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著者: 高木 恵  
記事タイトル: ベトナム造船業あれこれ〜新市場探る舶用工業会〜  
コラム名: ベトナム造船業あれこれ〜新市場探る舶用工業会〜  
出版物名: Ship&Ocean Newsletter  
出版社名: シップ・アンド・オーシャン財団  
発行日: 2004/12/20  
※この記事は、著者とシップ・アンド・オーシャン財団(S&O財団)の許諾を得て転載したものです。
S&O財団に無断で複製、翻案、送信、頒布する等S&O財団の著作権を侵害する一切の行為を禁止します。  
  はじめに
 ドイモイ(刷新)という名の市場経済制の導入、東南アジア諸国連合(ASEAN)への加盟、二桁に近い経済成長と、近頃フィーバーとも思われるほどベトナムヘの国際的認知度と期待度が高まってきている。わが国においても例外ではない。2003年の日越投資協定締結、小泉首相による長期政府経済援助への確約など、経済環境の良好化に伴い日本企業の現地進出が相次いでいる。
 こうした中、日本舶用工業会は2004年10月末、首都ハノイにおいて「舶用工業セミナー」を開催した。このセミナーの目的は、目覚しい発展を続けるベトナム海運・造船関係者に対して日本の優秀な舶用工業製品をアピールし、今後の市場拡大を図ることにあった。日本の舶用工業がベトナムでこの種のセミナーを開催するのは、もちろん初めてである。私はこのセミナーのお手伝い役で参加する機会を得た。ベトナム側を代表しての造船産業公社(VINASHIN)レイ・ロック副社長による挨拶は、日本の舶用工業への熱い期待がひしひしと感じられるものであった。会場には予想を大幅に上回る200人もの参加者が溢れ、講演に熱心に耳を傾けメモをとる姿が印象的であった。ベトナムの造船業に対する関心の高さと勤勉な国民性を、肌をもって如実に感じた。

はずみつく造船界
 さて、市場経済制を導入したとはいえ、ベトナムは社会主義の国であり、主要産業は完全な国営である。海運・造船産業も同様で、海事関連行政をつかさどる国家海運総局(VINAMARINE)、海運・港湾経営を司る海運公社(VINALINES)、造船分野を統括する造船産業公社(VINASHIN)の3つの政府機関からなっている。現業部門の責任を持つビナラインとビナシンは各々傘下に数十社の企業を有し、傘下企業は独立採算制で経営する仕組みになっている。近年、国際海運市況の高騰を反映して、各国の造船受注量は増加を続けている。日本、韓国、中国の主要造船国では2007年末から08年納期の船台を奪い合っている状況にあり、各国の船主は船台逼迫下、国内向け中・小型船の建造に実績を積んできたベトナムに造船発注し始めている。
 ベトナムの主要造船所の大半はビナシン傘下にあり、その数は70社ある。現在、バクダン造船所では日本発注の6,300DWT型バルカー(※1)、ハロン造船所ではポーランド発注の1,600TEU(※2)型コンテナ船や12,500DWT型バルカーを建造中である。今後は国内向けに18隻の新造船、英国発注の53,000DWT型バルカー15隻などの建造計画がある。新造船建造や船台拡張の資金調達には課題が残るものの、次々と大型ドックや新造船所を建設し、建造能力を高めようと努力する様子は、10年前の改革開放路線が進む中国を彷彿とさせる。近い将来、北部地域では3万から7万トン、中部地域では20万から25万トンの大型船舶が建造できるよう計画が進んでいる。2003年度の新造船建造量は、日本と韓国が約75%、欧州が約10%、中国が約8%の順になっている。ベトナムは2015年には中国に次ぐ世界第4位の造船国になることを目指していると意気高く公言している。その青図は着実に現実化しつつあるようだ。

ライバルは欧州
 ところで、2003年度の日本舶用工業製品の輸出総額は約2,500億円、内対ベトナム輸出は5.5億円(0.22%)に過ぎない。それだけに、日本の舶用工業界ではベトナム造船業界の発展が即輸出拡大、新市場の繁盛に直結するのではとの期待が強い。現在の実績が微々たるものであればあるほど、化ける数字を期待したくなるのは無理もない。しかし、簡単ではない。その前途には大きな障害が立ちはだかっている。欧州舶用工業界の存在である。
 日本舶用工業会主催の「ハノイ・セミナー」に呼を合わせるように、この時期欧州舶用工業界はミッションを派遣している。10月初めには小泉首相ら各国首脳が会してのアジア欧州首脳会合(ASEM)がハノイで開催された。日本舶用工業界としては、このASEMを露払いにして日本舶用技術の優秀性を誇示したかったのだが、そうはさせまいと割って入ったのが欧州勢だった。吸収・合併が進み統合化された欧州舶用工業界の売りは「トータルサプライヤー」である。単体製品生産から周辺機器生産まで一括受注が可能なことは、単体製品一つ一つを組み合わせる工程を省けることなど、熟練技術者の少ないベトナム側への大きなセールスポイントなのである。舶用工業製品を巡る日欧間のハノイ戦争は避けて通ることはできない。

生産拠点としての可能性
 輸出に加え日本舶用工業界が抱く今一つのベトナムヘの期待は、生産拠点としての可能性である。ベトナムに新たな生産拠点を求める動きは、舶用工業界に限った事象ではなく、多くの日本企業が同じような動きを見せ始めている。「すべてではない」としながらも、ある舶用関係者は、その根本には「政冷経熱」と呼ばれる現在の日中関係への不透明感があるという。先のSARS禍に見られる閉鎖的体質、法治主義の徹底しない中国ビジネスの難しさ、そろそろ中国一極集中からのリスク分散との思惑があるというわけだ。舶用工業界が目を付ける生産拠点としての潜在的メリットを列記してみる。1)に労働力である。勤勉、低廉、高等教育水準の労働力が確保でき、かつ人事労務問題が少ないこと。2)に政治・社会情勢の安定である。日越関係も首脳の間を置かぬ相互訪問がなされるなど良好であり、投資協定締結によって日本側資本への税制面での優遇制度があること。3)が地理的優位性である。浚渫などにより港湾施設が拡充されればASEANの中心地として、また日本、中国、米国への輸出中継拠点となり得ることなどであろう。

おわりに
 先に触れたが、ハノイ・セミナーへの反応は熱烈歓迎であり、舶用工業界を勇気付けるものであった。だが、ベトナムでの新市場開拓には、まだまだ乗り越えなければならない障壁が多い。巨大ライバル欧州連合の存在、そして忘れてはならないのが、市場経済制を取りはするが、ベトナムは開発途上の社会主義国家である。賄賂、汚職は日常茶飯事である。「二度と敵に回したくない国はベトナム。彼等は鋭利な頭脳の持ち主。おまけに猜疑心が強い」とはキッシンジャーの言である。日本の舶用工業界は、ベトナムが一筋縄ではいかない相手であることを肝に命じておかなければならない。ベトナム熱といった一時の踊らされではなく、腰を据えて取り組んでほしい。日本財団は地に足を付けた進出努力には、できるだけのサポートを惜しまないはずである。(了)

※1 DWT=Deadweight Tonnage(載貨重量トン数)。満載喫水線の限度まで貨物を積載した時の全重量から
       船舶の重量を差し引いたトン数。
   バルカー=ばら積み船
※2 TEU=Twenty Foot Equivalent Unit。長さ20フィートコンテナを1単位とした換算個数。
 



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