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■事業の内容

(1) 新世代船舶技術の開発及び実用化のための調査研究
[1] 新技術の動向の調査(担当:三菱・三菱総研)
 調査WGにて審議した仕様書にもとづき、三菱総合研究所に委託した調査の結果、以下の結論を得た。
 新世代造船システムの期待する技術環境は全般に相当整備され、ハード面、ソフト面において日進月歩の急速な進歩が予測される。又、数値水槽や構造設計へのより高度な理論的、解析的手法の適用とシステム化の実現のためのスーパーコンピュータ、数値解析手法などは実用に堪えるものが得られる。
[2] 船舶における新技術の利用環境とその変化の検討
 (担当:日立、住重、川重、石播、三井、船所、東大)
 新技術を新世代造船システムの中でどのように使っていくかという視点で、(1)大型コンピュータ、スーパーコンピュータ、(2)端末機、周辺機器、(3)通信機器、規約、ソフト、(4)センサー技術、(5)ソフトウェア生産技術、(6)ネットワーク接続テスト等の調査を行い、特に今後の動向に注意すべき技術、新世代造船システムを考える上で留意すべき点などを明らかにした。
[3] 海外における新技術研究機関等の実状調査
 (担当:造船大手7社、調査団)
 昭和62年10月28日〜11月12日、藤田団長以下16名(欧州グループ9名、米国グループ7名)の調査団により欧米の最先端を行く大学、研究所及び先進企業を訪問調査した結果、我々の目指している技術的方向の正しいことが確認できた。また、システム開発の方法については、オブジェクト指向ツール、CASE(コンピュータ支援ソフトウェア開発環境)等の実用化に向けての研究が着実に行われており、ソフトウェア開発環境は整備されつつあると実感された。
(2) 新世代造船システムの構成要素に関する調査研究
[1] 3次元モデリングの手法に関する調査研究
a. 構造物のモデリング手法の検討(担当:大手7社、東大)
(a) 基礎理論の調査研究
 理論の概略調査を文献により行い、形状表現、機能・属性表現、データ構造に関しての理論構成の概要を把握した。さらに、造船モデリング適用への評価を行うため、オブジェクト指向をとりあげ、テストプログラム試作も行った。
 基本的なデータ構造としてはオブジェクト指向を中心にとりあげ、オブジェクトの内部の表現としては、物の属性・機能には述語論理表現、物の階層関係には階層抽象構造をとりあげる方向が、造船モデリングに有用であることがわかった。
(b) 造船システムの参照モデルの調査研究
イ. 造船モデリング要件の調査研究
 設計と生産における代表的な作業の分析を行い、情報一覧表と、各作業単位毎の情報分類表を作成した。これらの表をもとに造船設計生産作業で扱われる情報を、個別の製品に従属する情報と作業過程で情報生成に際して共通に使われる情報とに整理した。
 造船モデリングヘの検討事項としては、造船特有の板骨構造と自由曲面よりなる製品の形状を表現出来る形状モデル、形状情報と工作情報等の属性情報を包括的に扱う事、生産設備のモデリング、加工・組立てプロセスのモデリング等が挙げられた。
ロ. 現状のソフトウェア及びアーキテクチャーの調査研究
 汎用CAD/CAM/CAEシステムの文献および試行による調査を行い、システム機能一覧表の形でまとめた。調査の結果を造船CIMSにおけるCAD/CAM/CAEシステムヘの要求事項と対比し、現状汎用システムの問題点の整理を行った。
 アーキテクチャーに関しては、一般製造業向けCIMSのアーキテクチャーを調査し、さらに造船CIMSとしてのシステムアーキテクチャーのイメージ図を描いた。
ハ. 参照モデルの調査研究
 通信関係としてOSI標準の参照モデルと業界標準になりつつあるMAPおよびTOPの調査を行った。データ交換関係としては、IGES、PDES、STEPについて調査し、造船CIMSとの関連を考察した。特にSTEPの動向に注意を払う必要がある。
 データベースに関しては、汎用のデータベースシステムの調査を行いシステム機能一覧表を作成した。さらにエンジニアリングデータベースとしての適用性、評価を行ない、現状汎用データベースシステムの問題点を整理したが、エンジニアリングデータベースとして要求される複雑な関係を表現するデータ構成等機能は現在市販されているものでは未だ十分ではない事がわかった。
