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■事業の内容

(1) 計測機器の整備(実施場所:船舶技研)
 購入によりヨウレート・ジャイロシステム1式を、また、リースによりドップラレーダー1式を整備した。
(2) 計測機器の操作・取り扱い訓練
 実験に要する機器類の結線方法、較正方法、取り扱い方法及び氷試料切り出し道具などの使用方法について訓練を行った。
[1] 実施場所   日本鋼管(株)津研究所
[2] 実施時期   昭和61年10月6日〜7日
[3] 実施内容   計測機器の取り扱い、機器較正要領、計測記録要領、氷況記録要領、氷試料切り出し実習、氷結晶写真撮影実習、保守・点検用機器取り扱い要領
[4] 訓練対象者  乗船計測員3名………小久保芳男、山口栄三、直井秀明
[5] 講師     計測体験者4名………泉山 耕、成田秀明、広川政則、小間憲彦
[6] 事務局    1名……………………谷 幸久
(3) 実船試験(実施場所:“しらせ”及び南極海域)
[1] レベルアイス及びパックアイス中試験
 パックアイス中航行時及びレベルアイス中における連続砕氷航行時において、船速、加速度、応力、トルク、スラスト、回転数を計測するとともに、付近海氷の氷状を観測した。また、その時の気象・海象条件を知るために、天候、風向、風速、気圧、外気温度、水温を計測した。
[2] ラミング中試験
 リッジやハンモックアイス突入時の船の挙動を知るために、チャージング時において[1]項と同様の計測や観測を行うとともにチャージング回数、本船の氷への進入距離及び船首応力頻度を計測した。
[3] 流氷中試験
 本船が流氷中をさまざまな状況で航行する際のヨウ・レート及び船首応力頻度を計測し、両者の相関を調査した。
[4] 氷質試験
 停船時を利用して海氷上に移り、付近海氷から試験用水試料を採取し、氷厚、氷温、比重、塩分濃度等の計測、氷結晶写真撮影及び氷試料の曲げ試験を行った。
(4) 前年度計測結果の整理解析(実施場所:船舶技研、日本鋼管)
[1] 航行性能の計測と解析
 データレコーダに収録された軸トルク、回転数等のデータは帰国後キャリブレーション信号の確認を行ったのち、コンピュータで処理し、時系列のグラフにした。軸馬力については、直接計測された軸トルク及び回転数から求める方法、推進用電動機の電圧、電流から計算する方法の両方を試みたが、全般に前者によるものの方が高い値となった。
 船体運動や加速度に関しては、本航海では大荒天に遭遇せず、大きな値は観測されていない。砕氷時における値も25次、26次の際よりも小さ目であり、特筆すべきことはない。
 また、連続砕氷航行時及びチャージング砕氷航行時に計測されたスラスト、トルク、対水速力、加速度、旋回径、船首角変化、舵角、進出距離、助走距離などを解析し、砕氷性能、チャージング中の操船性能、旋回性能などについて評価を行った。
[2] 外板歪計測
 船首部の右舷計画吃水線付近に12枚の歪みゲージを貼り、外板の歪みを計測した。
 計測結果は歪み階級で整理した。今回のデータ中では、1時間に400μεを超えるのが6回というのが最多記録である。
[3] 氷摩擦試験
 昭和基地沖に停泊中2回、弁天島沖で1回行ったが、帰国後の解析では、昭和基地沖のデータは擾乱が激しく解析不可能であった。解析結果は接線方向力及び法線方向力について時系列に整理され、前者を後者で除して摩擦係数を出している。計測データ数が少なく、船体位置や外板表面の状態等が不明であり、詳細な解析はできなかったが、全体としては、氷摩擦係数は0.2程度であった。
[4] 三点曲げ試験
 ブライド湾及び昭和基地沖で採取した氷試料427本について実施した。試験結果は、氷温による曲げ強度の変化を深度毎に整理した。これより曲げ強度は氷温低下に伴って増加しているのがわかった。
[5] 結晶組織と物性
 ブライド湾及び昭和基地沖で採取した氷試料11本について、海氷の組織構造、C軸の方位計測及び塩分濃度・密度・気泡量の測定を行った。
 ブライド湾試料の結晶構造は表面から深さ約20cmまでは粒状で、それより深いところでは柱状となっている。C軸方位は北東に向いているものが多い。塩分濃度は1.5〜2.5%の間に分布している。密度は表面付近で約0.85g/cm3で、深さとともに次第に増大している。一方、気泡体積の占める割合は、密度に対して負の相関を示し、表面付近で約6%、深さとともに次第に減少して、深さ約40cmでは1%にも満たない。それ以深では再び増大して、深さ100cm付近では4%となっている。
 昭和基地沖試料の結晶構造は表面から深さ約90cmまでは粒状で、それより深いところでは柱状となっている。C軸方位は深さ約50cmまではランダムであるが、それより深いところではほぼ水平面内にC軸が存在しており、約90cm以深では北東方向のものが多くなる。塩分濃度はブライド湾の試料と比較すると小さく、0.1%にも達しなかった。表面から底部にいくにつれて濃度が増す傾向が見られる。密度は0.8〜0.9g/cm3の間に分布している。一方、気泡体積の占める割合は、深さ30cm付近では10%を超えているが、深さとともに減少し、約70cm以深では1〜5%の範囲に分布している。
■事業の成果

南極観測船“しらせ”を利用した氷海域航行性能実験及び氷象計測の5ケ年計画の4年目の研究として、“しらせ”の本務行動に支障をきたさない範囲で、平水中及び波浪中の推進性能実験、氷海中の航行性能実験(直進試験及び旋回試験)及び氷状観測並びに前年度実船試験結果の解析を行い、氷海航行性能を評価するための氷厚、氷の強度、積雪量などの氷質・氷況に関するデータ、流氷域あるいは平担氷中での砕氷航行性能、ハンモックアイス中のチャージング回数、進出距離、船首部外板応力などのチャージング性能や船体強度に及ぼす氷力データをさらに蓄積することができた。
 これらの成果は氷海船舶の設計、建造に活用され、今後の氷海技術の発展に寄与するところ大なるものがある。





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