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■事業の内容

(1) 防錆塗膜の耐久性
[1] 塗膜の耐久性に関する試験及び評価
a. 塗膜の劣化度合の化学的判定法の検討
 本年度は初年度(昭和60年)に海水浸漬した塗装試験板2種(TEと塩ゴム)の3年度のものについて劣化度に関する調査を行った。さらに実船・構造物等にインピーダンス法を適用し、塗膜劣化度の評価を行う時のノイズ対策等について検討した。また、劣化しつつある塗装鋼板の電気等価回路モデルについて検討した結果、外観、付着力、Cl浸透深さ、カレントインターラプタ法による抵抗・容量及びLCRメータ(1KHz)によるインピーダンス法では塗膜の初期劣化度の経時変化を把握しにくいが、低周波数1〜10Hzにおけるインピーダンス測定から得られるtanδ法が有効である見通しが得られた。(担当場所:三菱重工業)
[2] 塗膜の耐久性に与える要因の検討
a. 表面処理グレードと塗膜の耐久性
 表面処理グレード10種と防食塗料3種を組み合せた塗装試験片を用い、初年度に天然試験(海浜飛沫帯暴露と海水浸漬)、61年度にタールエポキシ塗料、本年度にエポキシ塗料を対象とした促進試験を開始した。これらについて、定期的な塗膜外観観察や付着力および電気的特性を測定し、表面処理グレードと塗膜耐久性の関連を検討した。
〔飛沫部〕
〇 天然試験においては、取得したデータから電気抵抗値ではTE、CR・A/C塗料に比べPE・A/C塗料は表面処理グレード差があり、取得データと外観を対応すると塗料種に拘わらず塗膜欠陥発生と電気的特性との関連は直、交流抵抗値の減少、周波数特性(交流抵抗、容量、tanδ)で特異な変化が認められた。さらに、表面処理グレード差と外観との関連はPE・A/C塗料のみ全処理グレードで塗膜欠陥発生はないが、TE塗料、CR・A/C・HB塗料でIHPt1は早期に塗膜欠陥が発生し、CR・A/C・BH塗料の歪取り処理グレード全て欠陥発生があり、Pt処理はSd処理に比べ欠陥発生が早い。
付着力に関しては現時点では破断形態で表面処理グレード差の影響は認められるが強度低下に及ぼす表面処理グレード差の影響は認め難い。
○ 促進試験では、TE,PE・A/C塗料に加え本年度CR・A/C・HB塗料を開始した。現時点では3塗料の塗膜欠陥発生は全くなく電気的特性及び付着力の経時変化において特異な現象も認められない。TE塗料では促進効果は認め難いが、PE・A/C,CR・A/C・HB塗料で電気抵抗値の減少として促進効果が現れつつあり、今後のデータ取得でその効果を明確にしたい。
〔没水部〕
○ 天然試験では、直流電気特性に関しては、TE及びCR・A/C・HB塗料に比べてPE・A/C塗料は表面処理グレードの塗膜及び界面抵抗に及ぼす影響がより顕著に認められた。また、交流電気特性に関しては、TE塗料において表面処理グレーの差は小さいのに対して、PE・A/C・HB塗料ではその影響が大きく、特に歪取部ではその影響が著しかった。さらに塗膜外観に関しては、各塗料ともサンドブラスト処理Sd3の方がパワーツールPt3よりも外観劣化の少ない傾向が忍められた。
 塗料の付着力からは、歪取り部において溶接部周辺よりも表面処理グレードの差が比較的顕著に認められた。塗料別ではTE,PE・A/C,CR・A/C・HB塗料の順に付着力が低下する傾向にある。
○ 促進試験では、外観、電気的特性等の塗膜劣化の度合は塗料の種類により差があるが、天然試験に比べて若干促進される傾向にある。
(担当場所:三井造船、川崎重工業)
b. 変動荷重と塗膜の耐久性
 5種類の防食仕様塗膜について、変動荷重(曲げ荷重:±20kgf/mm2、速度10cpm)の影響について調査し、下記成果が得られた。
〇 CR系防食仕様は繰返し変動荷重の影響を受け、耐久性に劣る。大気中では外観的異状はないが、海水中では早期に塗膜欠陥が発生する。
