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著者: 山田 吉彦  
記事タイトル: マラッカ海峡に生きる海賊 『海賊の掟』  
コラム名: マラッカ海峡に生きる海賊 『海賊の掟』  
出版物名: 新潮社  
出版社名: 新潮社  
発行日: 2006/09  
※この記事は、著者と新潮社の許諾を得て転載したものです。
新潮社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど新潮社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   昨年3月に日本の外洋型タグボート「韋駄天」が襲われ、日本人を含む3人が誘拐される事件が起こり、マラッカ海峡における海賊の存在が注目を集めた。ただ事件以降、この海域では警備が強化され、海賊の発生は抑止されていた。それが1年経ち、再び活動を活発化させてきたようだ。
 私は「日本財団」に勤務し、海洋安全問題などを担当している。特に、日本に輸入される原油の80%が通過するマラッカ海峡の航行安全施策に携わってきた。この海峡は、浅瀬や暗礁が点在し航路が狭く、海難事故が絶えない。その上、ここでは海賊が出没し船の安全を脅かすのだ。必要上、私は海賊問題に深く関わることになった。それが高じて、いつしか歴史、民俗学の面からも海賊の研究を続けるようになったのである。
 私の下には、日々刻々と海賊発生の情報が送られてくる。主な発信元はマレーシア・クアラルンプールにあるIMB(国際商業会議所国際海事局)海賊情報センターだ。つい7月27日にも、マレーシアの漁船が襲われ3人の乗組員が誘拐されたとの連絡を受けたばかりである。
 韋駄天事件が発生した時も私の下には、マレーシア・インドネシアなどの捜査関係者、海運事業者、マスコミなどから多くの情報が寄せられた。だが、これらの情報の中には憶測や偽情報も多く、わざと不安をあおり、対応を誤らせる種類のものも必ず含まれている。私は、これらの情報を分析、精査することで事件の状況を正確に把握し、関係者へ連絡する役割を担ったのであった。
 海賊は複数の国の領海にまたがり行動するため、国家の主権の壁が立ちはだかり、各国政府の対応には制約が多い。また海運の世界は、便宜置籍船制度、多国籍船員の混乗が進み、国家意識は希薄である。そのため、各国政府に代わり日本財団のようなNGOが対応しているのが現状だ。
 また事件当時、私は、マスコミから多くの取材を受けた。人質の安否について意見を聞かれることが多かったが、当初から一貫して、今回の誘拐事件では人質に危害が加えられることはない、と言い続けた。奇異に思われる向きも多かったと思うが、実はそれにはわけがあった。この海域の海賊にとって船の乗組員は獲物であって、決して敵ではないからである。敵でなければ、殺すことは許されない。それが“奴ら”の「掟」なのだ。だから私は人質の身の安全について確信を持っていた。
 海賊は略奪行為を繰り返す「悪」の存在である。だがその一方で、独自のルールを作り、自分たちの夢を追い続けているのだ。それは古今東西、必ず海賊の間に共通している。生と死が対峙する海の上では、人間はいかにも無能な存在にすぎない。海に生きる海賊は誰よりも、その海の恐ろしさを知っている。そして、自分自身を守り、生き続けるために掟を作り、遵守してきたのである。
 



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