日本財団 図書館


■事業の内容

(1) 新世代船舶技術の開発及び実用化のための調査研究
[1] 開発・実用化のための研究開発計画の検討
a. 新世代船舶技術の開発実用化に必要な研究・開発課題の抽出・検討結果の取りまとめ(実施場所:三菱、三井、石播)
 各作業グループで進めた調査研究の結果、新世代造船システムが造船業存続のための必要条件を整えるために有効であり、外部環境の激変に対応して変化せざるをえない造船業が実現を図るべき重要な施策であること、しかも造船業自らが開発しなければならないものであることがわかった。また、電算機等の周辺技術が急速に進展しているなかで、他産業がこれらの成果を積極的に取り入れてCIMS化を図っていること、及び諸外国においても造船業のCIMS化が時代の趨勢であることもわかった。
 これらのことを考慮するならば、わが国において造船業が他産業に対し劣後化しないためにも、また優秀な船舶を供給するというわが国の国際的責務を考える上でも、今この時期に造船業のCIMS化、即ち新世代造船システム開発のための施策を早急に推進することが重要である。
 本調査研究の結果得られた新世代造船システム開発のために実施すべき研究開発課題の概要を要約すると下記の通りである。
即ち、造船CIMSに関しては、本研究成果に基づいて提案された多くの先端的計算機利用技術を用い、またプロトタイピング等の未来型の開発手法を駆使することがあらゆる面から必要である。従ってまずパイロットモデルの開発による下記先端技術項目の検証を行い、効率のよい言語・環境・手法を準備して本格開発に移行することが最も有効であろう。
(a) プロダクトモデル
(b) エキスパートシステム
(c) オブジェクト指向システム
(d) エンジニアリングデータベース
(e) システム開発手法としてのプロトタイピング
 新船体構造設計に関しては、広い適用範囲の確保と迅速性を達成するために、手法の精密化、一貫性が必要であり新しい理論、手法に関する基礎研究課題(a)〜(f)と、システム化課題(g)〜(l)が推進されるべきである。
(a) 船体構造解析のための荷重解析手法の研究
(b) 迅速・高精度応力解析手法の研究
(c) 座屈・崩壊強度の高精度解析手法の研究
(d) 疲労・破壊強度の高精度解析手法の研究
(e) 信頼性評価手法の研究
(f) 大型実験/実船計測による構造応答の総合研究
(g) 構造解析モデリングシステム
(h) 高精度船体荷重解析システム
(i) 迅速・高精度構造解析システム
(j) 船体構造強度算定システム
(k) 船体構造強度総合評価システム
(l) 構造設計支援インテリジェントシステム
 数値水槽に関しては、波浪中を含む推進性能を実用的な精度で推定する技術研究が必要である。このために数値シミュレーション技術研究課題(a)〜(c)が推進されるべきであり、更にこれらの研究の成果を踏まえてプロトタイプシステム開発課題(d)〜(e)が推進されるべきである。
(a) 流場解析モデルの研究
(b) 推進性能解析モデルの研究
(c) 高密度模型試験による理論モデルの評価検証
(d) 統合システムのあり方の研究
(e) 要素シミュレータ開発研究
 造船CIMSと、新船体構造設計法及び数値水槽とは、最終的に新世代造船システムとして統合されるべきものではあるが、それぞれ課題の性格・内容が異なるために開発の取り進め方もそれぞれ若干の違いがある。
 即ち、造船CIMSの開発に関して言えば、業務要件を実現するためのシステム構築に必要なモデリング等の各要素技術は、それぞれに研究室レベルでは実現の可能性が期待されるので、それらの要素技術を的確に評価し、大規模システムとして如何に統合するかが主要な課題である。その実現のためには、前もってこれらの要素技術が我々のシステムで統合し利用することが可能であり、期待通りの効果を発揮できることと、複数の候補がある場合はどの方式を採用することが最適なのかを技術的に検証しておくことが、その後の本格開発を効率的に進めるために重要である。
 新船体構造設計法の開発は基礎的課題とシステム化課題の両面に大別されるが、システム化の基幹をなすモデリングの部分は造船CIMSと共通化を図るのが必須であり、一方、基礎的課題については前記とは無関係に早急に着手することが可能である。また、数値水槽の開発はシステム化開発の前に基礎理論の研究を大きく前進させることが必要である。
