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■事業の内容

(1) 設計手法の検討
[1] 公称伴流と有効伴流との関連性の検討
 プロペラが作動することによる船尾の洗場への影響を境界層計算を用いて定性的に知ることが研究目的であるが、計算の方法や手順は、実施機関により相違がある。次に一例を示す。
a. 計算方法:
境界層計算…厚い境界層理論(日夏の方法)
公称伴流値の推定…排除厚さを積分(石坂の方法)
プロペラ誘導速度の計算…単一渦円筒又は無限翼数揚力線モデル
有効伴流値の推定…誘導速度を含めた境界層計算(日夏の方法)
b. 入出力:
入力…オフセット、Rn、計算開始位置、プロペラ直径、プロペラ位置、プロペラ荷重度
出力…流線、流速、境界層パラメータ、公称伴流、プロペラ誘導速度、有効伴流
c. 計算対象船と船速:
A、B、Cの3船型、Fn=0.129
d. 計算状態:満載状態、舵無し、自由表面無し
[2] 三次元境界層理論による計算手法などの検討
a. 初年度得られた実験データを用いた粘性抵抗推定法精度向上の検討供試船A、B及びCの3船型の2m及び6mの試験結果をもとに、昨年度実施した推定計算法における係数α1、α2を求め、これらの値を使って、別の船型に本計算法を適用して、その妥当性を検討した。また、境界層計算におけるT-H法の修正法で計算を行い、従来の方法との比較を行った。
b. フレームライン形状変化と粘性抵抗変化の関連性の検討
 昨年度フレームラインを系統的に変化させた船型A、B、Cについては、境界層計算による一応の結果を得たとの観点から、今年度は、Cp曲線を系統的に変化させた数隻の船型等について、シリーズ計算を行い、運動量損失抵抗や渦抵抗成分の変化との相関を検討した。次に計算法の例を示す。
 計算法…従来の微小二次流れを仮定した積分法(奥野法)で、粘性抵流の評価は姫野の方法による。
Cp曲線の変更には各断面位置を適当に移動する方法を用いた。
c. 境界層計算結果と伴流分布計測結果の相関についての検討
 計算は6機関が担当したが、次に一例を示す。
 A、B、C3船型についての伴流分布を境界層積分解法による計算により推定し、測定結果と比較した。その結果次のような結論が得られた。
 計算結果は、ビルジ渦の位置を実際より若干高く推定してしまうため、プロペラ面での伴流分布に関する船型間の差をやや極端に表現してしまう傾向が見られるが、その他は定性的にも定量的にも計算結果と良く一致している。このことから、積分型解法を用いた境界層計算は、伴流分布の推定にもかなり有効な手段と言ってよい。
(2) 性能比較計算
a. 計算の方法:
中武の方法、石田の方法、三菱の方法、池畑の方法、船研の方法等
b. 計算対象船:
A、B、C3船型
c. 計算条件:
船速…Fn=0.17、荷重度変更、満載状態
d. 入力データ:
船体形状、船形状・位置、プロペラ要目、プロペラ単独性能試験結果、伴流、抵抗
e. 出力データ:
自航要素、舵抗力、圧力分布、プロペラのKt・Kq・ηr、舵のソース分布、船体表面のラガリー力分布
(3) 模型実験
[1] 大型及び中型模型船による水槽試験
a. 供試模型船:
A、C船型…6m(パラフィン)
B船型…6m(木製)
B、C船型…4m(木製)
b. 試験種類:
抵抗試験…B船型(4m及び6m)、C船型(4m及び6m)
自航試験…B船型(4m及び6m)、C船型(4m及び6m)
荷重度変更試験…B船型(4m)
伴流分布計測…B船型(4m及び6m)
C船型(4m及び6m)
境界層内速度分布計測…A船型(6m)、B船型(4m及び6m)、C船型(4m)
圧力分布計測…B船型(6m)
c. 解析内容:
抵抗と馬力の関係、トルクとスラストの関係、自航要素、形状影響係数、造波抵抗係数、伴流の分布状況
[2] 小型模型船による流場調査
a. 供試模型船:
A、B、C3船型…2m(木製)
b. 試験種類:
抵抗試験、自航試験、荷重度変更試験、伴流分布計測、境界層内速度分布計測、舵力計測、洗場観測
…A、B、C3船型圧力分布計測
…C船型
c. 解析内容:
抵抗と速度の関係、トルクとスラストの関係、自航要素、形状影響係数、造波抵抗係数、伴流の分布状況、流速の分布、圧力分布

■事業の成果

船舶の推進性能に対する省エネルギー化の要求は近年益々増大し、抵抗、推進の両面から性能向上のための研究が活発に行われている。一方船内居住性改善の問題も国際的に重要な研究テーマとなり、振動、騒音の軽減に関する研究が広く実施されている。ところが、これらの問題は共に船尾形状に密接にかかわっており、船尾形状が適当か否かは極めて重要である。低速肥大船が省エネルギーの見地から広く採用されるに及んで、船尾形状の適切な設計法を確立することが現段階における最重点課題の一つになってきた。
 このような情勢に対処するために、本研究は昭和59年度から3ケ年計画でスタートし、すでに述べたように、3隻の肥大船について、実験、推進性能計算や三次元境界層計算などの理論計算を行ってそれらの結果を比較解析した。その結果、自航要素のうち、スラスト減少率は理論によって定性的によく説明でき、船型改良の方向を示すことのできる有用な計算法であることが確認できたが、推進効率については、実験精度との関係もあり、今後の研究課題であること、積分型解法を用いた境界層計算は伴流分布の推定にもかなり有効な手段となり得ること、形状影響係数については、縮率模型船の試験結果を用いて相似模型船の係数を推定することがある程度可能であることなどの結論を得た。
 これらの研究成果は船型設計に粘性流体理論を適用できる明るい見通しを与えるものであり、今後の理論的発展を背景にして、合理的な船尾形状設計法の確立に寄与するものである。





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