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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 分配  
コラム名: 透明な歳月の光 142  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2005/01/14  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   限界状況にみる人間心理
 ここ1週間、ニュースをじっと見ていると、被災地の救援をするにはどうしたらいいかということの問題点が続出するようで、見ているだけで疲れるときがある。道路が寸断されたまま、他に代替えの輸送方法がない状態が続くことなど日本では考えられない。
 1985年、干魃(かんばつ)で飢餓が続いたエチオピアで私は初めて深い谷と台地が交互に続く地形では、陸路物資は運びにくいことを知らされた。
 NATO軍が「エヤー・ドロップ」と称してプロペラ機から穀物の袋を投下していたが、道もなくヘリもなければ、今でもそれ以外の配給の方法はないだろう。ただ爆弾のように落とされた袋の多くは地上で破れ、穀物がぶちまけられるのが多かった。どうしてあんなやわな包装をするのだろう、と私は平静ではいられなかった。
 ぶちまけられた穀物めがけて数千人の大群衆が地響きを立てて殺到する。穀物が分厚く固まって落ちている地面では、穀粒を拾う権利をめぐって、女性同士でも殴り合いのけんかが始まる。
 私は目を伏せたくなった。自分もその場にいたら、やはり散乱した穀物目当てに走り、人を押しのけるだろう、と思ったからである。
 その日の昼食時に、私は持参したホテルのランチボックスをNATO軍の飛行機の中でひろげた。食べ始めた最初は静かだった。アフリカの爽(さわ)やかな台地の風が静かに吹き込んでいた。そのうちに入り口から子供の顔がこちらを覗(のぞ)き込み、数も次第に増えた。
 どうせランチボックスは量が多過ぎるのだから、できるだけたくさん食べ残して子供たちにやることにしよう、と私は思った。しかし私と同じ飛行機の中にいた兵士は、私の気持ちを察したように予防線を張った。
 「余した食べ物は決して子供たちに与えないでください。そんなことをすると彼らは暴徒になって、飛行機を壊されますから」
 1人でも2人でも、救えるだけ救えばいい、ということもこうした限界状況ではできなくなる。外国のテレビに登場した災害地で働く婦人が同じような意味のことを言った。
 「もしそこに数十人がいて、全員に行き渡らない数の食料しか配られなかったら、それはひどい結果になります」
 窮乏を知るほど、人間は冷静に分け合うということができない。分け合うことを知っていた日本の被災者はまだ限界状況ではなかったのである。
 各国の首脳が、国際社会の評判を気にしながら、まるでオークションのように救援の金額を増やしていった経過は、どうでもいい。各国別の配分の金額が一応公表されたが、どう分けてもその額について不満を抱かない国は一国もないだろうという人間心理のむずかしさに、今後どう対処するかまた学ばねばならない。
 



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