 従って、新船体構造設計法及び数値水槽の開発に関しては、システム化技術と基礎技術の各々の研究関発の手順について、開発の全体の進め方との関連で検討することが必要となる。
(2) 新世代造船システムの構成要素に関する調査研究
[1] 3次元モデリングの手法に関する調査研究
a. 構造部材配置システムの研究と全体システムへの機能要件及び開発課題の検討(実施場所:日立、NKK、住重、川重、三菱、石播、三井、東大、船研)
 造船CIMSのモデリングには構造物の3次元モデル表現だけでなく、設計変更に柔軟に対応できること、ブロック分割、ブロックから部品への展開が可能であること等が要求される。
 従来のモデリング手法の枠にしばられることなく、昨年に引き続きモデリング理論の調査研究を実施し、修得したオブジェクト指向等の新しい考え方をベースとしたモデリング手法を開発した。これを船体構造に適用、船体構成部品とその結合関係を“物”オブジェクトと“関係”オブジェクトにより表現、これをネットワーク接続することにより船体構造のモデル化が容易に行えることを検証した。更に以下の操作を実施し、期待通りの機能を有していることを確認した。
・ 構造物に於てある構成部材を移動すると、その周辺の部材が構造上矛盾なくうまく追随して移動或は変ること。
・ ブロック分割ができること。
・ 部材の形状・重量等必要な情報を容易に表示できること。
b. 構造部材工作情報付加システムの研究と全体システムへの機能要件及び開発課題の検討(実施場所:大手造船所7社、東大、阪大、船研)
 工作モデルは変化していく工作プロセスの流れを動的に表現する必要がある。船に関する設計情報と工作法・作業者・工場に関する各種情報から物モデル、工程モデル、作業モデル、設備モデルを作り、これを組み合わせることにより、工作プロセスを表現する手法を考案した。本手法を船体ブロックを対象として加工と組立工程に適用し、上記4モデルを種々の条件の下に組み合わせることにより最適化条件を求めるシミュレーションができることを検証した。
 また加工工程のモデルで部材および複数の部材をネスティングした鋼板の切断長、切断時間を算出する操作、組立工程のモデルで組立手順の表示、作業内容の出力、組立部材および組立ブロックの形状出力、日程表の出力等の操作を行い、期待した結果が得られることを確認した。
[2] エキスパートシステムの開発に関する調査研究
 AI技術の中で特に広範な応用分野があり、かつ実現性が高いと期待されるエキスパートシステムについて、最新の言語・ツールを用い、造船での特徴的な業務を対象として試作を行い、エキスパートシステムについての要件の明確化と実現に当っての技術開発課題の検討を行った。また、造船の設計/工作分野でのエキスパートシステム化対象業務とその機能要件の抽出を行い、これらに対し、上記試作研究によって得られた知見を基にエキスパートシステム化の方法について検討を行った。
a. 主要目決定AIシステムの研究と全体システムへの機能要件及び開発課題の検討(実施場所:大手造船所7社、東大、試作担当:三井、石播)
 船舶設計の最上流工程である船体主要目決定を支援するエキスパートシステム実現性を探った。知識の抽出・整理の結果、設計問題における知識には、設計対象に関する知識と設計過程に関する知識がある等、貴重な知見が得られた。オブジェクト指向言語を用いたプロトタイピング手法により、システム設計・テストプログラム作成は従来手法と比べて容易に行えたと思われる。制約指向を取り入れた本試作システムは、設計支援に有効ではあるが、システム構築法やツールが整備されていない現段階では実用システムの構築にはまだ多くの困難が伴うと評価された。
b. 機器配置決定AIシステムの研究と全体システムへの機能要件及び開発課題の検討(実施場所:大手造船所7社、阪大、試作担当:日立、川重)
 上甲板上係船機器を対象として、仕様設定と合わせた機器の総合配置検計を支援するエキスパートシステムについてARTを用いて試作を行った。配置を支援するエキスパートシステムに於ては、対象物の持つ機能、特性、それを扱う知識を十分に分析し、対象物間の配置決定上の優劣関係、依存関係を明らかにしてシステム設計を行うことが肝要であり、トップダウン精密化戦略、生成検査法を用いた問題解決が有効であることが判った。試作したシステムは、実務レベルと比べ十分とはいえないが、配置問題への取組み方とその有効性について確認することができた。
