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■事業の内容

(1) 航行環境の定量的評価手法に関する調査研究
 わが国の主要狭水道・内湾・沿岸における海上交通安全問題については、これまでに種々の調査研究がなされているが、いまだに幾多の問題が残されている。本研究は、これらの海域における危険度を航行環境面からとらえ、しかも同海域における有効な安全対策の検討に対応できるように、これを定量的に評価しうる手法を求めるとともに、それを設計に活用したシミュレーションあるいはシミュレータ等の実用性について下記のとおり調査研究した。
[1] 委員会による検討
a. 調査方針の策定
 本事業を円滑、かつ確実に実施するための基本方針を検討し大綱を策定した。
 そして、調査研究の到達目標をイメージづけ、それに向っての5か年間にわたる調査事項の内容を検討、整理するとともに年間配分を策定した。
b. 実施要領の立案
 本事業を行うに必要な海上交通観測、アンケート調査、シミュレーション、シミュレータ実験等に関して、自然環境と交通環境との2分野から検討し、来年度からの実施要領を立案した。
c. 定義、基準等の明確化
 従来必ずしも明確にされていなかった用語の定義、あるいは航行条件等に関する基準を明確にするための検討を行った。
d. 航行環境表現手法の研究
 航行環境の諸要素を容易に理解できるような表現手法を研究した。
 従来、一般的な海上交通状況の表現方法として、「船種・大きさ別ゲート通過隻数」、「同通過速力」、「航跡」、「密度」の四つを用いてきたが、本調査研究の対象である航行環境交通上の危険度、つまり海域の危険度を表現するには、これらのほか適切な項目、内容についての検討が必要である。本年度においては、その一つとして最接近距離について検討を行った。
[2] 既存資料の整理、解析
a. これまでに得られた海上交通実態のデータを整理、解析した。
 昭和60年の川崎沖海上交通実態調査および昭和58年の東京湾海上交通実態調査の観測結果を異常接近等の交通環境の評価の面から再解析した。
b. 既存のレーダー映像写真に捉えられている個別船舶の挙動を解析した。
 過去のレーダー映像のうちから異常挙動の代表的パターン8例(衝突・乗揚げ・異常接近)を抽出し、アニメーションフィルムを制作した。個別船舶の挙動を明らかにするための解析調査を行った。
[3] 情報収集
 国内外の文献調査、関連施設の調査等により、情報収集を行った。
 また、航行環境の定量評価用の機器として考えられるシミュレータの利用等本調査研究への取り込みを検討するため、航空保安大学校岩沼分校の航空管制訓練用シミュレータの施設見学を行った。
[4] 委員会の開催
a. 航行環境調査研究委員会   2回
b.   同     小委員会  2回
c.   同     作業部会  4回
(2) 船積危険物の荷役及び輸送中における安全並びに事故対策に関する調査研究
 委員会を開催し、調査研究方針を決め、作業部会で具体的な調査方法及び調査した内容について検討を行い、その結果をとりまとめた。
[1] 調査項目
a. 危険物の流通実態にもとづく調査対象危険物の研究
b. 事故の原因となっている船積危険物の検討
c. 危険物の安全及び事故対策に関する内外の研究資料の収集整理
d. 船積危険物による危険防止対策の検討
e. 事故船からの人命救出に関する研究
[2] 第1回委員会を開催して調査研究方針を定めた。詳細な調査は人命救助部会を設けて検討することとした。
[3] 第1回人命救助部会を開催して調査研究の具体的方法を検討し、また米国環境保護局作成の「標準作業安全指針」の内容を討議した。危険物災書事故5例を分析した。
[4] 第2回人命救助部会を開催し、国際海事機関の「油以外の危険物質の流出に関する汚染防止マニアル」を検討し、米国CHEMTREC制作ビデオ「危険物災害対応活動」を上映し、討議した。
 収集した危険物による災害の特性:中毒、酸素欠乏及び事故現場環境、作業管理及び教育訓練について審議した。
[5] 第3回人命救助部会を開催し、危険物による災害の特性、火災、爆発、放射線被爆、環境改善及び保護具等について審議した。
[6] 第2回危険物研究委員会を開催し、各調査検討結果の報告書としてのとりまとめについて検討した。
[7] 委員会の開催
a. 危険物研究委員会  2回
b. 同  作業部会   3回
(3) 海難防止の国際的動向に関する調査研究
[1] 委員会を開催し、次の事項について調査検討を行い、その成果をとりまとめた。
a. IMOにおける審議事案に関するわが国の対応策の研究
(a) 1972年国際海上衝突予防規則の改正案
 1972年国際海上衝突予防規則の第二次改正案については第15回総会に提出され、そのほとんどが採択されたが、引き続き検討されることとなった事項について問題点等を検討した。
(b) SAR条約に基づくSAR計画及びGMDSSの体制、運用等
