日本財団 図書館


■事業の内容

[1] 設計手法の決定
a. 既存データの調査・整理
 設計に利用される理論的手法の要件を調査し、船の粘性流体理論の現状を概括した。
○ 船体表面境界層計算の現状
積分法:Uberoi、Gadd、波多野、姫野-田中法など
微分法:Cebeci、副島-山崎、Hoekstra法など
○ 粘性抵抗計算法の現状
積分法:運動量損失から算定するもの及び摩擦応力と圧力から積分するもの
b. 三次元境界層理論を適用した粘性抵抗、船尾流線、伴流分布、推進効率の計算法検討
 設計への境界層計算利用法について、三次元境界層方程式に対する近似度の影響及び初期設定値の影響を検討した。
[2] 船型シリーズの決定
a. 主要目の選定
 これまでに本会で実施してきた肥大船型を調査し、大型タンカーを対象に研究することを決め、SR98の母船型を若干変更した船型を母船型(SR196-A)とした。
b. 母船型の船型計画
 SR98船型についてL,B,dを見直すと共に船首バルブとしてはR2バルブを採用した。船尾形状はSR98の逆G型を低回転大直径プロペラ採用のためマリナー型に変更した。
c. シリーズ船型の設計
母船型の線型設計を行うと共に粘性抵抗との相関に着目して船尾フレームラインをU型(SR196-C)及びV型(SR196-B)とした船型を設計した。
[3] 性能比較計算
 対象船A,B,C3船型について、船体まわりの三次元乱流境界層計算を実施し、船尾流場及び粘性抵抗の変化を調査した。
a. 計算法
 ポテンシャル流計算:ヘス-スミス法、その他
 境界層計算:田中-姫野法、その他
 抵抗計算 :姫野-石井法、その他
b. 比較計算項目
 ポテンシャル流線、流線の縮少率・曲率、修正圧力勾配、運動量厚、形状係数、局所摩擦係数、排除厚、抵抗分布、交叉角の壁面値
[4] 模型実験
a. 曳航水槽試験
(a) 供試模型船
 SR196-A、SR196-B 6m模型船(パラフィン)
(b) 試験種類
 抵抗・自航試験、伴流計測
(c) 解析内容
 形状影響係数、造波抵抗係数、自航要素、馬力、伴流
b. 回流水槽試験
(a) 供試模型船
 SR196-A、SR196-B 2m模型船
(b) 試験種類
 抵抗・自航試験、境界層速度分布計測、船体表面圧力分布計測、流れの可能化(流線観測)
(c) 解析内容
 抵抗、フォームファクター、自航要素、主流・2次流れ方向の速度成分、運動量厚さ、排除厚さ、壁面の2次流れ角、レイノルズ応力などの計算値と実験値の比較検討

■事業の成果

船舶の推進性能に対する省エネルギー化の要求は近年益々増大し、また船内居住性改善の面から振動、騒音の軽減に対する国際的要望が高まっている。ところが、これらの問題は共に船尾形状に密接にかかわっており、船尾形状が適当か否かは極めて重要であり、低速肥大船が省エネルギーの見地から広く採用されるに及んで、船尾形状の適切な設計法を確立することが現段階における最重点課題の一つになってきた。
 このような情勢に対処するために、本事業では3隻の肥大船を設計し、実験及び三次元境界層計算を行ってそれらの結果を比較解析することにより、定性的には肋骨線形状の変化が粘性流場・粘性抵抗に与える変化を予測しうること、又、修正係数を導入すれば、量的にも計算結果と実験結果は同程度の一致を得、実用可能のレベルになし得るなどの結論を得たことは、船型設計に粘性流体理論を適用できる明るい見通しを与えるものであり、また今後の理論的発展を背景にして、合理的な船尾形状設計法の確立に寄与するところ大なるものがある。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION