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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 雇用関係  
コラム名: 透明な歳月の光 125  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2004/09/10  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   ■足りない「契約の思想」
 政府がフィリピン人の看護師と介護士を年に100人ずつ受け入れる、という。やっとそうなったかという思いである。
 この高齢社会で、今に誰も看護や介護をする人がなくなるという事態が来ることは明らかだからである。しかし今回は100人限定で、正式に就労するには日本の国家試験を取得することが条件だという。
 国家試験はタガログ語か英語で受けさせてくれるのだろうか。日本語で受けろというのなら、最初から不可能にしておくことを意味するだけだ。
 外国人労働者を入れるに当たっては、差し当たりシンガポールあたりで、雇用の実態と、どこに問題があるかを調べて来るのが先決だろう。
 日本の国際的センスの中で最も薄いのが、契約の思想である。フィリピンの労働力を入れるに際して、不法労働者が増えるだろう、とか日本の高齢者や女性の労働力を吸収するのが先だろう、などという反対が出たというが、いずれも遅れた考え方である。
 不法労働者を、厳重に締め出すことはどの国にとっても当然である。指紋登録は人道的でないなどというが、今後はDNA登録さえ義務づけて当たり前だ。シンガポールでは最低賃金も決まっている上に、半年に1度は出頭して健康診断を受けねばならない。その大きな目的の1つは妊娠検査で、それがわかると即刻国外退去になる、と知人は言う。
 契約は契約なのだ。何年間働き、その後は必ず国外へ退去するという契約を守らせるためには、その国で相手を見つけてそのままずるずると結婚することは認めない。結婚も子供を持つことも自由なのだが、それは一応この雇用契約を果たした後でのことだという考え方は間違いではない。
 日本人はキリスト教に馴(な)れていないから契約の精神がない。キリスト教では人間は自由意思で神と契約を結ぶ。神は人間の人格を認めるがゆえにその契約を受け入れる。神はそのような形で人格を尊重する。
 その契約に納得できれば、外国人労働者は働くことを納得する。妊娠検査をされることは屈辱だから嫌だ、という人は、それに応じない自由を確保している。
 不景気だ、不景気だ、と言いながら、日本人は労働条件における自由競争の原理を全く承認しない。しかし、1人の人間が生きる状況は刻々かわるのだ。バブルの時代には、土木の現場の雑役の労務者さえ日当2万円はざらだと言われた。しかし、不景気になれば相場は下がるし、更(さら)に自分が働きたいと思えば「人より安く働きます」ということは、世界中の常識であろう。
 もちろんどんなに契約があっても、人と人との関係の終極には、愛がなければならない。その人に世話にもなるが、相手を幸福にしたい、という思いがなければ気持ちのいい雇用関係などできるものではない。
 



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