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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: テロ予防措置?不審人物を日本に入れるな  
コラム名: 透明な歳月の光 86  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2003/11/28  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   イタリアに住んでいる友人が日本にやって来て、イラクに駐留しているイタリアの平和維持部隊は、充分に地元の人と融和して働いている、という話をしてくれた翌朝、イタリア軍の基地は襲われて28人もの死者を出した。

 今やイラクでは、次に上げるあらゆるものが破壊の標的になっている。米国と英国、或いは両国に関係のあるもの、両国と友好関係にあるアラブの国や組織、国連関係機関、赤十字社、キリスト教。国内関係では対立部族に属する者、宗派の違う者、利害関係が対立している者、外国資本と関係ある者、アメリカや西側で教育を受けた官吏(主に警察官)、アラブ名前でない人、肌の白い人、髭のない男、金持ち、身持ちの悪い女、理由はないが気に食わない奴。すべてが狙い撃ちの対象だ。

 破壊する側は、アルカイダとその思想に影響された人たちだなどと考えられているが、無関係の便乗テロも多いだろう。今やテロは荒廃したイラクに住む一部の人たちにとっては、最大の娯楽とうっぷんばらしになった。娯楽には思想も理由もない。場所も選ばない。希望がなければ、誰でもわずかな動機で破壊に参加する。

 テロを働く本当の理由は、貧困と未来の展望がないことにある。1597年には既に書かれていたフランシス・ベーコンの『随筆集』の中には、「反乱の材料の中には二種類ある。多くの貧困と、多くの不満である」という文章がある。

 人間は、治安と経済の安定の中で職があり、家族が衣食住に困らず、子供たちが学校で希望を持って学んでいればテロになど走らない。しかし目下のイラクの状態では、落ち目の人は何にでも八つ当たりするだろう、と思う。

 テロ活動は、制服を着た正規軍に対してはその卑怯な戦法のゆえにその時はたいてい勝つが、長い眼で見た場合、テロリストが究極の勝利を得ることはまずない。ただテロを制圧するには、正規軍相手の論理だけではとうてい足りない部分が出るはずだ。

 必要なのは、テロが現実にできにくいようにあらゆる裏の工作をすることだ。テロの資金源を断ち、内部情報を蒐集し、テロリスト予備軍を懐柔する。彼らがテロなどばからしくてできなくさせるのだ。

 日本も標的になると恐れる前に、実質的に必要な予防措置として、厳重な入国制限を取って不審人物を日本に入れないことである。

 トルコは、テロの犯人を、現場に残された遺体の一部のDNAから割り出したと発表している。日本でも外国人入国者に対して、必要ならどんな悪評を受けてでも、入国時に厳重な個人データの調査と整備をしたらいいのである。

 来週は今回書き残した自衛隊員の名誉と尊厳について触れたい。
 



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