[2] エキスパートシステムの開発に関する調査研究
 文献調査(各社で分担)及びその技術の造船への適用を検討(新世代造船システムをWGでイメージアップし、その中でのAI適用を委員及び各社にアンケート)し、結果をまとめた。又、国内のソフトハウス等の見学及び海外調査報告のAIに関する部分を整理し、全体として「内外のAI技術の動向」としてまとめた。次にAIの中でエキスパートシステムに着目し、現状の代表的ツールの比較、及び4種の代表的なツール及び言語を選び、ミニシステムを試作することにより、それぞれの特徴、問題点を調査検討した。
a. 人工知能の造船への導入方法調査(担当:大手7社)
イ. 内外のAI技術の動向調査
 エキスパートシステム適用事例の文献72件、画像認識関連資料65件の調査を行い、内容を分類整理した。その対象分野は広く、造船への適用も大いに期待出来るが、現状では試作の域を出ないものが多い。ヒューマンインタフェースについては上記文献(記述は少ない)の他、アイテム毎に各社分担して調査し、現状技術レベルと将来方向をまとめた。
 次に新世代造船システムのイメージを固めつつ、システム内のどこにどの様にAI技術が使われるのかを委員及び各社の現場担当者にアンケート形式で調査しまとめた。63年度のシステム要件をまとめる際、この結果を発展させて行く。
b. エキスパートシステムの開発手法の検討
(担当:大手7社、船所、阪大、東大)
(a) 現状ツールの開発手法の調査検討
 国内訪問調査として、ICOT、日本DG等を調査し、AI構築ツールの現状と今後の方向について各々の考えを確認した。又、市販されているツールを各社分担で、カタログのみでなく実際に触れてみることを原則とした比較調査を行った。エキスパートシステム構築用ツールは数多く、システム開発のためにどのツールを用いるかによって環境は大きく異なるが、専門家の知識を上手に表現出来るか否かの決定的な機能は特定できない。更に評価を深める為には、良い環境の中で範囲は狭くても本格的なシステムを試作してみることが必要である。
(b) 新世代造船用エキスパートシステムの検討
 ツール/言語としてART,OPS-83,Smalltalk,Prologを、業務分野として船体主要目/発電機容量決定、係船装置配置検討、ばら積み船の中央横断面図作成、建造日程管理検討を選び、各社分担して検討した。
 試作品自体のレベルは実務からみて不十分だが、試作を通じて新世代造船システム内のAIのあり方について多くの知見が得られた。
 63年度は本年の試作を発展させ、実務に耐えられる高度な専門家システムの構築が可能か否か、其の際の問題点は何かを検討する。
[3] 情報通信システムに関する調査研究
a. 情報通信システムのニーズ・問題点の調査
(担当:日立、川重、三菱、石播、ダイハツ、笹倉)
 ニーズ・問題点の調査のために将来の情報通信システムについて、造船所および関連業界約100社を対象にアンケート調査を実施した。また講演会や文献等によりVAN事業の実際について研究し、アンケート調査結果と合せてニーズ・問題点についてまとめた。その結果、造船/関連業界において情報通信システムの導入に対するニーズがあることを確認し、またシステムの構築、運用に対する問題点の整理を行った。
b. 情報通信システムの概念設計(担当:鋼管、往重、三井、新興)
 情報通信システムのニーズ・問題点の調査結果から造船情報通信システム(造船VAN)の基本構想案をまとめた。
 さらに、これに従って造船VANを構成する各システム機能について検討を行い、概念設計を行った。造船VANは、第1ステップとして既存VANに加入することによりその機能を実現させることとし、通信網構築費やシステムソフトウェアの開発費を最小限に抑制するなど廉価、省力、短納期を目指したシステムとして計画した。
(3) 新船体構造設計法に関する調査研究
[1] 波浪荷重解析法の実用化に関する調査研究
a. 船体強度解析のための設計条件としての海象設定、波浪解析に関する調査(担当:三井、船所、東大、東船大)
(a) 海象データ収集に関する調査