c. 構造部材決定AIシステムの研究と全体システムへの機能要件及び開発課題の検討(実施場所:大手造船所7社、船所、東大、試作担当:三菱、住重)
 油槽船中央部トランスリング初期設計と前後部トランスリング倣い設計とを対象として、ARTをツールとしたエキスパートシステムの試作を行った。試作の中ではARTの利用方法/実行環境/性能の確認、構造部材情報の表現法の検討、外部システムとの結合と多量の数値データを扱う手続処理の効率的記述法の検討等に注力した。
 現環境下では、エキスパートシステムで大量の部材/属性情報を一挙に取り扱うには問題もあり、比較的小規模な対象に分割する等、導入方法に関する検討が必要な事が判った。
 以上の試作結果を基に、エキスパートシステムの造船への導入方法についての検討も行った。開発に当っては、解析型と比較的実現性の高い合成型問題領域を当面対象とし、ユーザのカスタマイジングが可能な汎用ツールをベースとした造船向けのシステム開発環境の整備のもとに、造船関係者が主体となって取組むことが適切である等の指針を得ることができた。
[3] 情報統合化に関する調査研究
a. 造船広域情報システムの開発課題の検討(実施場所:三菱、石播、三井)
 62年度研究で実施した「情報通信システムの概念設計」を基に造船広域情報通信システム(造船VAN)の要件を整理し、システムの体系、開発方式、開発費用、運用費用、所要開発期間等について詰めを行ない、システム計画書を作成した。これにより造船VANを実際に構築する際の規模、範囲等を明確にし、費用見積及びスケジュールの立案、投資対効果の検討など、総合的な評価を行い、造船VANの実現性、実現時期等についてまとめた。
b. 造船所内情報通信システムの研究と通信システムへの機能要件及び開発課題の検討(実施場所:大手造船所7社、東大)
 造船所内の情報の量と流れの調査、及び工場シミュレータの試作を通じて造船CIMSの通信のあり方、特にCIMS化工場のあり方を検討した。現在の造船所内では船殻関係で約2Gバイトの情報が生成伝達されており、造船CIMSでは約10GB/隻の情報量になると推定される。LAN自体の容量は現状でも十分に大きく、今後共技術面での不安は少ないが、むしろ通信の国際標準の動向に注目することが重要である。又、現状の情報の流れは複雑過ぎ、人間のスキルで補う面が多いが、システム化以前の問題として、業務のフローの見直しも重要である。
 工場シミュレータの試作等によりCIMS工場のイメージを把握し、これを展開して造船CIMSの全体像をハード構成図にまとめることが出来た。
c. 造船データベースの整合性実現のための調査研究(実施場所:大手造船所7社、東大)
 関係データベース(RDB)を造船CIMSに適用する際の課題を把握する目的で、タンカーの構造部材の操作を行うシステムを試作した。データの初期入力、修正、追加等のデータ操作部分と、それを支援し、結果を確認する為の図形処理部分を専用の操作言語としてまとめ、これを使ってRDB活用の課題をまとめた。汎用のRDBを使うことにより、データベース管理に関する複雑な処理から開放され、周辺のソフトの開発、拡張はその生産性が大巾に向上することが期待される。一方当初から懸念された処理速度には問題が残っているとの報告があったが検討の結果、RDBに関するスキルが向上すれば処理速度を含む多くの面で向上が期待出来、更にRDB専用機の利用も有望であるので、今後更にこの面の検討を進めるべきであるとの結論を得た。
d. 新世代造船システムに要求される機能に関する研究(実施場所:大手造船所7社、東大)
 造船CIMSの業務要件を10個の各サブシステム毎にまとめた。この要件は各サブシステムが持つべき主たる機能が示され、造船CIMSの大枠を検討するためのものである。これをベースに造船CIMSに適用されるべき要素技術の検討と、システム全体の構成の討議が行なわれ今後検討をすすめるべき方向が示された。すなわち、オブジェクト指向によるプロダクトモデル及び関係データベース(RDB)の利用等の有効性、国際標準を重視した通信システムの重要性、適用箇所に注意を払えばエキスパートシステムが有効なこと、更にはソフト開発におけるプロトタイピングの有望性等が折り込まれている。
