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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: トイレットペーパー  
コラム名: 透明な歳月の光 150  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2005/03/11  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   繰り広げられる人間模様
 3月6日付の毎日新聞に、トイレットペーパーについて大変おもしろく重要なことが書かれていた。
 トイレットペーパーを使っているのは世界の人口の約3分の1だという。今アフガニスタンのどこかにいるというウサマ・ビンラーディンも、トイレットペーパーなど使わず容器に入れた水を携行する生活だろう。近くに住む荒野の遊牧民は大のほうの処理には石を使っているはずだ。ローマ人たちは棒の先に着けた海綿を、豪華な浴室の溝を流れる水に浸して、それで清めていた。
 もう30年以上前になるオイルショックの時、日本ではトイレットペーパーの買いだめがはやった。そのころはまだ噴水の出る便器など一般的でない時代だが、私はどうして紙がなければ生きていけない、と感じるのか不思議だった。
 気温が氷点下になるような土地や季節では、水処理は不可能になるか、健康上の問題も招じるだろうが、そうでなければ、トイレの処理は年間を通して水処理の方が清潔なはずだ。現に水処理文化の土地では痔(じ)が少ないという。
 ただし水処理文化地域には、基本的には男女共に腰巻き文化の下地がある。つまり現在は違ってきているだろうが、歴史的には原則として下ばきというものをはかない。だから水処理も、何ら問題ではないのだ。暑い土地ではぬらしたままでもそのうちに乾く。そのような土地では、トイレの場所も選ばない。大地はどこでもトイレで、男も女もその服装なら少しも人目に触れずにどこでもしゃがめる。狭いところに囲いをして、汚物の堆積(たいせき)や臭気を気にしつつ用を足すなどというみじめさは、中近東の放牧民には想像できない。
 もっとも紙を使う文化は、さまざまな人間模様を繰り広げてきた。
 戦前はトイレットペーパーの代わりに新聞紙を使う家も珍しくはなかった。私の知人の1人は、さまざまな職業を遍歴したあげく、たまたま借りた知人の家のトイレの中の新聞広告で、ある大学の募集要項を読んでそこに進学することにした。
 昔私が取材した小口金融の男は、金を貸してくれという家では必ずトイレを借りるのだ、と私に話した。当時のトイレットペーパーは、普通は落とし紙といって四角く切った再生紙だったが、新聞紙を置いている家でも構わない。とにかくきちんとはさみで切って入れてあるうちには金を貸してもいいのだという。しかし、「ひっちゃぶって」使っているようなだらしないうちには金を貸さないので、行きたくなくてもトイレは借りなくてはいけないのだ、と金貸しの極意を教えてくれた。
 中国人は、思考するには「馬上、厠上(しじょう)、枕上」が適切だと言っている。通勤、トイレ、ベッドの中で、もっとものを考えろということだ。(毎週金曜日掲載)
 



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