 ADDA用海象データベースのあるべき姿を検討し、データベース構築に際しての問題点を抽出した。
 これと並行して、波浪データをその採集法により目視観測データ、波浪ブイデータ及びHindcastの計算結果に分類し、それらデータの所在等について文献調査した。又、船体運動を利用した波浪推定法及び船載型波浪モニタシステムについても文献調査した。
(b) 船体構造解析のための波浪設定法に関する調査
 現状の設計における荷重設定法を調査し、問題点の抽出を行った。
 又、波浪設定のためには操船の実態を把握する必要があるとの観点から船舶の荒天による変針、減速操作の実態を調査した。次に波浪設定法には確率論的手法と設計波法があるが、8万トンタンカーによる試解析により各々の手法を検討した。
 確率論的手法については波浪データや波スペクトルを種々に変えてそれらが荷重応答に与える影響を調べた。一方、設計波法についてはスラミング衝撃やその他非線形流体力が船体強度に及ぼす影響を調べた。
 又、人工不規則波を作り、波形の各パラメーターと荷重応答の対応に関する検討方針を明らかにした。
b. 供試船に対する船体運動・波浪荷重の試解析と検討
(担当:鋼管、石播)
(a) 船体運動・波浪荷重解析法の調査・検討
 8万トンタンカーを供試船としてNSM,STFの2種類の計算法による広汎な比較計算を行い、波方向によっては両手法による波浪荷重の値に有意な差があり、今後更に検討を要することを明らかにした。
 又、船体運動解析に与えるタンク内自由水の影響についても調査し、小さなタンクでもその影響が大きいことを明らかにした。
(b) 供試船に対する船体運動・波浪荷重試解析
 8万トンタンカーを供試船として、設計波を試設定しNSMによる波浪中船体運動、波浪荷重を計算し、その結果をWG5(構造解析)の全船一体解析用荷重として提供した。
 又、WG3(疲労)には変動応力頻度分布作成の為に波浪荷重の周波数応答凾数を別途提供した。
c. 波浪荷重設定法の問題点の抽出・検討(担当:住重、川重)
 座屈・崩壊及び疲労・破壊各々の強度評価のための波浪荷重設定法について種々検討した。
 検討にあたってはWG2(座屈)及びWG3(疲労)からの代表者の参加を得て合同討議した。
 各強度評価に適した荷重応力形態のあり方及びその形態に適合した荷重設定手法について、強度評価及び荷重解析の両面から検討しその一次案を作成した。又、その結果は荷重解析法の基本理念に反映した。
 又、波浪荷重は実際の運航状態に合わせて設定する必要があるとの観点から、多数の航海記録を統計解析し、実際に船が遭遇した海象と船速及び相対針路の関係を調査した。
[2] 座屈許容設計法の開発に関する調査研究
a. 座屈許容設計法の理念、フローチャートの第1次案の作成と関連調査
(担当:住重、川重、東大)
 現在の設計における評価は単一部材での座屈強度の判定で行われている。
 将来は船全体構造の崩壊強度も判定し、座屈後の強度を考慮した最終強度評価に基づく設計法が必要である。これを座屈許容設計法と呼び、その確立のための座屈・崩壊強度評価法の基本的な考え方の調査を行うとともに、座届許容設計法の基本仕様およびフローチャートの試案を作成した。
 また、座屈・崩壊強度評価のための荷重条件の設定法及び座屈・崩壊強度評価法を検討し、それらの問題点を明らかにした。
b. 座屈強度精査必要個所の選定法の試案作成と問題点の抽出、検討
(担当:住重、川重、NK、東大、筑波犬、広大)
 全船一体応力解析結果、座屈・崩壊損傷実績、座屈強度の簡易評価などに基づく座屈・崩壊強度検討部材の選定法および座屈崩壊強度から見た部材の重要度評価法の試案を作成し、問題点の抽出を行った。
 また、座屈・崩壊強度検討部材の選定に用いるデータベースを構築するための基礎調査として、実船の座屈損傷データの調査および望ましい座屈損傷データベースの構成の立案を行うとともに、船体構造部材の座屈・崩壊強度の簡易計算法を調査した。
c. 船体構造の最終強度解析法の問題点の抽出・検討
(担当:住重、川重、船所、東大、阪大)
 また、最終強度解析法の評価・検証に必要な大型構造実験の参考にするため、実船および立体模型を用いた実験の調査を行い、実験上の問題点を抽出した。