 今後、これらの大枠を個々のサブシステム自体迄検討を深めることにより造船CIMS開発を具体化する必要がある。
(3) 新船体構造設計法に関する調査研究
[1] 船体構造解析のための荷重解析法に関する調査研究
a. 設計海象設定法の試案検討(実施場所:NKK、三井、東大、東船大、防大、船研)
(a) 波浪情報データベースの試案のまとめ
 荷重連絡会における各WGからの要望を盛り込み、波浪情報データベースのあるべき姿として、船舶通報データや波浪追算値を整理、統一した「基本情報データベース」と波浪発現頻度表、波向・波高結合分布等に加工された「代表値データベース」の2つで構成されるデータベース構想を具体的にまとめた。またこれの基になる波浪データの所在、信頼度、検証・補正の方法、今後進めるべき研究課題を提案した。
(b) 設計海象設定法の試案まとめ
 設計荷重算定のために使用すべき海象の設定法として各WGの要望を考慮した上で、各強度評価の目的に適合した海象として「統計的予測」、「代表海象」、「極限海象」の3つの海象を提案した。また、「代表海象」については駆逐艦、ばら積み船、貨物船を供試船とし、「極限海象」については80型タンカーを供試船とする試解析を実施し海象設定の手法を示した。さらに、波浪中の船舶が実際に遭遇する海象に対する操船の影響を明らかにするために、二、三の特定海域における固定ブイとその近傍を通過する船舶からの通報風速データを比較し、遭遇海象に対する操船モデル構築に際しての問題点を摘出した。
b. 高精度船体運動、波浪荷重解析法の研究課題の検討(実施場所:NKK、三菱、三井、石播、九大、東大)
 船体運動・波浪荷重の解析手法の問題点を抽出するために、80型タンカーを供試船にして、線形解析法についてはストリップ法および3次元特異点分布法を、非線形解析法については時刻歴解析を用いて試解析を実施し、現状の解析法の問題点を明らかにすると共に今後研究すべき課題を調査した。また、衝撃荷重、スロッシング荷重などの特殊荷重の取扱いについて現状を調査し問題点の整理を行った。各種荷重が位相差をもって同時に作用することによる荷重の複合性の、実用的で合理的な解析法については文献調査を中心に検討し問題点の整理と研究課題を抽出した。さらに、線形および非線形な荷重応答を確率論的な手法で推定する際の問題点を整理し、開発課題を明らかにした。
c. 実船計測による荷重解析検証方案の検討(実施場所:住重、船研、NK)
 実船計測連絡会における検討結果を踏まえ、荷重解析法の妥当性を検証するための波浪荷重計測法、不規則応答の評価法を調査し、実船計測の基本計画として立案するとともに課題の抽出を行った。
d. 高精度船体運動・荷重解析システムの開発課題の検討(実施場所:日立、石播)
 ADDAシステムにおける船体運動・荷重解析の基本フローをもとにして、システムとして具備すべき機能を整理し、各機能単位にサブモジュールとしてまとめた。更にこのサブモジュールを構成して荷重解析システムの概念を構築した。
e. 荷重/応力/強度評価の総合設計法としての検討(実施場所:川重、三菱、石播、三井)
 荷重連絡会における検討結果を踏まえて、座屈・崩壊強度評価、疲労・破壊強度評価それぞれの特異性を考慮した荷重設定法を整理し、さらに、これらを構造応答解析や信頼性解析に適用する際の留意点を調査した。まず座屈・崩壊強度評価用としては座屈強度設計の各段階(座屈検討、崩壊検討)毎に適切な荷重を設定する。一方、疲労・破壊強度評価用としては、解析の精粗(一次判定、二次判定)によって荷重設定法を使い分ける。これらの結果は各強度評価目的ごとにまとめて示した。
[2] 最終強度高精度解析法に関する調査研究
a. 最終強度に基づく座屈設計法の検討(実施場所:三菱、三井、住重、NKK、川重、東大、阪大)
 座屈後の強度を考慮した最終強度評価に基づく座屈設計法に関し、座屈・崩壊の2段階評価、荷重条件の取扱手法、精査解析箇所の選定法、信頼性工学を導入した強度評価手法について調査・検討を行い、全体構造から部分構造、構造要素へと上位構造から下位構造へ最適な強度配分を行い、全体的に強度バランスのよい設計を行い得る座届設計法の基本構想を構築した。また、この座屈設計法の具体化のための課題を抽出するとともに、その対策について検討を行った。
b. 最終強度高精度解析法の研究課題の検討(実施場所:川重、船研、筑波大、広大、阪大、東大)
