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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 貧困 汚職のつけ 目立つぜいたく  
コラム名: 透明な歳月の光 130  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2004/10/15  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   サマワにまだ自衛隊が入る前に、戦争で荒らされた病院の内部がテレビに映し出された時、私は「あら、何てきれいな病院だ」とテレビに向かってひとり言を言った。もちろん日本に比べてきれいだと言ったのではない。私は心の中で、私が見て来た多くのアフリカ諸国の、首都や田舎の病院と比べていたのである。
 アフリカの病院の特徴は、中に入ると、むっとするような独特の匂(にお)いがすることが多い。私はそれを貧困と不潔の匂いと呼んでいる。病室は1日100円とか200円で入れるのだが、ヨーロッパ諸国からもらったベッドはビニールをはったもので、もちろんマットレスもシーツもない。
 日本人はまともにベッド数を気にするが、小児科なら1つのベッドに2人の子供が寝ていることは珍しくないし、病人のつきそいが床の上や軒先に泊まりこんでいるのはごく普通だ。つまり人口過剰なのである。臭気の原因は赤ちゃんのおむつでもある。おしっこの場合は洗わずにそのまま干して再使用している人もいるし、衣服も洗える時まで洗わないのが普通なのである。
 アフリカ諸国の病院は、首都の大病院でも食事は出さないところが多い。田舎の小さな医療施設では入院には必ずナベカマ、燃料、ふとん、食料持参の上、病人に食事を作るつきそいがいる。その上、部族親族を上げてのお見舞客もすごい数になる。恐らくそうした諸要素が臭気の原因になる。
 戦後日本がまだ貧しかった時、私は母に連れられて1軒の家を訪ねた。その人は戦前には人も羨(うらや)むような贅(ぜい)を尽くした家に住んでいたのだが、生糸相場に手を出して失敗し、その後見るかげもなく落ちぶれて、やっと暮らしている人だった。母は環境の変化など気にもならない顔でその人と喋(しゃべ)っていたが、彼の住んでいたボロ家の最大の特徴は、畳の面が明らかに傾斜していることだった。根太(ねだ)が腐っていたのだ。
 そしてその人の家で私は初めて貧乏の匂いという独特の臭気を体験したのだ。もっともその頃の日本は貧乏だったから、私の母は家の修理もできないので、「洗濯と掃除だけしていた」と後年語っている。
 貧乏は貧しい人々だけが目立つのではない。貧しい人々の間で、ぜいたくな暮らしをする人も目立つのである。
 貧しい人たちの暮らしは1日1ユーロ以下、つまり一家数人が120〜130円で暮らしている。同じ社会で医者たちの中には500万円以上する車に乗っている人も多い。
 そんな思いを持って、今回もアフリカ旅行中、ホテルに帰ってテレビをつけたら、イギリスのテレビ局が「汚職のつけは、貧困である」という痛烈な言葉を流していた。NGO、NPOはニュースに映る国を選んで行きたがるが、それは軽薄というものだろう。貧困はどこにでもはびこっているのだ。
 



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