[3] 疲労強度実用設計法の開発に関する調査研究
a. 疲労強度実用設計法の理念、フローチャートの第一次案の作成と関連調査(担当:日立、鋼管、三菱、船研、NK、東大、阪大、広大、九大)
 船舶以外の他機種での疲労設計の現状調査結果を踏まえ、疲労強度実用設計手法の基本構想を固めた。
 すなわち、システムとしては、全船一体解析によって求めた応力に対し、先ず大雑把な第一次判定を行い、疲労・破壊強度の詳細解析が必要な箇所を選定する。次に第二次判定として、その箇所の詳細な強度解析を絶対評価で行う。すなわち、対象部材の疲労き裂発生、疲労き裂伝播ならびに不安定破壊のそれぞれに対し、寿命あるいは強度と評価・判定し得るシステムとする。これらの構想に基づき、疲労強度実用設計手法のフローチャートを作成した。
b. 疲労強度精査必要個所の選定法の試案作成と問題点の抽出・検討
(担当:日立、鋼管、三菱、東大、阪大)
 精査必要箇所の選定は、[1]高応力が作用している部材で、[2]その部材が船体を構成する上での重要度および過去の損傷実績を考慮して行うことになるが、選定法の立案のために、既就航船での疲労損傷例の分析を行った。
 一方、疲労強度実用設計手法を確立するためには、対象部材の荷重の最大値のみでなく、荷重の頻度(応力頻度)が重要であることを関連WGに説明し、それの把握に努力してほしい旨要望した。
 すなわち、WG3からWG1およびWG5への要望事項をとりまとめ、それぞれWG1ならびにWG5に依頼した。
c. 船体構造の疲労・破壊強度解析法の問題点の抽出・検討
(担当:三菱、船研、NK、東大、阪大、広大、九大)
 問題点を抽出・検討するために、WG5の試解析対象船に対する、センタータンクボトムトランスのロンジバルクヘッド付きの端部について、疲労強度試解析を行った。また、日本海事協会と造船7社から各1隻ずつ提出された、船体構造の疲労・破壊強度解析例について調査・検討を行った。
 さらに、船舶以外の他業種(自動車、航空機、運搬機、海洋構造物、橋梁、原子力用圧力容器、車輌)での、疲労設計手法について調査し、船体構造に対する疲労強度実用設計手法の基本構想に反映すべく検討した。
[4] 信頼性工学の導入に関する調査研究
a. 船体強度評価法へ導入のための調査と問題点の抽出・検討
(担当:日立、三井、NK、東大、横大、府大)
 土木、建築、航空、宇宙等7つの他業種について信頼性工学の実用化の状況、具体例及び今後の動向について調査結果をまとめた。
 船体強度評価法への信頼性工学の適用研究例についても海外を含む文献調査を実施し、造船技術の現状把握と問題点の抽出を行った。
 一方、信頼性解析手法について調査を行い、船体構造強度評価法に適した手法の提案を行った。
 以上の調査結果に基づき、船体構造に対する信頼性工学導入の必要性を明らかにした。
b. 船体構造強度の信頼性試解析と導入効果の検討
(担当:日立、三井、NK、東大)
 既存船に対する信頼性試解析として撒積船をとりあげ検討を行った。また、NKの縦強度規定の変遷についても信頼性の観点から考察を行った。
 更に実船適用例としてプロダクトキャリアの構造強度評価を行った。損傷については各社からのアンケート調査を実施した。
 以上の検討結果を踏まえ船体構造に信頼性工学を導入した場合の効果を明らかにするとともに、次年度の調査研究目標を決めた。
[5] 全船一体解析法に関する調査研究
a. 供試船による全船一体解析(担当:日立、石播、東大)
 8万トンタンカー供試船の全船を船倉部のBhdと2Trans.Ring部をFine Mesh、その他をCoarse Meshとした約6,000要素のFEM一体解析モデルについて、向波及び斜め波中における波浪変動圧、船体加速度の船体運動解析結果を荷重条件として、船体構造計算を行った。
さらに、解析システム構築時に要求される機能を検討するため、この試解析の経験から見た現状の解析技術およびシステムにおける問題点の抽出と、将来あるべき姿を検討した。
b. 解析システム基本仕様の検討(担当:鋼管、川重、三菱、三井)
