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■事業の内容

(1) 海洋構造物の設計外力及び復原性に関する研究
[1] セミサブ型リグの転覆機構に関する研究
a. 複合外力下の転覆模型実験
 係留されたセミサブ型リグに対して、長波頂不規則波、擬似潮流及び擬似風による各外力を単独あるいは複合した状態で作用させた時の水槽実験を実施することによって、非損傷時セミサブが危険な状態あるいは転覆に到り得る複合外力の組合わせ等について検討した。また、そのような異常状態を推定するための基礎的なデータを得る目的で、固定モデルを用いた単独あるいは複合外力の測定も併せて実施した。
b. 転覆現象のシミュレーション計算法の開発と実験
 次の諸点を考慮して転覆現象のシミュレーション・プログラムを作成し、ディスプレイ装置に三次元的な海洋構造物の運動を表示する方法を開発した。
流体力:固定した付加質量。減衰力についてもモリソン式によっている。
波力 :フルード・クリロフに相対加速度、速度に依存する項を使用。
有限変位、長周期漂流力、上下方向の力も考慮している。
係留 :準定常のカテナリーとして張力、形状の時系列を計算。
風力 :姿勢と係数の関係については、前年度の結果を用いる。喫水変化の影響は、投影面積の変化のみ考慮。
c. 海水打ち込み時の安定化制御の実験
 甲板への海水打ち込みがセミサブリグの転覆事故の原因の一つであるとの観点から、セミサブリグの姿勢を制御し、海水打ち込みを回避すれば、この種の事故を防ぎ安全性が保たれると考え、大傾斜したセミサブ型リグの不規則波中動揺試験を行い、昨年度のデータをもとに、運動のシミュレーション計算を行い実験結果と比較したさらに、セミサブリグが大傾斜した場合を想定し、バラストを調整することによって、その姿勢を制御し、リグの安定化の可能性をシュミレーション計算によって検討した。
d. 二方向波中の動揺特性水槽実験
 二方向不規則波の発生法を開発し、二方向波中での浮体の運動性能を調べ、二方向波中での浮体の長周期運動の解析法を検討した。また、風波・潮流中でのセミサブ型リグの安全性に関する問題点、並びに大傾斜損傷時のセミサブ型リグの波浪中運動特性について検討を行った。
e. 転覆現象のシリーズ計算
 昭和59年度までに得られた外力の精密推定法の結果を利用して、セミサブ型リグの運動、安定性等に関するシリーズ計算を実施し、安全性確認のための諸問題として、GM値の影響、係留点高さの影響及び外力の組合わせの影響を調査した。
[2] 設計外力の推定精密化に関する研究
a. ジャッキアップ型リグのレグに働く風圧力及び潮流力の実験
 ジャッキアップ型リグに装備されるレグやデリックなどの要素部材間の干渉を調べる実験を中心とした種々の風洞実験を行い、複合構造物の流体力推定、及びルールによる計算を行った。また、円柱構造物の実物における流体力の推定にしばしば問題となるスケールエフェクトを避ける方法(粗さを付ける)を検討した。さらに、複合構造物相互間の干渉影響についても調査し、ジャッキアップ型リグに装備されるレグやデリックに働く流体力を実用上の精度を保ちつつなるべく簡単に推定する方法を開発した。
b. ジャッキアップ型リグおよびセミサブ型リグの構成部材に働く不規則流体力の実験
 海洋構造物に働く粘性流体力の推定には、一般的にモリソンの式が用いられ、同式中の抗力係数および付加質量係数の実験値が数多く公表されている。しかし、その大部分は物体または外部流体が正弦振動する場合についてのものであり、実際の波浪中のように不規則な場合も含め、正弦運動以外のモードの場合については、実験例も少なく、その特性も明らかでないので、正弦運動以外の運動モードとして減衰振動モード、増幅振動モード及び不規則振動モードで振動する二次元柱体に働く粘性流体力を計測し、その特性を調べた。
c. 大波高時セミサブ型リグの要素部材に働く外力・流体力の推定
 大波高を過渡的集中波で模擬した波を使用して、コラム(垂直円柱)のみに働く衝撃力、静止ポンツーンのみに働く衝撃力、コラム(垂直円柱)とポンツーンの結合体に働く衝撃力及びコラム(垂直円柱)の強制左右揺時に働く衝撃力を計測し、理論計算結果と比較検討して、荒天海象下で稼動するセミサブ型リグの波力を検討した。
d. 外力の実験試験法の検討
 前年度に設計した浮遊式海洋構造物を対象に、実際の海域でテストするに際しての計測システムとそれを用いた実験法を検討した。また、実験実施中である海洋構造物の実験法についても現地を訪れて調査を行った。
(2) 海洋構造物の低温用材料選定に関する研究
[1] 構造モデル破壊試験
a. 構造モデルによる脆性破壊試験
 海洋構造物の代表的構造モデル(パイプT継手モデル)4体を製作し、下記試験及び解析を行った。
(a) 室温変形挙動計測
○ Hot spot部に深さ10mm、表面長さ60mmの表面切欠加工を行い、シリコンゴム・キャスティング法、クリップゲージ法による切欠先端の開口量、開口変位を実測し、δ-Vgキャリブレーション・カーブを求めた。
○ Hot spot部を中心に約100点のひずみ分布計測を行い、弾性ひずみ分布とFEM解析との整合性、Hot spot部の塑性ひずみ分布を調査した。
(b) 低温脆性破壊試験
○ Hot spot部に表面切欠加工を行い、亀裂を10mmまで進展させ、ビーチマーク法にて亀裂進展形状を測定した。
○ 上記疲労亀裂加工前・後の溶接残留応力分布の計測及び解析を行った。
○ 後記基礎試験結果から試験条件を設定し、低温での脆性破壊試験を行い、P vs Vg曲線の計測を行った。
(c) FEM解析
 上記パイプT継手モデル試験結果の解析をするための資料として、Hot spot部及びその近傍の応力状態について、有限要素法、三次元構造解析を行った。
 以上の結果について、溶接残応力の効果の調査、CODに基づくモデルの破壊強度評価を行った。
b. 基礎試験
 上記継手モデル試験結果の解析用基礎資料として、下記試験を行った。
(a) 丸棒引張試験
 室温〜-196℃での温度条件下で試験を行い、材料の温度依存性を求めた。
(b) シャルピー試験
 母材及び溶接継手試験片について試験を行い、切欠靱性の基礎データを得るとともにCODとの相関を検討した。
(c) COD試験
 母材及び溶接継手試験片について各種ひずみ速度下における試験を行い、破壊靱性値に及ぼすひずみ速度の影響を調査し、パイプT継手の試験条件の設定及び試験結果の解析に供した。
[2] 動的破壊靱性試験
 供試材母材の基礎試験(シャルピー衝撃試験、ESS0試験)を行い、脆性破面率、遷移温度等の母材部特性を調査し、以下の試験に供した。
○ 試験温度室温〜-196℃、ひずみ速度4条件について母材及び丸棒の引張試験を行い、引張強度に及ぼすひずみ速度の影響を調査した。
○ クロスヘッド速度0.01、1、10、100、1,000mm/secでのCOD試験を行い、亀裂開口変位に及ぼす速度の影響を調査した。
○ 溶接継手試験片について、硬度分布測定、シャルピー衝撃試験を行い、シャルピー値と破壊靱性値との相関を調査した。
○ ひずみ速度4条件についてCT試験を行い、破壊に及ぼすひずみ速度の影響を調べた。