〇 TE系及びPE系防食仕様は常温海水下で塗膜傷部に欠陥(ふくれ)発生の傾向がある。
〇 IZ+TE系及びPEF系防食仕様は海水温度や塗膜傷部の有無にかかわらず繰返し変動荷重の影響をほとんど受けず、長期の耐久性が期待できる。
〇 電気防食併用下では塗膜傷部や欠陥が発生しても発錆はなく、繰返し変動荷重下でも耐久性が延長される。(担当場所:日立造船)
c. 変動及び衝撃荷重下の塗膜の腐食疲労への影響
 タールエポキシ系塗料を施した塗装材について、30℃人工海水中で腐食疲労試験を実施し、その寿命分布形状の推定を行った。また、変動荷重を受ける塗装材塗膜の交流インピーダンス計測を援用マイクロコンピュータシステムで連続的に行い、塗膜の耐久性との関連を検討した。
○ 変動荷重を受ける塗装材の腐食疲労寿命形状は、タールエポキシ系塗料の場合は2母数のワイブル分布で近似できる。
〇 塗装材の塗膜の交流インピーダンスをマイクロコンピュータを利用して計測した結果、変動荷重によるインピーダンスの急減が観測された。このことから塗膜の耐久性劣化評価法として交流インピーダンスは有効であることが確認できた。しかし、交流インピーダンス法は測定環境に大きく左右されるばかりでなく、測定システムの性能との関連で注意すべき点が多すぎる欠点がある。(担当場所:横浜国立大学)
[3] 防錆塗膜の耐久性データの総合的判定法の検討
 SR182、SR201で使用された試料を含む各種の防食仕様について実海域、2ケ所、大気中1ケ所の暴露試験を続行し、所定の暴露期間を過ぎた試験片を回収し劣化データを収集し、従来のデータと比較した。塗膜による防食の信頼性を向上させるシステムについて検討し、このシステム中での各種データベースの役割を定めた。
〇 SR182の防食仕様の試験片については、5ケ年の暴露試験データがそろい、東京(大気中)、大阪湾(水中)、長崎(水中)のデータが比較できた。付着力については暴露期間、暴露場所による変動が大きく、一定の傾向が見出しにくいのに反し、交流インピーダンスについては、暴露期間の増加につれ、抵抗が次第に減少、容量はあまり変動せず、tanδは次第に増加することがわかった。
○ 塗膜による防食の信頼性を向上させるためのシステムを提案し、このシステムにより信頼性が向上することを具体的データで示した。
○ 既発表の劣化促進試験によるエポキシ系塗膜の初期劣化モデルを実環境での暴露試験結果(劣化パラメータは直流抵抗)に当てはめ、モデルが正しいことを示した。
(担当場所:船舶技術研究所)
(2) 防汚塗膜の耐生物汚損性
[1] 回流水槽における溶解度因子の定量化と耐生物汚損性
 自己研磨形防汚塗膜について、前年度から継続して流速・水温・稼働率などの試験条件、回流水槽と大形ロータリーの塗膜消耗劣化比較、消耗劣化塗膜の耐生物汚損性等に関する試験及び実船試験を行うとともに、塗膜表面に付着したスライムの定量方法について、昨年度にアントロン法による糖質量の定量においてスライム採取時に混入する塗膜成分に誤差を生じることが分った。このため今年度は塗膜のどの成分による影響かを濃度既知溶液に添加することにより調査した。また、糖質量の定量法についても一部検討した。
○ 回流水槽による塗膜消耗度測定値から得られる温度・流速・稼働条件等の係数により、必要な条件における消耗度を算定できる見込みである。
○ 大形ロータリーによる塗膜消耗度は回流水槽の場合の約1.2〜1.3倍である。
○ 回流水槽及び大形ロータリーの5〜7.5m/sの流速範囲においては、消耗劣化塗膜の表面粗さと消耗度の関連性はほとんど認められない。
○ 回流水槽による消耗劣化塗膜の耐生物汚損性を判定するためにはX線マイクロアナライザー分析法は有効な方法である。
〇 回流水槽と実船における塗膜消耗の相関性は、試験船の入渠(平成元年5月の予定)後に調査の上検討する。