 座屈設計法へ適用すべき最終強度の解析法に関し、非線形FEM解析法については高速非線形アルゴリズム、簡易解析法に関しては各手法の特性と適用範囲について調査・検討を行い、今後の課題と対策を検討した。
 又、解析モデルの自動生成法に関し、座屈設計法として有すべき仕様を検討し、現状の自動生成法の問題点と開発段階の手法を調査し、今後の課題をまとめた。
 更に、座屈設計法における最適設計処理として不可欠な再解析と感度解析法に関し、理論的研究の現状に関し調査を行い、今後の課題を抽出した。
c. 船体構造強度算定システム(最終強度)の開発課題の検討(実施場所:石播、日立、川重、広大、筑波大、阪大、東大)
 座屈設計法をシステムとして具体化するために、(a)で構築された基本構想に基づき、荷重条件に対する構造応答解析と座屈・崩壊強度の算定、再解析・感度解析、及びこれらの解析の前処理と後処理である解析モデルの自動生成と解析結果などのグラフィック処理等をサブシステムとしたシステムフローをまとめるとともに、各サブシステムの機能とデータベースを明確にした基本仕様をまとめた。また、これらサブシステムに関連した市販ソフトとその将来動向を調査し、今後の課題と対策を検討した。
d. 船体構造強度評価システム(最終強度)の開発課題の検討(実施場所:三井、三菱、住重、川重、NK)
 座届設計法をシステムとして具体化するために、基本構想における強度評価に関する部分、すなわち部材重要度の設定・再設定、崩壊モードの抽出、及びDEMANDとCAPACITYの算定結果に基づく信頼性評価等をサブシステムとするシステムフローを作成するとともに、各サブシステムの機能とデータベースを明確にした基本仕様を検討し、具体化する上での開発課題をまとめた。
e. 大型検証実験の方案検討(実施場所:川重、船研)
 座屈・崩壊強度を算定する各種解析法の精度の検証、適用範囲の明確化を目的とした、大型部分模型及び廃船を利用した崩壊実験に関し、従来の小規模な実験では不完全で、実船との相似条件を満足する、又、実船と同様の崩壊モードが現われる、即ち崩壊強度及び崩壊のメカニズムが実船と同様の結果が得られる実験をめざし、合理的な実験計画の方案を作成するとともに、具体的な問題点の抽出を行った。
[3] 疲労・破壊強度の高精度解析法に関する調査研究
a. 疲労強度に基づく設計法の検討(実施場所:大手造船所7社、NK、東大、阪大、九大、広大、船研)
 一般船殻構造の強度設計は、長年の間に培われた膨大な実績を基礎に、いわゆる経験工学に基づく各国船級協会規則などを基準に行なわれてきた。すなわち、近似的な強度解析(部材力や応力の解析)を行なって損傷実績を基にした許容応力を設定し、それによる相対的評価を繰返しながら改良を加えるという手法に頼ってきた。
 本調査研究では、疲労・破壊強度設計手法の確立を目指して、船体構造における疲労き裂の発生、伝播、不安定き裂の発生、伝播、伝播・停止といった一連の損傷モードを念頭においた、信頼性の高い解析手法について、調査・検討し、疲労設計全体フロー、すなわち、荷重評価/応力解析/疲労強度解析を一貫して行なう設計フローを完成した。また、工作精度の取扱い方針や、腐食環境の影響に対する取扱い方針を決定した。
b. 疲労・破壊強度高精度解析法の研究課題の検討(実施場所:三井、NKK、三菱、東大、阪大、九大、広大、船研)
 疲労・破壊強度の高精度解析においては、船体構造部材に発生する最大応力のみならず、その応力振幅や平均応力の長期頻度分布の把握が必要である。
 関連W.G.すなわちW.G.1・4・5および荷重・部材重要度・実船計測連絡会と連携して、ADDA疲労設計法開発・実用化に必要な、疲労・破壊強度高精度解析手法確立のための研究課題を明らかにした。
c. 船体構造強度算定システム(疲労・破壊強度)の開発課題の検討(実施場所:大手造船所7社、東大、阪大、九大、広大、船研、NK)
 疲労・破壊強度解析を対象に、船体構造強度算定システムにおける全体解析、部分解析、局部解析のあり方について検討した。
 さらに、疲労・破壊強度解析システムのフローを完成すると共に、疲労・破壊強度評価における応力解析のフローを完成し、問題点を明らかにした。
d. 船体構造強度評価システム(疲労・破壊強度)の開発課題の検討(実施場所:大手造船所7社、東大、阪大、九大、広大、船研、NK)
