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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 27回の「自由」  
コラム名: 透明な歳月の光 144  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2005/01/28  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   “自信”なきブッシュ演説
 1月21日の、ブッシュ米大統領の二期目の就任式について、旅行先のシンガポールの「ザ・ストレイツ・タイムズ」で記事を読んだ。
 いつも思うことだが、アメリカ大統領は、聖書に手をおいて宣誓し、儀式の場で歌われる歌の中でも、神の概念は決して避けられていない。信仰と言うと、あのオウム真理教事件しか思いださない日本人とは、大きな違いである。
 日本の新聞に出たかどうか知らないのだが、就任式関連の写真の中に、私の胸を深く打つものがあった。ロイターが撮ったものである。
 申しわけないことだが、最近の日本の新聞の報道写真で胸を打つことはほとんどない。それは決して日本人のカメラマンに才能がないということではない。新聞社が彼らの意欲をそいで、真の報道写真を撮らせないだけのことだ。
 事件現場、個人の特定できる写真はだめ。万が一のことがあるといけないから危険地帯には「社としては」出さない。こうした甘い報道の姿勢が、日本の新聞は「満月とススキ」の情緒的写真だけを出していればいい、という皮肉を言う人も出る理由だ。
 もちろん危険地帯には行かない、というカメラマンを無理に現場に出すことはできない。しかし外国のテレビは、テロの続くバグダッドにさえ女性特派員を出してライブで報道させている。誘拐の危険の可能性などを思えば簡単には言えないが、万が一の場合の保険金の額をきちんと決めて、後はそれこそ自己責任で選択させるというのが、こうした特殊な職業の常識であろうと思われる。
 私が感動した1枚の写真は、就任式に出席した1人の車いすの海兵隊員の姿である。紺色の地の制服に、赤の縁取り。袖章も赤。金ボタンに金のバックル。ベルトと手袋と帽子は純白。そして赤い側線の入ったブルーのズボン。
 彼は負傷兵だが、それも時期が来たら治癒するというものではない。彼は右足を腿(もも)の途中から切断されていた。
 私は彼の心中を思いやることは全くできない。今でもイラクの戦いにアメリカの正義を信じているだろうとも保証できない。人が自分の行為をどのように肯定し、どのように怒りの種にするか、それは当人にしかわからないことだ。
 ブッシュ大統領は多くの若者たちの死傷者を出したイラクの戦争には一言も触れなかった。
 ブッシュ大統領は就任演説の中で「自由」という言葉を27回使ったという。小説家がもし短い文章の中に、同じ抽象的な単語を27回使ったら、それは描写と実証と緊張を欠いた文章として編集部から駄作と思われるだろう。人は言うべき内容に自信がなくなると同じ言葉を繰り返すことによって、何とか客観的力を与えようとする。これは私たちプロの世界の認識である。
 



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