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著者: 海野 光行  
記事タイトル: 海の世界の人づくり  
コラム名: 海洋ニッポン My Point of View  
出版物名: 日本海事新聞社  
出版社名: 日本海事新聞社  
発行日: 2005/09/07  
※この記事は、著者と日本海事新聞社の許諾を得て転載したものです。
日本海事新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど日本海事新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   「作物を育てるには1年、木を育てるには10年、人を育てるには100年かかる」?これは人材育成の道のりが、とても長いものであることを表す言葉として使われる。人材の育成は、私たち日本財団がいまもっとも力を入れている仕事のひとつである。

 世界の中で日本が生きていくために、また、開発途上国への効果的な手助けとして、長期的展望に立って考えると、やはり人を主役とした数十年先を見越しての人づくりが重要だ。特に、海に関する人づくりは、世界においても日本にとっても喫緊の課題となっている。

 今日の海は、環境汚染、海上輸送、大陸棚画定、海洋法制の整備とその執行、海中生物、地震や津波災害などと思い浮かぶだけでも多くの問題に直面している。これらの問題を解決するには、海を国家ではなく人類全体の関係としてとらえ、セクショナリズムを排除し、国際協力、世界的な連携、そして科学と政策の結合が欠かせない。

 かつ、このグローバルな問題の対処には、さまざまな海の分野でリーダーとして活躍できる有能で経験を積んだ人材が必要である。特に発展途上国においては、多くの国際条約を施行する専門知識、技能を有する要員が不足している。このため、共通の土俵で議論できるレベルの人材を育成し、確保することが急務になっている。

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 現在、日本財団では、笹川会長のリーダーシップのもと、国際海事社会のための人材育成に取り組む方向に舵を切り、海の各分野において各種の人づくり事業を展開している。現在、展開しているプログラムだけでも、10年後には1000人を超える海の専門家が育っている予定である。

 代表的なプログラムには、世界海事大学(WMU)への支援がある。WMUは、スウェーデンのマルメ市にある国連の国際海事機関(IMO)が運営する大学院大学である。航行の安全管理や海洋環境保全を図るため、開発途上国の海事行政職や教育機関の指導者養成を目的に開校された。

 私たちはこの大学に奨学金制度を設け、これまでに42カ国300人以上の卒業生を送り出している。帰国後は、それぞれの国で海事行政や船員教育にかかわり、国会議員、外交官、IMO事務局など海事に関する指導的な地位についている卒業生も珍しくなく、海事社会では一大勢力と言えるまでになっている。奨学生間の連携や情報交換は、強固な同窓会組織を通じて活発に行なわれ、その国際的ネットワークは海に関する問題意識を共有する場として役立っている。

 海の総合的管理の考えのもと、海洋問題を総合的かつ横断的にとらえられる複数の専門知識を備える人材が求められている。他方、ひとつの分野を深める人づくりも必要になっている。「水深図」の分野はそのひとつである。

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 「大洋水深総図」という名の海洋図がある。1903年にモナコ大公アルベール1世の尽力により作られた100年の歴史を持ち、もっとも権威のある地球全体を網羅した海底地形図として知られている。その用途は、世界各国で一般教科書や地球儀のほか、地球物理学や海洋研究の分野で重要な基本地図として利用されている。

 最近、この水深図は、別の観点からその重要性が着目されている。94年に発効した国連海洋法条約に基づく「大陸棚」では、地形地質的に陸との連続性が証明されれば、排他的経済水域の外側でも一定の範囲内で海底資源に関する主権的権利が認められるようになっている。これに伴って大陸棚の限界を画定する科学的・技術的な資料の一部として、正確な水深図が不可欠になったためである。排他的経済水域200カイリ以遠への大陸棚の採掘権が確保できるかどうかは、わが国にとって国益にかかわる重大事である。

 「大洋水深総図」における現在の課題は、専門家の高齢化に伴う後継者不足と人材の育成である。幅広い海洋にかかわる学問知識に加え、データを解析し海底地形を的確に描ける専門家はとても希少なのである。

 私たちは、GEBCO(海洋水深総園)プログラムとして毎年、夢とロマンを持ち、海に対する好奇心あふれる若手研究者を世界中から7人選抜、1年間の集中訓練を米国の「ニューハンプシャー大学水路学センターおよび沿岸・海洋地図作成センター」で実施し、水深図作成に必要な技法を身につけてもらっている。また修了生間のネットワーク化を図ることで、海に関するさまざまな問題解決を促進することを目的としている。

 今年で2期目となる本プログラムには、日本の海上保安庁からも大陸棚問題を扱う若い専門家が、毎年1人参加している。同大学が持つ世界一といわれる各地域の大陸棚の測深データや地球物理学データに触れる機会は、わが国の大陸棚画定作業にとっても有意義なことである。

 水深測定の精度は飛躍的に進歩しているが、現在の実測海域はまだ全体の3割程度である。より精緻な大洋水深総図には観測点が多ければ多いほどよく、世界中のあらゆる国からの協力は不可欠である。将来、すべての海が観測され、完全なる大洋水深総図ができるには長い年月がかかるが、本プログラムにより育った専門家の協力により、その日がより早く来ることを期待している。

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 総合的な意味で問われている海洋と人類社会との関係について、わが国はほとんど何の役割も果たせていない。「海は、地球上で生きる人々を結びつける道である」?。私たちは日本の民間財団として人材育成プロジュクトを推進し、そこで育った人々が議論し合い、お互いに協力し合うことで、より良い国際海事社会の発展に貢献できることを願っている。
 



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