 1979年海上捜索救助に関する国際条約については、関連各国の動向等について、関係官庁からの説明及び質疑応答を行い、今後の検討に資した。
 また、GMDSSについては、IMOでの審議状況を中心に今後の動向等を検討した。
(c) 木材運搬船の海難に伴う流出木材の処理等
 諸外国における処理等の状況を把握し、国際的検討を行うため、アンケート調査票を作成し、ロンドン事務所を通じ各国へ配布した。
b. 関係資料の収集、解析
 以上に関連した資料を関係官庁及び当協会ロンドン連絡事務所長から入手し、必要なものについては翻訳、整理を行い委員会での検討に資した。
[2] IMO会議への出席
 IMO第34回航行安全小委員会に調査員を派遣し、国際海上衝突予防規則等についてわが国の対処方針の反映を図るとともに、各国の動向の調査及び情報の収集を行った。
a. 第34回航行安全小委員会(NAV)
(a) 開催日   昭和63年2月8日〜2月12日
(b) 開催場所  ロンドン
(c) 調査員   企画部主任研究員  松田 真
[3] 委員会の開催
 海難防止の国際的動向に関する調査研究委員会  3回
(4) 海上交通安全システムに関する調査研究
 委員会を開催し、調査研究方針を決め、作業部会で具体的な調査方法及び調査した内容について検討を行い、その結果をとりまとめた。
[1] 海上交通実態の把握と問題点の調査
 来島海峡及び大阪湾(明石海峡)における船舶交通実態、漁業操業状況、海難実態及び自然環境等の調査を行い、問題点を抽出した。
[2] 航行安全対策上の重点事項の研究
 来島海峡及び大阪湾(明石海峡)における海上交通安全法に規定された航法、各管区海上保安本部の航行安全指導について調査し、問題点を抽出した。
[3] アンケートによる調査
 瀬戸内海における海上交通情報機構の一つとして、近い将来実現を目ざしている来島海峡の航行管制及び情報システムの円滑かつ効果的な運用を期するために、来島海峡を通航する船舶の操船者及び同海域において漁業に従事する漁船の船長に対してアンケート調査を行った。
a. 配布部数  1,995部
b. 回答部数   753部 (回収率 37.7%)
[4] 現地調査
a. 実施年月日  昭和62年9月10日(木)〜11日(金)
b. 場所     ・ 備讃瀬戸海上交通センター(香川県宇多津町青ノ山)
        ・ 来島海峡一帯
c. 参加人員   委員等16名
d. 概要     昭和62年7月1日から業務を開始した備讃瀬戸海上交通センターを訪問し、運用状況を見学した。また、今治海上保安部を訪問し、来島海峡の航行環境等について説明をうけるとともに、巡視船で来島海峡一帯の船舶通航状況を海上から視察した。
[5] 関係資料の収集
調査に必要な関係資料の収集を行った。
[6] 委員会の開催
海上交通安全システム調査研究委員会  2回
同  来島海峡部会          2回
同  大阪湾部会           2回
(5) 船舶航行情報共同利用システムの開発に関する調査研究
 委員会を開催し、調査研究実施計画を策定し調査方法及び調査した内容について検討を行い、その結果をとりまとめた。
[1] システム概念の確定
 本調査研究では、ユーザ側からみた「情報利用の現状・及び将来の情報利用(ニーズ)」と、海上保安庁・気象庁・港湾管理者等の提供者側からの「情報提供の現状及び将来の情報提供のあり方」等を調査すると共に、最も有効なシステムとなる『船舶航行情報共同利用システム』の基本設計及び整備方策の検討を行った。
a. システムが対象とするデータの範囲の検討
 運輸省調査結果によるユーザニーズを基に、利用されているデータの種類・形式、入手方法(媒体)、入手してからのユーザ側での加工処理と利用頻度等を整理すると共に、将来の望ましい情報提供のあり方について整理し、『船舶航行情報提供システム』が対象とするデータの範囲等を検討した。
b. システムへの情報提供者、提供方法等の検討
 現在、ユーザに対して公益的な情報提供を行っている運輸省・海上保安庁・気象庁・港湾管理者等の関係機関、及びこれらの機関の地方支部局を対象に「情報提供の現状」に関するヒアリング調査を実施し、情報収集・情報提供(対象データ・形式、提供方法〔媒体〕・提供時期・加工処理方法等)の実態や、地域的特性をどのように反映するか等、及び将来の望ましい情報提供のあり方について整理し、『船舶航行情報提供システム』が構築された場合の情報授受の方法等について検討した。
 また、a.のユーザニーズ結果と合わせて、システムのマスタープラン(基本設計)を作成し『船舶航行情報共同利用システム』の全体像を明らかにした。
c. 船舶への情報提供方法の検討
 船舶を運航する船会社や代理店等の陸上ユーザには、あらゆる手段(媒体等)を用いて情報提供を行うことは可能であるが、移動体である船舶に対しては通信手段(提供媒体)が制限され、さらに外航船・内航船・漁船等で保有する通信機器が異っているほか、通信手段によって提供できる情報の形式(文字・画像等)が異るために、GDMSSの動向や海事関係者の意見等を踏まえて、外航船・内航船等で実現性の高いFAX等を中心とする媒体で提供することを検討した。
 また、船舶に対する情報提供は、近年における乗組員の少数化・多国籍化の状況に鑑み、船舶等での情報収集・整理・解析等に係る労力を軽減するために、可能な限り使い易い画像情報として提供することとし、これらの検討結果をシステムのマスタープラン(基本設計)に反映した。
[2] システムの整備方策の検討
 [1]項で検討した『船舶航行情報共同利用システム』を構築するためには情報提供のニュースソースである運輸省・海上保安庁・気象庁・港湾管理者等の関係機関の協力が不可欠であり、システムの早期整備実現に向けて情報の授受や加工処理・信頼性等について各関係機関と逐次調整を図った。
 また、今後は、『船舶航行情報共同利用システム』の整備に向けて、海事関係者等のユーザ側と、運輸省・海上保安庁・気象庁や関係機関等の提供者側で、さらに詳細かつ的確な情報提供に関するニーズの把握や費用対効果、システムの信頼性の確保等について、調査検討を続け調整を図るとが必要であることが確認された。
[3] 委員会の開催
船舶航行情報共同利用システム開発委員会  4回
■事業の成果

(1) 航行環境の定量的評価手法に関する調査研究
 本事業は、わが国の主要狭水道、内湾、沿岸における航行危険度を定量的に評価しうる手法を求め、それを設計に活用したシミュレーションあるいはシミュレータ等の実用性について5ケ年にわたり調査研究をすることになっており、本年度は、その初年度として調査研究の基本方針の検討作業と並行して、航行環境関連用語の定義等を明らかにするとともに、過去の実態観測データから最接近距離について解析を行ったことにより、有効な安全対策の検討に資することができた。
(2) 船積危険物の荷役及び輸送における安全並びに事故対策に関する調査研究
 危険物による事故時の対応策確立を目的とし荷役上安全対策の対象とすべき危険物事故の実態及び事故船からの人命救助等について調査研究を実施することにより、事故時の対応策の確立及び最終年度に予定している「危険物災害時の人命救助指針」(仮称)の作成にとって、極めて有用なものと考えられる。
(3) 海難防止の国際的動向に関する調査研究
 1972年国際海上衝突予防規則の一部改正については、第15回総会で合意されたが、引き続き検討されることとなった航路指定の問題、喫水制限船の問題、沖合構造物撤去の問題等について、関係官庁、関係団体の参画を得て我が国の対処方針の検討に資することが出来た。
 海上捜索救助(SAR)に関しては、救命捜索救助小委員会(LSR)の審議状況の詳細な説明が関係官庁からあり、今後のSARの国際的動きを把握することができた。
 また、SARに関連するGMDSSに関しては、IMO無線通信小委員会(COM)での審議状況や、我が酒における実証実験等の詳細な説明を関係官庁より受け、GMDSSに関する国際動向に理解を深めるとともに、我が国の今後の対応の検討に資することができた。
 木材運搬船問題については、各国にアンケートを行っているが今後はこの結果をとりまとめることにより、有効な対応策の検討に資することができる。
(4) 海上交通安全システムに関する調査研究
 来島海峡及び大阪湾(明石海峡)における海上交通情報機椿の整備にあたり、航行船舶の実状に即した、最も有効かつ適切な航行管制及び情報提供等のシステムについて調査研究を行うため、本年度は、主として資料の収集に努めるとともに、これらの資料に基づき、両海域における問題点を把握するため委員会による検討を行った。
 また、来島海峡については、同海域を通航する船舶の操船者及び同海域において操業する漁船船長に対しアンケート調査を実施し、同海域を利用する船舶・漁船関係者の意識を調査し、その結果を集計した。それによれば、これらの関係者がこの海域における新しい海上交通情報機構に大きな期待を寄せていることがうかがわれ、又、どんなサービスを求めているかということを知る上で十分な成果があった。
 また、来島海峡現地調査を利用して、昨年7月1日から業務を開始した備讃瀬戸海上交通センターを視察し、現場管制官と意見交換を行った。今後整備される海上交通情報機構に求められる問題点などを認識し、有効であった。
(5) 船舶航行情報共同利用システムの開発に関する調査研究
 船舶航行情報等の望ましい情報提供のあり方を明確にするとともに、『船舶航行情報共同利用システム』の全体像を明らかにすることができた。また運輸省・海上保安庁・気象庁・港湾管理者等の提供者側においては、ユーザのニーズを踏まえた標準化した情報提供に対する共通認識を持つことができたこと、及び調査研究の過程で個々の提供機関のレベルアップができたことは非常に有効であり、もって海難防止に寄与するところ大なるものがある。





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