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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 代表電話復活?心の伝達は声と会話が原則  
コラム名: 透明な歳月の光 98  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2004/02/27  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   最近、私が働いている財団で、職場の組織改革を行うという。今までに生じていた不都合を、何年ぶりかで整理するのである。

 整理というものは実に大切なことだ。ことに最近のように情報量がふえて来ると、不要なものを整理しなければ逆に使いこなせなくなる。溜めることと同時に捨てなければ、精神が不自由になる。

 私は下手な庭いじりもするのだが、小さな庭や家庭菜園でさえ、たえず整理が必要だ。枯れたものは抜き、古い茎は捨てて若い枝だけを芽ざししてやり、植えっぱなしでくっつき合った球根は、1個1個離してのびのびと植えなおしてやらねばならない。

 それを思うと、老世代も適当な時に職を後進に譲り、さらに極言すれば楽しい一生を終えた後で死んでやることが若い世代のため、と思われるが、そこまで深くつきつめると話が深刻になるから、今日のところはあまり触れないことにする。

 改革案の中で、私がとりわけ嬉しかったのは、財団が外部からかかる電話のために代表番号を復活させる、ということだった。もう何年くらい前になるだろう、直通ダイヤルになって、交換手さんを通さなくなる、とあちこちの会社が言い始めた時は大変便利になったかのように私も感じたものだった。しかし直通の電話番号というものは、内部の事情を知っている者にとって便利なだけだった。

 私たちの財団は、さまざまな分野で活動している国内外の組織に、国の税金ではなく、競艇で売られた舟券の売り上げの3.3パーセントをお預かりして、配るのが任務である。

 老人ホーム、障害者施設、ボランティア・グループなど多くの組織の代表者は、それこそ一生に一度か二度しか、こういうお金の申し込みをしない。日本財団という所を呼び出して、いったい何部につないでもらったら話が通じるのか、不安に思っておられるに違いない。

 電話をかけると「修理は1番、備品補充は2番、新規申し込みは3番、のボタンをお押し下さい」というような機械的な声が返って来るだけの企業が多くて、私のような昔人間は、うんざりしていた。もっとも最近の若者たちの中には、「人間に出て来られるとウルサイ」と思う人もいるのだという。

 できるだけ簡潔に事務が進むことは望ましいが、人間の心の伝達は人間の声と会話による、という原則は忘れない方がいい。

 電話の使用法を、受ける側の都合で考えることは、やはりサービスや奉仕の気持に背を向けることになる。人の声を聞けることは感覚的な喜びのはずなのである。

 平均年齢30数歳の若い職員たちが自発的にそのことに気づいてくれて、私はほんとうに嬉しかった。
 



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