 構造強度解析を行う上で必要となる機能を洗いだし、構造解析支援、FEM荷重モデリング、FEM構造モデリング、応力解析(ソルバー)、応力再解析、計算結果の出力および非線形応答解析の各サブシステムに分類し、それぞれのサブシステムの内容の概要と構成について整理し、解析システム基本仕様の第1次案を検討した。また、試解析の結果から推定した本解析時での計算システム(ハード)の必要容量と構成についての提案を行った。
c. 構造解析法の調査・検討(担当:三菱)
 構造強度解析について、各社の設計現場での現状及びFEM用Pre-Postコードの特徴、船体構造への適用性の調査を行い、内在する問題点を抽出した。その中から特に問題となると考えられる大規模構造解析インテリジェントシステム、構造解析ハイスピードコンピューティング、階層的解析手法および再設計再解析手法の4つのテーマにつき調査を行い、その調査結果は、講演会形式で報告した。
[6] 新船体構造設計法の概念設計に関する調査研究
 新船体構造設計法の開発研究の対象は、荷重、応力解析、強度評価と多岐にわたり、しかもその概要は現状を打破する革新的なものとなる。
 したがって、その概念は多くの識者による十分なる検討をへて構築されてゆくものであり、今年度はその検討のスタート・ポイントとなる以下の調査研究を実施した。これらは、来年度の調査研究の結果を踏まえて必要な修正が行われるべきものである。
a. 基本仕様とりまとめと問題点の抽出(担当:川重、三菱、石播)
 構造設計者の現状認識にもとづき、新船体構造設計法の概念、開発目標の試案を作成した。
 また、設計法が実用化されるのに必要なシステムの基本仕様について、設計側の立場より調査・検討を行った。
 その基本仕様を下記の具体的なシステムに展開し、それらの基本概念を明らかにするとともに、各論の検討の前提とした。
○ 高精度船体荷重解析システム  ○ 船体構造総合評価システム
○ 迅速・高精度構造解析システム ○ 構造設計支援インテリジェントシステム
○ 船体構造強度算定システム
b. 設計フローとりまとめと境界領域の明確化
(担当:日立、鋼管、三菱)
 上記a項と平行して、新船体構造設計法の設計フローの試案を作成した。
 基本計画段階と詳細設計段階での使い方/機能要件が実用的システムヘの1つの重要ポイントとなり、フローに反映した。
 各WGにまたがる境界領域の問題については、来年度において更に深く検討することとした。
c. 新船体構造設計法適用船のイメージの具体化
(担当:住重、三井、三菱)
新船体構造設計法をより具体的にイメージ・アップするために、現時点での1つの将来像をオイルタンカーの設計過程を例に挙げて、現設計法との対比を折りまぜながら抽出した。
 この具体的な検討過程を通じ討議された問題は、来年度の調査研究の目標である新船体構造設計法の開発・実用化のための研究・開発課題の明確化に非常に役立つこととなった。
(4) 船体及びプロペラ周囲流場の数値解析法に関する調査研究
[1] 船体周囲流場の数値解析法の調査研究
a. 粘性流場及び非線形波力の数値解析法に関する問題点の抽出とその検討(担当:大手7社、東大、防大、阪大、広大、横大、府大、九大)
(a) 数値解析技術の現状調査
 差分法や粘性流一般に関する文献、船および航空の粘性流体数値解析に関する文献の中から重要論文23編を調査し、概要集にまとめた。その中で船体周囲流場解析に関して、格子生成法やレイノルズ平均NS方程式の解法の研究が主要な動向であること、またNS方程式を用いた水波計算法やLarge eddy simulation手法を加味した、より一般的なNS解法も研究されていること、ただしいづれも船体抵抗を予測する段階に至っていないこと等が示された。
(b) 数値計算による問題点の抽出とその検討
 粘性流場及び非線形波力の数値解析法として、WISDAM-2D,<2>&<3>,TUMMAC-<4>、日野の方法、児玉の方法、IHIの方法、Rankine source法等を取り上げ、2次元の基本形状や船体まわりの流れに対して実際に計算を行い、問題点の抽出とその検討を行った。
 とくにNS方程式の数値解法については、4階微分項である3次精度の誤差は計算結果に無視できない散逸効果を与えること、格子間隔による解像度の変化も大きいこと、NS方程式の対流項の表現形式により計算結果が変わること、k-εモデルには改良すべき点が多いこと等の結論を得た。