〇 塗膜成分のアントロン法に対する影響は明らかであり、特にONPワニスについては、人工海水での影響をさしひいても明らかな誤差が生じることが分った。今年度の実験結果から、アントロン法を実船から採取したスライムに適用する事は採取時に混入する塗膜成分により影響を受けるため非常に困難であると考えられる。
[2] 文献調査
 スライムの定量法、耐生物汚損及び船底塗料に関する文献140編と本1冊を収集し、その抄録を行った。なお、これらの文献等については、各アイテム毎に整理番号を付し、事務局に移管した。
1) 防汚剤の溶出機構        9編
2) 船底塗料の試験方法       7編
3) 表面粗度と摩擦抵抗・燃費節減   4編
4) 船底塗料関連(配合・性能)
ア) 報文            19編
イ) 日本特許          39編
ウ) 外国特許           8編
5) 安全衛生            29編
6) 生物関連           18編+1冊
7) その他             7編    
合計140編+1冊
■事業の成果

就航後の船体損傷例の大部分は構造材の腐食衰耗によることが明らかにされている。これは従来の塗装設計が経験ペースによるものであり、防錆塗膜の性能が十分理論的に把握された上で、設計及び就航後の管理がなされていないことに起因している。
 そこで近年、飛躍的に進歩してきた分析機器及び評価手法を適用して、塗膜の劣化度の実用的評価を行うとともにさらに塗膜の劣化促進法の開発により早期評価法の作成及び実環境における塗膜の劣化と促進試験による劣化の相関を考えたデータベースの作成が必要である。
 また、表面処理グレード、変動荷重と塗膜性能の関係も把握しておく必要がある。さらに、船舶・海洋の塗装系でもう一つ重要な性能は、船舶運航の燃料経済における耐生物汚損性であり、このため生物汚損の定量的把握と長期防汚塗膜の性能評価法の確立が必要である。
 本調査研究は、以上の観点から昭和60年度から5ケ年計画で実施し、本年度は調査研究の第4年度として、下記の成果が得られた。
 塗膜の耐久性に関する試験及び評価法については、従来から使用されていた外観、付着力、吸水率、Cl浸透深さ等塗膜劣化判定方法による結果と本年度実施・検討した電気化学的判定法による結果を比較した結果、電気化学的手法としてはtanδの周波数依存性が有用であり、実験室規模の試験において塗膜内部の欠陥の進行状態は電気化学的手法によって検知できる見通しが得られた。
 表面処理グレードと塗膜の耐久性については、10種の処理グレードと3種の防食塗料を組合せた塗装試験により、表面処理グレード差による塗膜の劣化度合の関連について多くの知見が得られ、変動荷重と塗膜の耐久性に関しては、マイクロコンピュータ援用による交流インピーダンス計測の有効性が確認できた。さらに耐久性データの総合的判定法の検討として、昨年度作成のデータベースにSR182、SR201のデータの他3ケ所の実海域での試験データを追加し、データベースの充実化を計るとともに、塗膜による防食の信頼性を向上させるためのシステムを提案した。
 一方、防汚塗膜の耐生物汚損性については、回流水槽試験、大形ロータリー試験結果の比較により、スライムの脱落限界速度、流速と防汚塗膜の残存量の関係についての知見が得られた。(これらの知見については、次年度実船実験結果との比較確認が行われる予定)
 以上、船舶・海洋構造物の塗装仕様の最適化及び防錆塗膜の耐久性及び長期防汚塗膜の耐生物汚損性に関する貴重な成果が得られ、これらの成果は、次年度総合的とりまとめを行うことにより、船舶・海洋構造物のメインテナンスの向上、あるいは船舶の運航上の燃費節減に大いに役立つものと思われる。





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