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■事業の内容

(1) G.P.S.衛星電波受信装置の改造
 前年度までに試作開発したG.P.S.衛星電波受信装置の主要部分等構成品を活用し、実用性能を向上させるため次の改造を施した。
[1] アンテナ・ケーブルの延長
 当初の50mケーブルを100mに延長し、使用場所の制約の緩和を図った。この延長に伴う受信感度の低下を防ぐため、プリアンプを増設した。
[2] データ・レコーダ及び電源部の改造
 データ・レコーダをバッテリー内蔵型に取り替えた。また、本体電源部も交流電源から直流電源に改造し、小型軽量化及び内部発熱の低下を図った。
[3] 密閉型筐体の採用
 本体及びデータ・レコーダを収容できる密閉型トランクケースを採用し、携帯性を向上させた。
[4] 受信信号出力形式の改造
 本体からデータ・レコーダに出力する信号の形式に汎用性を持たせるため、並列転送方式から直列転送方式(RS-232C)に改造した。
(2) 位置決定計算プログラムの開発及び改良
 前年度までに開発した固定点用の位置決定計算プログラムを次のように整理し、改良を行うとともに移動体の位置決定計算ができるプログラムの開発を行った。
[1] 前処理プログラム
 膨大な生データに含まれている雑音成分及び不良データの除去とデータ量の圧縮を行い、計算時間を短縮する目的で、多項式による近似、標準偏差による不良データの削除の論理、15秒ごとのポイントデータの生成の各方式を採用した機能のプログラムに整理・改良した。
[2] 位置決定計算プログラム
 本プログラムは、1既知点と1未知点の2地点で得られた疑似距離データを[1]の前処理を施して未知点の位置を決定するものであり、次の機能と制約を有する。
a. 単独測位か、2点同時測位かの選択
b. 高さを固定した2次元測位か、3次元測位かの選択
c. 2衛星以上の受信がある場合に位置決定が可能であり、2衛星での2次元測位、3衛星以下の場合の3次元測位には衛星が十分に移動する時間にわたる観測を必要とする。
d. 一般に未知点が移動している場合に適用できるが、固定していても移動速度を強制的に0と与えて解くことができる。
e. データを句点ごとに圧縮するか指定できる。
f. 位置の計算結果は毎正分及び30秒に出力できる。
g. 補正項としては、中性大気及び電離層による電波伝播遅延について行ってある。その他の項目は評価の結果行っていない。
h. 既知点は固定点であること。
i. 2観測点における同時刻のデータについてのみ計算を行う。
(3) 試験観測
 自動車及び船舶に搭載して、移動体用に改造された受信装置の性能を確認し、他の測位方式と比較して、精密測位システムを総合的に評価するために下記のように実施した。
[1] 陸上移動試験
 固定点としては、第1回は水路部屋上点、第2回は国立天文台B点を選択し、移動体は自動車として、それぞれ受信装置を設置した。
 試験区間はいずれも、中央高速道路の調布〜八王子間とし往復して行った。結果としては地図そのものの誤差、地図に記入する際の誤差、路面高の補正誤差が含まれるが、概ね図上1mm程度(約25m)のずれ以内であり、良好な性能であると考えられる。
[2] 海上移動試験
 固定点としては、国立天文台B点とし、移動体としては、第1回は測量船「海洋」で相模湾内を移動し、ロランC測位と比較した。第2回は測量艇「くりはま」で横須賀沖を走行し、マイクロ波電波測位機のトライスポンダによる測位と比較した。
 第1回の結果については、2日間でも差があるが、良好な部分では、経度方向で約160m、緯度方向で90mのズレが認められた。ばらつきとして十分小さいので、ロランC測位のもつ系統的な誤差があるものと考えられる。
 第2回の結果については、衛星の配置によって異なるが、平均的なトライスポンダ測位とのズレは3〜6m、バラつきは11〜18mであった。
(4) 報告書の作成
[1] 規格   A4判 90頁
[2] 部数   100部
[3] 配付先  関係官庁、関係団体等
■事業の成果

沖合海上及び離島周辺海域における測量、調査に適する高精度かつ小型軽量な自動測位装置の開発の要望に応えるため本研究を進めた。今年度は、3年計画の最終年度として、前年度までに研究開発した試作機の実用性能を向上させるため、まず受信装置の改造を行い、次に取得したデータを後処理して固定または移動する未知点の位置を精密に計算できる電算プログラムの開発・改良及びシステム評価試験を行い、次のような成果を得た。
(1) 2点同時観測用G.P.S.衛星電波受信装置の開発
 小型、無指向性アンテナを有し、携帯に便利なトランクケース入り直流電源方式の受信装置及びデータ・レコーダによる精密測位システムが完成した。アンテナ・ケーブルは最長100mまで使用できるので、アンテナ設置条件が有利となった。
(2) 2点同時観測方式の位置決定計算プログラムの開発
 固定点と他の固定または移動未知点の2点同時観測データにより高さを固定した2次元測位、高さも求められる3次元測位等応用範囲の広い位置決定計算プログラムを開発した。
(3) システムの評価
 最終的な評価は難しいが、スペースシャトル爆発事故に起因するG.P.S.実用衛星の打上げの相つぐ延期のため、僅か6個の試験衛星により、しかも衛星配置の悪い状態において、トライスポンダ測位との差、3〜6mを得たことは研究委員会でも大きく評価された。今後の見通しとしては、実用衛星が打上げられ衛星配置が良くなれば、当初の目標を充分達成することができ、海難防止に寄与するところ大なるものがある。





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