b. 流場計測手法の調査(担当:大手7社、船研)
(a) 計測手法の現状調査
 数値解析結果の評価に必要な計測に関し、船体表面圧力計測手法、ピトー管またはLDVによる平均流の計測手法、および風洞における船尾乱流場の計測手法等の現状、さらに実船船尾周りのLDV流場計測法について文献調査を行い、結果を概要集にまとめた。今後は前述の諸数値解析結果のより精密な検証に適した高精度の流場計測の検討が必要とされる。
(b) 流場計測試験法の検討
 流れの乱動及びレイノルズ応力の計測が可能な手法として、レーザー流速計と熱線流速計を取り上げ、得失を整理した。レーザー流速計は、検出部が無接触、無撹乱であるため流場と干渉しないという利点を有しているが、測定される粒子が流体速度に十分追従している必要があり、その注入法(シーデング)が重要である。また熱線流速計は、高い応答性と連続的に記録が得られるという利点があるので、乱流現象の解明に役立つ。しかし、流れの方向の計測には工夫を要することや熱線の破断等の欠点もあり、今後の検討が必要とされる。
[2] 波浪中抵抗増加理論の高度化に関する調査研究
a. 波浪中抵抗増加理論に関する問題点の抽出とその検討
(担当:大手7社、九大、阪大、府大、横大)
(a) 数値計算法の現状調査・評価
 現在の波浪中抵抗増加に関する各種推定理論について、研究の発展状況を概括し、それぞれの理論の基礎仮定・推定式の相違点並びに問題点を詳細に取り纏めた。本調査のまとめとして、推定精度向上の理論高度化の一つとして、まず3次元特異点分布法を適用し船体表面の境界条件をより厳密に満足する計算法を開発すべきであり、その成果として線形理論における推定精度限界を見極められるであろうとの指摘を行った。
(b) 数値計算による問題点の抽出
 規則波中抵抗増加に関する各種の数値計算法の問題点を調査する目的で、各研究機関の所有する数値計算プログラムにより、SR108コンテナ船型を計算対象とし各研究機関とも同一運動計算結果を入力とした抵抗増加の比較計算を実施した。実験結果と比較すると船首部での反射波の影響が比較的小さいと考えられる痩型船でさえ短波長域での相違が目立ち、肥大船での同様な比較計算の必要性が再認識されるとともに理論計算法の改良の必要性が指摘された。
(c) 理論高度化に関する予備検討
 数値計算法の現状調査で指摘された問題点を克服する具体的な方策をさぐるため、理論高度化の予備的研究を実施した。回転楕円体を対象とした3次元特異点分布法による試計算(Diffraction問題)では、3次元特異点分布法が推定精度向上のための非常に有望な計算法であるとの見通しを得た。また、斜波中問題の理論的取り扱い方に関する考察では、斜波中の抵抗増加に対する考え方を整理し、理論と対応でき、かつ現実の斜波中の船舶の運動状況を再現できる実験方法及び解析法について提案された。
b. 波浪中抵抗増加量の計測手法の調査検討(担当:大手7社)
(a) 計測手法の現状調査・検討
 波浪中抵抗増加試験法に関するアンケート調査、波動場全体の計測に関する技術レビュー、不規則波中での計測量の解析評価法に関する考察、さらに公表データを基にデータのバラツキや非線形性に関する調査等が実施され、望ましい水槽試験法・解析評価法のあり方に関する幅広い知見を得た。この調査を基礎に、次年度には、斜波中抵抗増加試験法、流場計測法について、解析上の問題点も含め検討し、数値計算を検証するための精度の高い実験法の提案を行っていく。
[3] プロペラ周囲流場の調査研究
a. プロペラ性能の数値解析法の検討(担当:石播、船研、NK、阪大)
(a) 数値計算による問題点の抽出
 プロペラ性能の計算精度向上のためには、粘性影響を厳密に計算する必要があるが、その手法として、NS.Solverによる計算が有望である。
 本年度は文献調査により問題点を把握すると共に、基礎となる翼型について試計算を試み、問題点を調査した。厚翼に対してはCDを除いては圧力分布を含め、高い精度の結果が得られることが分った。
 しかし、薄翼に対しては、解の発散等の問題があり、改良の必要がある事等差分法適用上の種々の問題点が抽出できた。
(b) 模型試験による問題点の抽出