 船体構造部材の疲労・破壊強度の評価に当り、検討する部位での応力振幅や平均応力に対する許容応力を定める必要がある。その基礎検討として、疲労強度評価ミニパイロットシステムを作成し、応力頻度分布が疲労強度に及ぼす影響の試計算を行なった。
 さらに、上述の疲労設計全体フローにおいて、精査必要箇所選定(一次判定)や、疲労・破壊強度高精度解析結果に基づいた、疲労・破壊強度総合評価(二次判定)の内容を検討し、これらを開発・実用化するための問題点を明らかにした。
e. 大型検証実験の方案検討(実施場所:三井、NKK、三菱、東大、阪大、九大、広大、船研)
 疲労・破壊強度に関する実船計測による検証やモデル試験による検証内容を明らかにした。すなわち、モデル試験による疲労き裂発生・伝播寿命や伝播径路、廃船を利用した脆性き裂伝播停止試験、および実船計測用疲労被害度ゲージの開発などについて検討し、検討結果を実船計測連絡会に提案した。
[4] 構造信頼性評価法に関する調査研究
a. 船体構造強度における部材・損傷重要度の評価法の概念検討(実施場所:日立、三井、府大、NK)
 昨年度実施した信頼性工学の導入のための調査研究結果に基づき、本年度は船体構造強度に信頼性工学を具体的に適用する際に課題となる部材・損傷重要度について調査研究を実施した。部材重要度の定義については一義的に決めることはできなかったが、夫々の定義に応じての評価法あるいはその適用法を検討した。更に損傷実態からの考察や設計理念との関係についても調査を行った。
 なお、本項目については「部材重要度連絡会」を開催して各WG間の横通しを図った。
b. 信頼性解析による船体構造強度評価法の研究課題の検討(実施場所:三井、日立、東大、横国大、航技研)
 座屈・崩壊の面から船体構造強度を信頼性評価し、強度ランク評価法へと結びつけるための研究課題を明らかにした。課題の中で最も重要なものは限界状態基準式の導出であり、全体構造レベル及び部分構造レベルに分けて検討を試みた。
 また疲労・破壊の面からは設計寿命評価法確立のための研究課題について検討を実施し、安全寿命設計法及びダメージトレラント設計法のそれぞれの場合について課題を示した。
c. 船体構造強度総合評価システムの開発課題の検討(実施場所:NKK、三井、川重、三菱、石播、横国大)
 まず、現状の船体構造強度評価における問題点を明らかにしたのち、開発すべき評価システムのあり方について検討を行った。本システムは荷重あるいは応力解析システムからの応答(Demand)と座屈・疲労等のシステムからの強度(Capacity)算定結果とから船体構造強度を総合的に判定するためのシステムである。具体的には簡便な1次判定と詳細な2次判定の2本立てで構成され、それぞれの機能要件等について明らかにした。
d. 総合実船計測における評価検証法の検討(実施場所:住重、日立、船研)
 本項目については「実船計測連絡会」を中心に作業を実施した。過去の実船計測例をレビューしたのちセンサー等の関連技術につき調査を実施した。この結果を踏まえ、波浪荷重・座屈崩壊強度、疲労破壊強度及び信頼性解析についての評価検証法のあり方と基本計画について検討を行い指針を設定した。
 ADDAシステムの検証については実船計測と大型模型実験(廃船による実船実験を含む)が是非共必要である。
[5] 船体構造解析システムの基本仕様に関する調査研究
a. 全船一体解析及び詳細構造の迅速・高精度解析手法に関する検討(実施場所:日立、三菱、川重、石播)
 先づ、解析に先立つインプット作成に必要な各社CADから構造解析に必要なデーターの抽出方法について検討し、CRTに描いた構造図よりデーターを読みとる方法などについて検討した。次に解析の主たる過程となるソルバーが稼動すると考えられるスーパーコンピュータのチューニング効果などについて調査研究した。特殊な解析手法は一つである確率有限要素法についてその内容を調査し、将来の船舶の設計における設計合理化に対する有力な手法であるとの認識を得た。最後に、解析結果を表現するグラフィックディスプレイ機能調査、利用方法などの検討を通じ、今後の構造解析結果の表現手段として不可欠であることを指摘した。
b. 各システムとのインターフェース及びデータベースの検討(実施場所:日立、NKK、住重、三菱、石播、三井)
