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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 自衛隊イラク派遣  
コラム名: 透明な歳月の光 117  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2004/07/09  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  【自立前提に撤退時期示すべき】

 私は20年くらい前から、庭に花を植えたり野菜を作ったりすることを趣味にするようになった。しかし試行錯誤の連続である。多年草や球根なら一度植えれば数年手抜きができるだろう、と思ったのに、丈夫な菊やベゴニアでさえ植えっぱなしではだめだった。古い茎は捨てて新しく整備した土に差し芽をしてやらねばならない。植木や花でさえ整理ということが必要なことに、私は驚いた。

 8年半前から私は財団に勤めるようになった。財団では、お金を出す相手がどれだけの効果を上げているか、常に見ている必要があった。私たち財団からの毎年の助成金を当てにして、それで経営することに決めている「悪安住」をしている組織からは、徐々に助成金を引き上げて整理することは当然だった。

 なぜ徐々にであって急にやらなかったかというと、私はその組織で働いている人が、突然生活に困ることは避けたかったのである。その代わりきちんと整理のテンポや額を示し、その間に新しい生活の方法を考えてもらうことにした。

 私は新しいことを始めるより、整理の方がむずかしいことを知った。ただし整理なくして発展もないのである。

 自衛隊も、撤退の時期と方法を早くから明示すべきだろう。国連軍には加わるなということでもないし、護衛を担当するオランダの部隊が引き上げたらお帰りなさい、というのでもない。

 第一の理由は、どの国に対しても一刻も早く経済や技術面での自立を促さなければならないからである。だからできるだけ短期間のうちに多くのイラク人に技術移転を図るのが自衛隊の任務である。テロリスト以外のイラクの住人で少しでも計算のできる人なら、自衛隊にいつまでもいてほしい、と思うのは当然だ。表現の非礼を許していただかないと事情が説明できないのだが、誰だって、こんなに誠実で、有能で、ただで働いてくれる建設業者を要らないという人はいないのである。

 第二は、財団もそうだが、費用対効果を計算に入れない事業は決して長続きしない。もちろん簡単に、これだけの造水装置にいくらかかったか費用の計算をしろ、と言っているのではない。自衛隊の駐留は、国益や外交などさまざまの計算し切れない効果を狙ったものだということはわかっている。しかしいかに考えても、これほど単価の高い建設費は、どの大手ゼネコンの概念にもないだろう。大手ゼネコンなら必ず土地のサブコントラクターと労務者を使うからである。

 整理はなにごとにも必要だ。引き時を示すには実に冷静な計算と知恵が要り、それにいささかの愛の香りも味も添えたい。しかし私たちは合理性を見失ったら、狂的な道に引きずり込まれるのである。
 



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