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■事業の内容

(1) 防錆塗膜の耐久性に関する試験及び評価法
[1] 塗膜劣化度合の判定方法の検討
 評価項目の選定と予備試験
 吸水率、C1浸透、インピーダンス、カレントインタラプタ、付着力、外観評価、自然海水浸漬用塗装試験板2種(TE、CR・A/C・HB)を作製し、初期及び浸漬3ケ月後の吸水率、塗膜インピーダンス、付着力等を測定したが、これらの測定値の変化は僅かであり更に計測を続けて行く。
[2] 劣化促進試験法の検討
 海水対象の塗装鋼について、その塗膜の耐久性を短い試験期間内で評価できる促進試験法の開発を目的とする。
 本年度は、温度勾配法、促進浸漬及び基礎データを収集するための温海水試験を行った。
(2) 塗膜の耐久性に与える要因の検討
[1] 表面処理グレードと塗膜の耐久性
 船舶・海洋構造物に用いられる各種防食仕様は、対象となる部位、並びに耐用年数などを考慮して施工されるべきである。しかし、最適防食仕様が未確立のため、安全策として過防食の方向に進んでいるのが実状である。
 従って、塗装、表面処理グレード及び用途別による塗膜の耐久性を把握し、防食仕様の最適化を図る。
a. 飛沫部を対象とした試験
 塗装前処理試験片の作製(一次処理、二次処理)、塗装(3種類)を行い、天然暴露試験前の各塗装試験片の初期値(電気的特性、付着力)を測定し、試験を開始した。
b. 淡水部を対象とした試験
 3種類の塗料について、塗膜の直流抵抗、塗膜の交流抵抗及び付着力の初期、1ケ月後の常温海水浸漬結果を得た。
[2] 変動荷重と塗膜の耐久性
 各種の被覆防食塗膜に及ぼす低サイクル繰返し変動荷重の影響について各種被覆材の種類、塗膜条件、並びに環境条件などの観点から検討し、変動荷重下における防食塗膜の耐久性を究明・評価する。
 本年度は、下記項目について検討した。
a. 変動荷重下における各種防食塗膜の耐久性
 各種荷重下における各種防食塗膜が変動荷重(低サイクル繰返し曲げ応力付加)において、どの程度の耐久性を有するかの試験を開始した。
b. 塗膜欠陥と変動荷重下における耐久性の関係
 防食塗膜に大きさと方向の異なる各種の亀裂欠陥がある場合、変動荷重下において耐久性にどの程度の影響を及ぼすかについての試験を開始した。
[3] 変動及び衝撃荷重下の塗装材の腐食疲労への影響
 海水中において規則的に変動する荷重に衝撃的な荷重又は比較的高サイクルの荷重重畳下での各種塗膜の性能、耐久性について腐食環境下での試験を開始した。
(3) 耐久性データの総合的判定法の検討
[1] データベースの作成準備
 多変量統計解析により塗膜の劣化に関する解析を行うためのデータベースの作成準備を行った。
[2] 塗膜厚分布
 塗膜厚が均一であることは、塗膜が初期の性能を充分発揮するための必要条件である。塗膜厚に対する曲率の影響についての実験及び解析結果を塗装施工者にフィードバックし、防食仕様の違いによる差を比較した。
[3] 大気中及び海洋環境での暴露試験片諸データ
 防食仕様(塗装系5種、ライニング系3種)について大気中及び海洋環境での経年劣化の程度を調べ、データベースの充実に寄与するとともに促進試験を行った場合の促進率を推定する基準とするため最長5ケ年間を暴露期間とする試験を行った。
(4) 防汚塗膜の耐生物汚損性
[1] 塗膜表面に付着したスライムの定量化方法の研究
 スライムの定量化方法を研究し、防汚塗料の長期的耐生物汚損性の評価方法を検討した。
 基礎実験として、アントロン法、重量法及びクロロフィル定量法について、これらの方法の有効性、簡便さ及びそれぞれの方法による定量値の相関性を検討した。
 スライム中には糖質が極めて多く、それにある係数を乗ずることにより、スライムの代表値として用いることが出来そうであるが、今後、実際の防汚塗膜表面に形成されるスライム中の組成をさらに試する必要がある。
(5)文献調査
 スライムの定量法、耐生物汚損性及び船底塗料に関する文献調査
 昭和60年度に収集整理した文献は、127編と3冊あり、内容別に分類すると下記のとおりである。
[1] 防汚剤の溶出機構         7編
[2] 船底塗料の試験方法        4編
[3] 表面粗度と摩擦抵抗、燃費節減  10編
[4] 船底塗料関連(配合、性能)
ア 報文             18編
イ 日本特許           32編
ウ 外国特許           15編
[5] 安全衛生             6編
[6] 生物関連            23編+3冊
[7] その他             12編  
合計         127編+3冊

■事業の成果

就航後の船体損傷例の大部分は、構造材の腐食衰耗によることが明らかにされて来ている。このことは従来の塗装設計が経験ベースによるものであり、防錆塗膜の性能が充分理論的に把握された上で設計及び就航後の管理がなされていないことに起因している。塗膜性能は種々の環境条件即ち大気又は海水の温度、湿気、温度勾配、紫外線、荷重変動及び衝撃荷重(構造材の繰返し応力)によって影響されるが、従来は必ずしも科学的に解明されて来ていない。特に荷重変動による塗膜の劣化については殆ど研究されていない。
 一方、表面処理グレード等施工条件が過剰となっている場合も考えられ、塗膜の性能を適格に把握して、塗装仕様の最適化によるコスト低減即ち表面処理グレードと塗膜の耐久性について評価法を明確にして、コスト/耐久性の向上を計る必要がある。
 従来は、防食性をマクロ的に捉えてきたが、近年、飛躍的に進歩した分析機器及び評価手法を適用して化学的/ミクロ的な観察評価の見通しが出来たので、劣化度の実用的評価を行うと共に、更に促進試験法の開発により早期評価法の作成及び実環境における塗膜の劣化と促進試験による劣化の相関を考えたデータベースの作成を計る。
 また、船舶・海洋構造物の塗装系でもう一つの重要な性能は、耐生物汚損性である。船舶運航の燃料経済において耐生物汚損性は極めて重要であり、特に近年船会社の強いニーズによる自己研磨型防汚塗料として長足の進歩を遂げているが、より安定した長期耐生物汚損性能を確保する必要がある。
 本事業により、船舶・海洋構造物の塗装仕様の最適化及び長期耐生物汚損性の確保に関する有益な基礎資料が得られ、造船・海運業界に寄与するところ大なるものがある。





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