 各サブシステムからの要求項目について調査し、各々で必要とするデータ項目、インターフェース項目について検討した。データ項目については各サブシステムと構成するサブモジュール毎に検討した。又、各サブシステムに共通なデータは最も関連が深いと思われるサブシステムの項に分類し、その関連はデータベース一覧表としてまとめた。
 インターフェース項目についても、各サブモジュール毎の入出力項目を検討しサブシステム間・外部システム一人とのインターフェースについて調査・検討を行った。
c. 解析システムの開発課題の検討(実施場所:日立、三菱、川重、石播)
 ここでは、構造解析で必要は特殊なアルゴリズムについて検討した。ADDAでは、ぼう大な荷重ケースについて解析する必要があるが、もし、任意の荷重がパターン化された荷重の線形和で表現できるものならば、解析はパターン化された荷重についてのみ実施すればよく、計算ケースを大巾に減少させる事ができる。この問題について荷重のパターン荷重での表現方法、線型加算の両面から検討した。
 次に、設計合理化に不可欠な再解析について、求められる再解析を分類し、各々の再解析のアルゴリズムとしてどのようなものが適当であるか検討し、反復法をベースとした手法の有効性を確認した。最後にADDAで実施する構造解析のように、ぼう大な情報を取扱うシステムにおいては中心的役割を果すファイリング手法について検討した。FORTRANをベースとしたファイリング手法では現状でほぼ限界に達しており、新しく開発された高級言語の適用が必要との認識を得た。
d. 新船体構造設計システムの構成についての開発課題の検討(実施場所:日立、NKK、住重、三菱、石播、三井)
 設計法から見たシステム機能要求を調査し、それに基づいてシステムを6個のサブシステム、35個のサブモジュールから構成されると考え検討を行った。各々のサブモジュールで必要とされる機能を検討する事で各システムの仕様を作成した。また、全体システムについて基本仕様、概念図をまとめた。
 ADDAにおける関連ソフトについて米国における大規模構造解析システムの現状と将来計画について調査を行い、ADDAシステム検討の資料とした。
[6] 新船体構造設計法の概念設計に関する調査研究
a. 新船体構造設計法の概念設計案の検討(実施場所:日立、NKK、川重、三菱)
 前年度に調査・検討した新船体構造設計法の基本構想を出発点として、現状の構造設計法の問題点を抽出、整理するとともに、新船体構造設計法の概念、開発目標などについて検討を行った。
 さらに、新船体構造設計法の開発・実用化のために必要な研究開発課題をWGと調整しながら取りまとめ、開発の進め方についての提言を行った。
b. 設計法から見たシステム機能要求事項の検討(実施場所:三菱、石播、三井)
 上記(a)項と平行して、新船体構造設計法の設計フローを検討し、設計法としての主要作業を明らかにした。
 また、その設計法を実現する具体的システムを次の6つに集約し、設計者の立場から見てシステムに要求される機能について検討、取りまとめた。
○ 構造解析モデリングシステム
■事業の成果

本研究は昭和62年度から2か年計画で開始され、すでに述べたように、3次元構造物のモデリング手法、主要目や機器配置等を決めるAI技術、情報統合化技術等の試作を含めた調査研究、新船体構造設計法確立に必要な荷重解析法、座屈崩壊強度及び疲労破壊強度の高精度解析法、構造信頼性評価法及び構造解析システム等の調査研究並びにNS方程式の解法、波浪中抵抗増加理論の高度化、プロペラ性能の数値解法等船体及びプロペラ周囲流場の数値解析法の調査研究を行って、わが国造船業の再活性化のための必須課題である造船技術の革新的高度化を実現する、1)造船業を労働集約型産業から知識集約型産業へと脱皮させる造船CIMS、2)構造設計を経験工学から脱皮させる新構造設計法ADDA、3)船型開発を水槽試験の制約から解放する数値水槽、の3課題実現の鍵となる重要なブレークスルー技術についての問題点の抽出及び研究開発課題の整理を行った。
 これらの成果は、わが国の造船業が今後とも国際競争力を保持し、海運業に対する優秀な船舶の安定供給と船舶の近代化の推進という経済社会の重要な責務を果たし続けて行くための重要な指針となるとともに今後の造船業のあり方を決める政策上の指針としても役立つと思われる。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION