■事業の内容
(1) 防錆塗膜の耐久性に関する試験及び評価法 [1] 塗膜劣化の判定法の検討 ○ 本年度は2種の塗料の天然浸せき試験半年、1か年後と実船試片の2年、6年、13年ものについて各種のデータを得た。 ○ 天然海水浸せき試験において、2種の塗料とも浸せき半年までは容量Cp、tanδに増加傾向が、又、抵抗Rp、の減少傾向が見られたが、半年後以降は一定値に収まった。 ○ インピーダンス法による塗膜の良否の判定は塗膜の乾燥によって左右されるため、ある時間湿潤させて測定することが必要である。塗膜劣化部は抵抗Rp容量Cp、tanδが大きく変化するためこれによって良否の判定が可能である。またtanδが2以上のものでも付着力は良好であることから、付着力のみ判定は危険と思われる。 [2] 劣化促進試験法の検討 ○ TEについて、塩水中の温度勾配試験を行い、データ取得中であり、今後、引きつづき追跡する。 ○ TEについて初年度スタートした40℃、MHI法の浸せき試験を追跡した結果、初年度に予想した通り、浸せき70日目からインピーダンス(Rp、Cp、tanδ)が急激に変化し、次いでふくれが発生した。
(2) 塗膜の耐久性に与える要因の検討 [1] 表面処理グレードと塗膜の耐久性 a. 飛沫部を対象とした試験 本年度は、3塗料の天然暴露試験6、12箇月後とTEの促進試験前と4サイクル後における各塗料試験片のデータを得た。 天然暴露試験において測定したデータを経時変化としてとらえると、初期値は塗料個々の特性のみがあらわれていたが、経時と共に塗料種の差異が得られつつあり、TE塗料やCR・A/C・HB塗料に比べ、PE・A/C塗料は表面処理グレードの影響を受け易い傾向が認められ、更にCR・A/C・HB塗料のIHPt1処理で確認された様に、直・交流抵抗の変化や周波数特性から塗膜欠陥発生が予測可能と思われる。 促進試験は本年度、TE塗料のみを開始したがPE・A/C塗料、CR・A/C・HBも逐次開始する予定であり、天然暴露試験との対比を行いその効果等を明確化したい。 本年度取得データに関しては、促進初期段階であり、対比するまでには至っていない。 b. 没水部を対象とした試験 本年度は、3種類の塗料について、天然試験6ケ月、1年後の塗膜物性データを得た。また本年度から開始したタールエポキン塗料を対象とした促進試験初期、6ケ月後の塗膜物性データも得た。 天然試験においては、塗膜の劣化傾向が認められ、タールエポキン塗料を除いた2種類の塗料について下地処理方法による差が認められた。 促進試験は、初期段階であり、現在のところ交流インピーダンスの結果より劣化傾向が認められる。今後さらに長期浸漬試験を実施して、天然試験との対比、下地処理グレードによる差を明らかにする必要がある。 [2] 変動荷重と塗膜の耐久性 繰返し変動荷重試験において、5種の防食仕様のうち、CR系は塗膜の有無にかかわらず、早期にわれが発生し、試験板母材が破断した。また、TE系及びPEF系は、塗膜は無傷の場合、長期の耐久性が期待できるが、傷が生じるとその傷の方向によっては試験板母材の破断が見られた。なお、IZ+TE系及びPE系はかなり長期にわたる耐久性が期待できる。 [3] 変動及び衝撃荷重下の塗装材の腐食疲労への影響 昨年度製作した複数試験片疲労試験機を用い、海水中の塗装材の疲労試験により塗膜面の観察及び交流インピーダンス等の基礎的データを得た。現在、試験開始後10ケ月を経過しているが、各種防食仕様における塗膜の劣化は塩化ゴム系塗料を除いて明確に現れていない。また、破損箇所とインピーダンス計測位置の相違など今後に問題を残した。
