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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 鳥インフルエンザ?自殺でも逃れられぬ責任  
コラム名: 透明な歳月の光 100  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2004/03/12  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   「浅田農産」という会社の京都府丹波町にある養鶏場で、2月20日ごろから、鶏が大量死していたのに、会社側からは何の報告もなかったことが、今回の鳥インフルエンザの流行の大きな原因だったという。その会社の会長夫妻が、3月8日朝、責任を感じて首吊り自殺をした。

 事件は、2月26日夜に不審な鶏の大量死を告げる匿名の電話があったことから始まった。つまり鶏の大量死が始まって1週間経ってもまだ、この会社が事態を黙っていることに業を煮やした誰かが通報した、と見るのが普通であろう。この会長は日本養鶏協会の副会長も務めていた人だというから、鶏の大量死がいかなることを意味し、どのような危険につながるかを知らなかったはずはない。またその場合の義務も当然知っていたはずだ。

 しかし自殺したとなると、急に新聞は、それは行政の不手際、予想能力の甘さだと言い出した。

 学者によると、ウイルスはネズミや野鳥なども運ぶので、こうした「動物が簡単に行き来できる開放型の構造では、病気の侵入を防ぐことは困難」だから「浅田農産も被害者だった」という意見まである。それなら、なぜこの会長が生きているうちにそれを言ってあげなかったのだろう。

 養鶏の専門業者なら、理由のわからない大量死を報告しなかったという責任は、どう考えても逃れられるものではない。同情と原則をごちゃまぜにする新聞は、意図的に視点を狂わせる目的のようにも見える。その後に同じような鶏の死が続いた養鶏場では早期に通報したが、これが業者のルールというものだろう。

 この浅田農産の記事で、私は新しい知識を得た。この会社は従業員135人で農場は5カ所。鶏は計175万羽を飼っているという。「売上高は昨年6月期で32億6300万円」だと書いている新聞があった。

 人件費その他を計算してみると、非常に手堅く儲けられる職種のように見える。この仕事には、今回のような危険がつきまとうとは言うが、処理された鶏には補償が出るのだ。この会社の場合、すべての鶏が処理されたのかどうかはわからないが、政府は一般に1羽あたり700円程度の手当金を出すと「世界日報」は報じている。仮に100万羽が処理されれば、それだけで養鶏場には7億円が補償されるわけだから、従業員の退職金もほぼ出るのではないか、というのが素人の計算である。

 3月8日には、カラスにも鳥インフルエンザのウイルスが発見されたという。これを機に、あまりにも時流に乗って行き過ぎていた環境省の自然保護と動物愛護が、少しだけ人間配慮と農民保護の方向に是正されることを期待するばかりである。
 



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