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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: ザルツブルクの音楽祭  
コラム名: 透明な歳月の光 104  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2004/04/09  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   今年はザルツブルクの春の音楽祭に出席した。

 ザルツブルクは、白モクレンやレンギョウの花が咲き乱れ、長い厳しいヨーロッパの冬の後に萌え出でる春を喜び味わっている、という感じである。

 1995年に私が日本財団という所で働き出した時、すでにこのザルツブルクの春の音楽祭を支援する事業は始まっていた。日本財団のお金のほとんどは、老人ホームの建設や、精神障害者の授産場の整備、日本の油送船の八割が通るマラッカ・シンガポール海峡の保安などに使われているのだが、そのうちの一部が、資金が決して豊かとは言えないザルツブルクの音楽祭の後援に廻され、深く評価されていたのである。

 ところが数年たつと、係の職員が少し怒ったような表情で私のところにやって来た。今まで日本からのスポンサーは2団体で、もう一つは有名な大手ゼネコンであった。そこが自分たちのところだけやりたいから日本財団にはスポンサーになるのをやめてくれ、と言って来た、と言うのである。私は迷わなかった。

 「それならお譲りしましょう。お金というものは、出したい、というところにさっさと廻して出してもらえばいいんです。財団の任務は、世間から捨てられている所を助ければいいんですから」

 それからほんの数年で、また話が変わって来た。

 「建設業界の景気が悪いもので、例のゼネコンがスポンサーを下りたい、と言っているようです」

 私の記憶ではたった2年か3年しか続かなかったと思う。しかし今度も私は迷わなかった。

 「捨てられたものを、拾うのはもっといいんです」

 こうして再び、音楽祭の支援は始まった。今年のスポンサーは、金融のフォントーベル・グループと、日本財団と、フォルクスワーゲンである。音楽祭でのこまかい仕事は、すべて姉妹財団の日本音楽財団がやっている。

 お金を出した先は必ず誰かが行って見守るべきである。それは監査の目的と、あたたかい励ましを送ることと、二つの目的があるのだから、政府であろうと民間であろうと必ず行わねばならない。

 今年の音楽祭の目玉は、日本音楽財団が所有しているストラディヴァリウスのうちの14挺が集まったことで、中でも4挺のバイオリン、2挺のビオラ、2挺のチェロによるメンデルスゾーンの弦楽八重奏曲作品20は感動的であった。ヴィヴィアン・ハグナー、諏訪内晶子、石坂団十郎、ジュリア・フィッシャーなどの才能溢れる世界の若手演奏家が、パガニーニが使ったといわれる4挺のストラディヴァリウスを持っている東京クヮルテットの4人に支えられ、スタンディング・オベーションがいつまでも鳴りやまなかった。
 



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