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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: アラブの招待外交?欠かせぬ礼儀と信仰への敬意  
コラム名: 透明な歳月の光 92  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2004/01/16  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   非常にいいニュースで、全国紙が(私の読んでいる限りだが)報じなかったものがある。私はそれを「世界日報」で読んだのだが、政府が陸上自衛隊の派遣時にサマーワの部族長を日本に招く方針を1月8日に固めた、というものである。サマーワには17の主要部族がおり、その部族長を日本に招待するというのである。

 アラブにとって招待外交は大切な友好の方法だ。ただ誰を呼ぶかは、日本が決めると後に禍根を残すだろう。大きな部族長たちに人選を頼む他はない。しかしほっておくと、従兄弟や親戚などどんどん呼んでほしい人が増えて、総勢で500人とか1000人とかになりかねないから、あらかじめ人数を決める他はない。

 自衛隊の先遣隊の中に、サマーワの住民たちが、自衛隊の意図を理解してくれるかな、というような弱気な表現をしている人がいたが、そういうのが一番誤解を生み易いのである。アラブ人にとって、相手が理解してくれるかどうかはほとんど意味がない。自分を理解させることが必要なのである。だから何でもいいから、こちらが正しいと思ったことを言い張る方がずっと相手に受け入れられる。

 こんなことを言っているうちに、くだらないことを思い出した。アラブの人たちを招く場合には、必ず絨毯がいる、という小さくて重大なことだ。

 アラブの人たち、というか遊牧民の文化に属する人たちにとっては、床に敷物がない空間は、人間がいるところではなく、家畜を入れるところなのである。だから部族長たちをお招き入れする場所は、自衛隊の施設であろうと、とにかく絨毯が敷いてあるところでなければならない。そうでなければ、「よくもオレを家畜扱いにしたな」と言って、すべてのことはぶち壊しになる可能性もある。

 我が家も初めは洋室に絨毯を敷いていた。しかし私は絨毯というものの不潔さを考えると耐えられなくなった。あの長い毛足の中に入った土、埃、食べこぼし、害虫、雑菌など、どんな強力な掃除機を掛けてもとうてい取り除けるものではない。それに絨毯を敷かないだけでも安上がり、ということもあって、我が家の居間はむき出しの寄木の床である。そこに掃除機を掛け水雑巾で拭くから、かなり清潔だろうと思う。しかしまかり間違っても我が家にはアラブの客人はお迎えできないのだ。その場合は大急ぎで、安物のゴザでもいいから買いに走らねばならない。

 金曜日の祈りの日や1日何回かの祈りの時間を確保すること、豚肉を出さないこと、宴会に酒を出さないこと、女性が同席する酒席を設けないこと、など一応の礼儀も大切だ。信仰に敬意を払う人間でなければ、信用してもらえないのは当然のことなのである。
 



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