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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: パトロール  
コラム名: 透明な歳月の光 162  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2005/06/06  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   「隠密に罠」が当たり前 
 埼玉県戸田市で、犯罪抑止のために市の職員による夜間パトロールが行われることになったという。
 私はこの手の制度に、大変興味を持つようになった。何しろ元気な高齢世代がたくさんいる。家ですることもなく、友だちも少ない、という不満を持つ人もいる。うちにばかりいて運動不足だという人もいる。年寄りは夜中や早朝に目が覚めてしまって困る、という人もいる。それらを一挙に解決するのが、この市民パトロールではないのか。
 何しろ一番すばらしいのは、お役に立てるという実感だ。そのついでに運動不足も解消でき、緊張感も持つから健康にいい。知らない人と話す機会もできて世界も拡(ひろ)がる。
 泥棒はとにかく人目が嫌いなのだそうだ。パトロールと言っても、必ずしも足で歩かなくてもいい。車でパトロールしてもいい。犯人と格闘しなくてもいい。しかし怪しいと思ったら、その人の人相風体、近くにあった車の色やナンバー、どちらの方向に立ち去ったかなどをそれとなく書き留めたり、通報したりするだけでいい。
 しかし戸田市の話にはいささか呆(あき)れた。NHKの報道によると、このパトロールは「火曜日と木曜日の、午後6時から9時まで行われる」のだそうだ。そういうことを公表する馬鹿さ加減を少しも不思議と思わないようなアナウンサーの口調なのである。
 私が泥棒だったらしめしめである。戸田市で泥棒するのは、火曜日と木曜日以外の午後9時過ぎにしよう。ありがたい情報だ。こんなばかな報道をされて、戸田市は黙っていていいのか。
 つまり今はすべてのことがイベントで、ニュースになることを狙う「ごっこ」なのである。ほんとうに犯罪を防ぎ、犯罪者に仕事をしにくくするためではなく、これも一種のショーなのである。そうでないなら、こうした報道をしたNHKの非常識はきつく責めるべきだし、逆に市にそういう姿勢があったらおかしいと思う感覚がNHKにもあってしかるべきだろう。こういう甘い姿勢だから、受信料を払わない、という人も出るのだ。もっと大人になってもらわないと困る。
 ほんとうに犯罪を防ぐためなら、ぬきうち的に、誰のどういう車がパトロールしているのかわからないようにすべきだろう。人気番組だった「西部警察」みたいに、パトカーが何台も出初式みたいに車を連ねて、一斉にサイレンを鳴らして走ることはないのだ。泥棒はサイレンが聞こえたら物陰に隠れ、パトカーが行ってしまったら、悠々と仕事を始めるだろうから。
 隠密に悪事を働く人たちは、隠密に摘発しようと罠(わな)をかける人が一番怖いのだ。そんな当たり前の常識が通るようなニュースを聞かせてほしい。
 



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