■事業の成果

[1] 海洋構造物の設計外力及び復原性に関する研究
 海底石油掘削が海象条件の厳しい海域まで進展し、それに応じてより性能の高い石油掘削リグが要求されるようになり、安全性と経済性の両方の見地より適切な復原性を備えること、あるいは設計されたリグの復原性を正当に評価することが重要となってきた一方、石油掘削リグの復原性や構造、設備の安全性を規定する国際的な統一ルールであるIMOのMODU CODEに関しても、より安全性を高める立場からその見直しを求める声もあがっている。したがって関係各国では、石油掘削リグの復原性の検討にとりかかり、今や復原性は海洋開発工学の分野での一つの重要な研究課題となっている。
 このような情況のもとにわが国においても復原性及び外力の検討についての要望が高まり、昭和57年度から本研究は開始された。今年度は最終年度の研究として、さきに述べたように、転覆機構の解明、設計外力の精密化など広範囲の実験研究を行い、代表的セミサブリグ及びジャッキアップリグについて、動揺特性、流体力、風・波・潮流の複合外力についての基本かつ総合的な諸性質を把握することができた。また、海洋空間利用のための海洋構造物について、実海域実験における計測システム、実験法等を検討した。
 これらの研究成果は、海洋構造物の設計・建造にあたり有用な資料であるとともに、国際的な適用ルールの改正に役立つ資料となるものである。
[2] 海洋構造物の低温用材料選定に関する研究
 氷海域で使用される石油掘削リグ等の各種海洋構造物は大きく分けて1)Floating  Type,2)Fixed Type,3)Gravity Typeがある。これらのうち1)のFloating Typeは、船級協会規則で設計、製造が行われているが、板厚50を越える鋼材については現在のところ、IACS等の統一された規則がなく各物件毎に各船級協会との話合いで、要求性能があまり根拠もないままに決められている。また、2)、3)の固定式の場合には、各エンジニアリング会社が、各種規格(例えば、橋梁の規格、船級協会規格)を適当に複合して、鋼材に対する要求値を各物件毎に決めているのが現状である。
 そのため氷海域での海洋構造物に使用される鋼材に対する要求性能はますます苛酷なものになってきている。しかもその要求根拠も明確でない。
 そこで本研究では氷海域で使用される海洋構造物に対する鋼材の選定基準を、根拠をもった形で示すことを目的に58年度から研究を開始し、本年度は第2年度として、第1年度に行った基礎調査結果等を参考に試験モデルの形状、応力条件、ひずみ速度条件等を決定し、構造モデル破壊試験、各種基礎試験及び動的破壊靱性試験を行い、構造モデルの応力状態については有限要素法解析を行い、低温材料の破壊靱性値に及ぼすひずみ速度の影響、溶接残留応力の影響、温度依存性等についての基礎資料を得た。また海洋構造物の設計時に必要な応力計算については、膨大な量、費用を要する弾塑性計算を省略し、弾性計算結果からNewber則を修正利用した簡便な手法確立の手がかりを得ることができた。





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