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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 現実主義  
コラム名: 透明な歳月の光 155  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2005/04/18  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   小説に吹き込まれる生命力
 9年半前、日本財団というところで働くようになった時、まもなく私はひどいケチだという評判がたったはずだ。
 私はダイレクトメールとして「特定の人たち」に送っていた日本財団についての月刊の雑誌を廃刊し、それで2億円以上の広報費を浮かせた。そのお金で週刊誌、月刊誌計50数誌に、月1回、3分の1ページの活版広告を買った。お蕎麦(そば)屋さんで、よくおじさんが1人で肘(ひじ)をついて蕎麦をすすりながら見ているような雑誌を、日本財団の広報のターゲットにしたのである。
 私は事業案が出てくるとまず意図や構成を聞き、最後に必ず単価を尋ねた。講演会でもシンポジウムでも、予定出席人数で予算を割ると、1人あたりの経費がいくらになるのかを尋ねた。大物経営者ではなく、小人(しょうじん)の特徴である。
 毎年、財団は「事業計画アウトライン」というリポートを作るが、その小冊子も実質本位で装飾は一切なし。1冊あたり「去年は62円で作れたのに。今年は何で76円もかかるのですか」という式の会話が出るほどのケチぶりである。でもそれ1冊で東京都の「ひまわりの会」がやっている既存宅老所の整備に12万円、和歌山県の精神障害者地域生活支援センター「一麦会」に建築費として3170万円を出していることなど、全国の全事業が詳細にわかるようになっている。
 先ごろ経済産業省資源エネルギー庁がマニュアル1冊に40万円かけたという怠慢の対極にあるだろう。40万円のマニュアル製作に関係した人々には、金銭的に償いをさせてはいかが。
 私は時々、こういう私の性格はどこから出ているのか、とおかしく思うことがあった。もっとも先代の会長も極度に質素で、いちいち単価を確認する点だけは私とそっくりだったというから、財団の社屋の隅々に、ケチという細菌が住み着いていて、私も感染したのかもしれない。
 しかし実は、小説家の仕事が、こうした厳密な現実を踏まえて構成されるものなのである。
 1人の主人公を描く時でも、私は彼がいくらの収入があって、どのような金の使い方をしているか、頭の中で自動的に抑えてある。もっと夢のない言い方をすれば、その人の家はどういうマンションでローンはいくらか、彼の妻はどんな人か、ワードローブや押し入れの中はどんなふうになっているか、いちいち書き留めはしなくても、わかっていて書くのである。そうした現実主義が底辺にないと、作品に生命力が出ない。もちろんそれは芸術の本質とは別のものではあるのだが…。
 もっとも私の友人たちに言わせれば、わが家の家系にケチという名のDNAがあって、夫、息子、男の孫に着実に色濃く出ているという。夢のない話である。
 



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