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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 竹切りボランティア  
コラム名: 透明な歳月の光 109  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2004/05/14  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  【国内にいくらでも活動の場】

 5月連休の次の土曜日に、私は石川県金沢市郊外の山で、3度目の竹切りボランティアに参加した。

 孟宗竹は1年で10メートルも伸びる。竹が繁茂すると、陽を遮り、土地の養分を吸いつくすので、雑木林は枯れ、若木も日光不足で育たない。竹は表土を保たないが、雑木林は腐葉土を作り、保水能力をつける。健全な土がいい川の水を作って水田や耕地を潤し、いい川が海に流れこんで豊かな自然の海を作る。金沢はおいしい魚や野菜で有名な土地だが、おいしいものを食べる市民が、少しはおいしいものを作る基盤整備に手を貸すのが道理だろう、と私は思う。

 竹は他の木と違って、伐採に危険が少ない。もちろん皮の部分が弾くこともあるし、危険がないわけではないのだが、普通の木の間伐よりずっと素人向きである。

 当日は一般市民、防衛大学校の卒業生たち、私の勤める日本財団の姉妹財団の人たちなどで総勢約200人。小学生だけでなく、障害を持つ子供たちも来てくれた。私は取材に来たマスコミの人たちにも最低限1本は竹を切ってもらった。そもそも取材というものは、必ず現場で働く人たちと同じ生活をしてみることが原則なのである。

 すると背広を着て革靴をはき、どう見てもあまり竹切りなどに向いていそうもない1人の放送記者が、思いがけず上手だった。私は思わず「まあ、あなたは竹切りの才能もあるのねえ。放送局なんかにおいておくのはもったいないわ」と口走った。するとその人も「僕は田舎の生まれですから」と笑った。これで外側から見ていて取材すればいい、という部外者的取材姿勢が根本から取れたのである。

 その取材陣には目立たないように働いている1組の中年カップルもいた。ニッポン放送の亀淵昭信社長夫妻である。これが日本の新しい指導者の姿だろう、と私は思う。昔の社長は決して土にまみれて力仕事などはしない。しかし外国では、これがむしろ奉仕の姿なのである。

 日本の皇室も、天皇陛下ご自身が田植えを、皇后陛下は養蚕をなさって働くことの尊さを示される。

 マンパワーとは恐ろしいもので、4時間ほどで暗い竹藪にさんさんと陽がさしこんだ。今は50センチくらいの栄養不良の雑木の赤ちゃんがこれで伸び伸びと大きくなる。

 今年はタケノコの当たり年で、村の婦人たちが煮てくださったタケノコをゴリラになった気分で食べた。これも一種の竹退治である。地元の金沢手取亢龍(てどりこうりゅう)太鼓保存会の人たちも、谷にこだまする豪快な太鼓の腕前を聴かせてくれた後で、参加の子供たちにも指導してくれた。

 何もイラクやアフリカまで行かなくても、足元の日本でいくらでもこういうボランティアの仕事はあるものなのだ。
 



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