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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: カラスを撃てない  
コラム名: 透明な歳月の光 163  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2005/06/20  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   作られる無責任な生き方
 数日前、私は自分の書斎の部屋の窓を開けて換気をしている最中に突然カラスに襲われた。私は飛び退いて無事だったが、大きなカラスは部屋の中に入ってなかなか出口を見つけられなかった。カラスはりこうだと聞いていたが、けっこうアタマが悪い。しかしこういう「苦難」を外国暮らしの体験者に話しても、笑われるだけである。
 「ちゃんとライセンスを持っている人が鉄砲で撃てば、すぐ解決することなのに、何で手を打たないんですかね」
 農業を圧迫する野獣に対して政府は無能である。私が神奈川県で畑をしている土地でも、まず鳥害、ついでウサギやタヌキにやられている。うちの天ブクロの中で、ハクビシンだかタヌキだかが4匹も子を産んだ。皆ウソだというがほんとうだ。しかしこれらはまだ被害が少ない方だろう。イノシシ、シカ、カモシカは、農業林業の敵である。
 しかし一番恐ろしいのはサルである。網をかけても有刺鉄線でも防げない。網をかけても目の間から手を伸ばして、明日がちょうど食べごろという豆を採ってしまう。だからほんとうの山間部の人は野菜など作れない。サルが食べるために野菜を作ってやることはないから、スーパーまで買い出しに行く。
 これはやはり政治が政策を放置しているからだ。山の一定区域は動物の聖域。しかし町や耕作地帯は人間のものだから、断じて排除するという姿勢が要る。私も動物愛護型人間だが、「人間という動物」の生活もまた圧迫してはいけない。新たな「犬公方」が生まれる。何が何でも殺すのはかわいそうという人は、思考が途中で切れている。
 そういう人たちがすべて完全な菜食主義者なら私は納得するが、トンカツやヤキトリやハンバーガーは平気だとしたらいい加減なものだ。
 こうした現象は、日本人全体の国防思想と関係がある。「平和を願えば平和になる」という甘い言葉の信憑(しんぴょう)性が最近やっと崩れた。多くの人が、二度と再び戦争の悲惨を繰り返したくないから、死んだ肉親や友の魂がいる靖国に参るのに、それをわからない(ふりをする?)外国の政府があることを私たちは学んだ。それらの国は今でも地雷を商売として売っており、私はアフリカの多くの国で、〇〇国製××国製の地雷でやられました、という多くの足を失った無辜(むこ)の人たちに会っている。
 日本は武器を輸出していない。しかも人道上、そうした国々が金もうけのために輸出した地雷の除去という後始末をしている。可能かどうかは別として、ゴミと同じで、地雷も生産国が除去の費用を負担するのが当然だ。
 襲ってくるカラスさえ銃で撃てない。皆が平和を望んでいるはずだから、という未熟な思い込みが、筋の通らない無責任な生き方の人間を作っているのである。
 



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