 プロペラ性能の計算結果を検証するための高精度実験データの蓄積を目的として、本年度は青雲丸用通常型(CP)およびハイリースキュー型(HSP)の2種類の模型プロペラを使用して、下記の実験を実施した。
イ. 高レイノルズ数プロペラ性能計測
 直径950mmの大型模型プロペラの単独特性試験を行い、計測法について調査するとともに、RnD=4×106レベルまでのプロペラ特性を得、レイノルズ数の及ぼす影響を把握した。この現象は翼面の流れの可視化によっても確められ、貴重なデータを得る事が出来た。
ロ. 圧力計による翼面流場計測
 直径400mmの中型模型プロペラ(CP,HSP)に精密加工をして圧力センサーを取り付け、均一流中および不均一流中の翼面圧力を計測した。揚力面計算値と比較して計算手法について考慮すべき点を明らかにした。
(c) プロペラ・スラスト高精度計測法の調査
 歪ゲージ、テレメータ方式によるプロペラ・スラストの高精度計測法として、Hylaridesの方法を取り上げ、従来方式と比較しつつ、候補となりうる歪ゲージの諸特性、配線方法、ノイズ除去、トルク成分の混入等について調査した。実船を使った調査により問題点の1つであった歪ゲージ間の温度差の影響を比較的小さく保つ事が可能である事が分り、本方法の計測法としての適用の可能性が得られた。
b. プロペラ流入流場の数値解析法の調査(担当:三井、船研、東大)
(a) 数値解析応用の調査
 将来のプロペラ流場シミュレーターの構想を数値解析応用およびニーズの見地から、まとめる事を目指して、関連する27文献の調査を行い、プロペラ流入流場に関する計算方法の実情を調査した。境界層理論やプロペラ理論を組み合わせた既存理論や実験に基づくアプローチの他に、複雑な現象の把握に有望なNS方程式の差分解法に基づくアプローチが必要である事が分った。また、ニーズ調査によってシミュレーターの備えるべき機能や利用法の概要をまとめた。
(b) 数値計算による問題点の抽出
 船尾で作動するプロペラの性能を高精度で把握するためには、船体とプロペラの相互干渉を精度良く計算出来る必要がある。その有望な手段としてNS方程式の差分解法がある。今年度は格子生成プログラムの開発および干渉計算手法開発のための基礎調査に主眼を置いて、船体とプロペラの関係を2次元翼とMomentum Sourceに置き換えた計算を試みた。Sourceの存在が翼型周辺の流場、圧力分布、揚力係数および抗力係数に及ぼす影響を調査し、3次元流れへの拡張の可能性がある事などを明らかにした。
(c) 流場の可視化、画像処理仕様の検討
 プロペラの流入流場の計算結果を評価するためには、船尾流場を簡便で精度よく計測する手法の確立が必要である。その計算法として船尾流の可視化、画像処理による方法を試みた。本年度は予備実験として、水槽中に静止させた目標物を移動台車にとりつけた複数のCCDカメラでとらえ速度を計測した。この実験結果により実用上充分な精度で速度が計測可能である事が分り、本方法による船尾流場の高精度計測の可能性が得られた。
■事業の成果

本研究は本年度から2カ年計画で開始され、すでに述べたように、内外の新世代コンピュータの技術動向・海外の新技術研究機関における研究の実情等の調査、構造物のモデリング手法・AI技術・情報通信システム等の調査研究、新船体構造設計法の概念・設計に必要な荷重、座屈、疲労、信頼性工学及び応力解析等の調査研究並びに船体及びプロペラ周囲流場の数値解析法の調査研究を行って、わが国造船業の再活性化のための必須課題である造船技術の革新的高度化を実現する、1)造船業を労働集約型産業から脱皮させる新世代造船システム、2)構造設計を経験工学から脱皮させる新構造設計法ADDA、3)船型開発を水槽試験の制約から解放する数値水槽、の3課題実現の鍵となる重要なブレークスルー技術についての問題点を抽出した。
 これらの成果は、わが国の造船業が今後とも国際競争力を保持し、海運業に対する優秀な船舶の安定供給と船舶の近代化の推進という経済社会の重要な責務を果たし続けて行くために役立つとともに、進展の著しい情報・通信・新素材等のいわゆるハイテク技術を造船業に効果的に取り込む種々の政策的な施策に役立つものと考えられる。





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