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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: 日本財団会長・笹川陽平 社会正義としての犯罪被害者救済  
コラム名: 【正論】  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2006/09/04  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  ■深刻な家族遺族の困窮にも目を
 
≪加害者の人権保護と対極≫
 警察庁がこのほどまとめた2006年上半期の犯罪統計によると、この半年間に全国で起きた刑法犯は99万7000件。前年同期に比べ約10%減少しているものの、依然高い水準にあり凶悪犯罪も目立つ。
 多数の被害者が出る詐欺事件などを見込むと、事件数を上回る人が生命や財産に「直接被害」を受け、家族や遺族の経済的困窮など「二次被害」も深刻である。
 1981年の犯罪被害者等給付金支給法の施行以来、被害者救済制度は順次、整備されてきているが、2004年の給付実績は全体で445件、たった12億円余にすぎない。米国の約1万7000件、477億円、ドイツの約8500件、144億円(いずれも2003年)に比べ、件数、総額とも大きく下回る。
 一方、加害者にかかわる公的費用はといえば、国選弁護士への報酬支払い、食料費、衣服費、医療費などを中心に刑務所経費を加えると2000億円を超す。
 もちろん、法治国家として加害者には適正な手続きによる公正な裁判、必要な更生手続きが保証されなければならない。加害者に対する国の負担が過大だと言うつもりは毛頭ない。指摘したいのは、被害者支援があまりに過小である点だ。
 大半の犯罪被害者はある日突然、理由も分からないまま犯罪に巻き込まれる。半年間で約100万件の犯罪発生数は、国民の誰にも、その可能性があることを示している。
 国家の名で刑罰を科す以上、犯罪被害者も国家の名で救われなければならない。

 ≪民事賠償請求には限界も≫
 現に2005年に施行された犯罪被害者等基本法は、すべての犯罪被害者が「尊厳を重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利」を有すると明言。「国、地方自治体には犯罪被害者の支援策を策定・実施する責務がある」と断言している。
 給付金の性格を見舞金的給付と位置付ける現行の支援制度と、基本法の理念の間には大きな落差がある。犯罪被害者の救済を「犯罪を防ぐことができなかった国家の責任」と位置付けるドイツの考え方こそ基本法の精神に合致すると思う。
 わが国ではもともと犯罪被害の救済は、加害者と被害者の個別の関係でとらえられてきた。従って損害賠償は本来、加害者が負うとされている。しかし、訴訟提起には時間と費用が掛かり、多くの場合、民事損害賠償を勝ち取るのは難しい。たとえ勝訴しても支払い能力のある犯罪者はほとんどいないのが実態だ。
 加えて被害者、家族は経済的困窮のほか、犯罪や事故により心に深い傷を負う。捜査・公判段階での精神的・時間的負担も大きい。マスコミの取材・報道に伴うストレス障害といった問題もある。
 つい最近まで司法解剖後の遺体の引き取り費用は遺族の負担となっていた。殺人事件や増加する性犯罪では、被害者を精神的にサポートする公的なカウンセリング制度をさらに強化する必要がある。
 1985年、犯罪被害者の人権意識の高まりを受け「国連被害者人権宣言」が採択された。以後20年間、救済策の拡充が図られてきたとはいえ、わが国の現状は「なお被害者に冷たい」と言わざるを得ない。

 ≪公正な社会実現のために≫
 日本財団では97年以降、各都道府県での犯罪被害者救援センターの開設や「全国被害者支援ネットワーク」の立ち上げのほか、法廷、警察への付き添いなどセンター運営に必要な人材育成を中心に支援を進めてきた。
 当初、一部大都市に限られたセンターは現在、全国で42カ所。あと一歩で全都道府県に整うところまで来ている。しかし運営は一様に厳しい。人材、資金両面での支援強化が必要である。
 犯罪の立証には被害者の証言など協力が不可欠である。加害者の逮捕、釈放などの通知制度、被害者相談員の配置など、捜査、裁判面での見直しも進められてはいるが、利用者は少なく、十分に機能しているとは言い難い。被害者が逆恨みによる再被害におびえている実態もある。
 本来、社会から手厚い支援を受けるべき被害者が制度の壁や理不尽な偏見に個人で立ち向かわなければならないのは、公正な社会といえない。 「罪を憎んで人を憎まず」というが、何よりも被害者の救済が先決とされなければならない。それが社会正義である。官と民の協力で、個々の被害者の痛みに個別、具体的に応える仕組みを整えることが急務である。                                 (ささかわ ようへい)
 



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