく必要があろう。地方自治体もこうした協力に応じる意識は高い。 (4) 報告書の印刷・配布 a. 規格 B5判オフセット b. 部数 400部 c. 配布先 会員(245部)、委員会委員(20部) アンケート・ヒアリング、回答者(110部) 官庁・団体(10部)、その他(15部)
■事業の成果
舶用機器の新しいニーズの創出という観点から海洋開発分野における各種プロジェクトの現況、今後の動きについて調査を行ってきたが、とくにプロジェクトにおける機器ニーズは、ほとんどの場合単品ニーズではなく、システム化されたり、パッケージ化されたりする性質のものが多い。その解決策として重要なことはプロジェクトの企画や開発構想段階での、プロジェクト・プランニングへの参画とその作業を通じてのメーカーサイドの協業化にあるといえる。 さらに、海洋開発分野の機器ニーズは、概して、多品種少量生産のものが多く、どのように対応していくかという点も課題である。 このような課題解決のためにも、また舶用工業の海洋開発分野での需要創出及び進出策を検討するうえでも、今回の調査研究結果は大いに役立つものと確信している。
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