(3) 耐久性データの総合的判定法の検討 前年度に引き続き、塗膜の劣化データに関するデータベースの作製を行い完成させた。そして、これまでの入力データから、付着力を基準に劣化諸データを解析する可能性を示した。さらに、塗膜の耐用年数の推定に関するデータベースの作成を行い、環境、塗装仕様因子の影響を従来のデータから推測する方法を確立した。 塗膜劣化に重大な影響をもつ塗膜厚の分布を、すみ肉溶接部について調べた。曲率半径の増大によって分布程度を示す膜厚測定値の変動係数σ/m(σ=標準偏差、m=平均値)が、減少し、半径30〜50でσ/m=0.1程度(平面に塗布した塗膜での高目の値)に低下することを示した。 SR182の塗装仕様8種について大気中、干満帯、水中暴露を続け、劣化諸データ(インピーダンス、付着力、曲げ試験での割れ発生、たわみ等)を求めた。
(4) 防汚塗膜の耐生物汚損性 [1] 塗膜表面に付着したスライムの定量化方法の研究 由良、玉野における臨海浸せきデータからスライムの形成量とその形成要素には、かなりの地域差、季節差がみられる。しかし、スライムの形成を代表する値として、その重量と糖質の両者を用いれば、その質並びに量のいずれも推定することができること、また、スライムは一定以上の量になるとその一部は自重あるいは外力により脱落すること、脱落後にもバクテリア粘質が検出されることも明らかとなった。 従って、スライムの定量にあたって、それを代表する値として、その糖質量、重量を併せてもちいることが適当であると考えられる。 [2] 回流水槽による溶解度因子の定量化と耐生物汚損性 ○ 本年度から研究をスタートし、本年度は回流水槽を海岸へ移設、無人化運転可能な構造に改造した。 ○ 本装置によるCR-AF、OMP-AFのスライム付着性について基礎的検討を行った結果、(1)スライムは流動海水8m/sでは付着しにくい、(2)付着スライムは流速6m/s付近で殆ど脱落するが、スライム底層は薄層で残存する、(3)スライムの増殖には日射量の影響が大きいことなどが明らかになった。 ○ 本装置により上記塗料の塗膜劣化度と耐生物汚損性に関するサイクル試験を実施中であるが、まだ顕著な劣化は生じていないので引続き試験中である。
(5) 文献調査 昭和61度収集した文献は153編と5冊あり、内容別に分類すると下記のようになる。 [1] 防汚剤の溶出機構 10編 [2] 船底塗料の試験方法 9編 [3] 表面粗度と摩擦抵抗、燃費節減 6編 [4] 船底塗料関係(配合・性能) a. 報文27編 b. 日本特許 45編 c. 外国特許 5編 [5] 安全衛生 17編 [6] 生物関連 24編+5冊 [7] その他 10編 合計 153編+5冊
■事業の成果
[1] 防食塗膜の耐久性に関する試験及び評価法 塗膜劣化度合の判定方法の検討及び劣化促進試験法の検討を行った。従来は防食性をマクロ的に捉えられてきたが、近年飛躍的に進歩した分析機器及び評価手法を適用して化学的/ミクロ的な観察評価による劣化度の実用的評価さらに促進試験法による早期評価法の開発を行い、評価値の判定基準策定の基礎資料を得た。 [2] 防錆塗膜の耐久性に与える要因の検討 没水部、飛沫部について各種下地処理グレードと塗膜の耐久性を把握し防食仕様の最適化を計るための基礎資料を得た。 低サイクル繰返し変動荷重の耐久性と変動及び衝撃荷重下の塗膜の腐食疲労への影響を調査し、防錆塗膜の耐久性評価に関する基礎資料を得た。 [3] 防錆塗膜の耐久性データの総合的判定法の検討 「海洋構造物の重防食に関する調査研究」(SR182)で得られているデータの総合的判定及び溶接構造物のような不均一塗膜の防食性等を「塗膜の三次元的粗さ測定装置」を使用して各種データの解析を行い、劣化を考慮した機能評価基準作成の基礎資料を得た。 [4] 防汚塗膜の耐生物汚損性 海域、季節とスライム重量の相関性を調査し、スライムの定量化また、回流水槽による溶解度因子の定量化と耐生物汚損性の基礎的研究を実施し、自己研磨型防汚塗料の長期耐生物汚損性の評価法確立のための基礎資料を得た。 本事業により、船舶・海洋構造物の塗装仕様の最適化及び長期防汚塗膜の耐生物汚損性に関する有益な基礎資料が得られ、船舶・海洋構造物のメインテナンス向上に大いに役立つものである。
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