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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: イラクのテロ問題?戦う相手は無法のゲリラ  
コラム名: 透明な歳月の光 85  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 2003/11/21  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   イラクとの開戦前後から、私は産経新聞の論調と自分の心に時々隙間を感じることがあった。産経新聞の筆者の多くは、初めは文句なくアメリカとの連携を強めるべきだという論調であり、やがてそれは国連主導にせよという方向に変わった。

 私は小説家で近視眼的な見方しかできない自分を知っていたし、国際政治が単純な正義でもなく筋を通すことでもないことは一応承知しているつもりである。しかしアメリカの、それもブッシュ政権の見通しの悪さと愚かさの結果と言ってもいいイラク侵攻に日本が一筋に追従していいと思えたことはなかった。

 たとえば小さなことだが、アメリカは6月、中東軍司令官にレバノン系のアラブ人、ジョン・アビザイド陸軍中将を任命した。アメリカはこの人事で、人種的差別のない民主主義国家の実態を見せるつもりだったのだろうが、イラク人にすれば、それこそこの人は「悪魔アメリカに魂を売った男」なのだから、ことはうまく行くわけがない。

 国連はアメリカのご用組織、赤十字はイスラム教に敵対するキリスト教の印だ。

 アメリカも日本のオピニオン・リーダーたちも、戦う相手が正規軍ではなく、ゲリラだということを忘れているように見えた。ゲリラは軍服を着ないのだから、表向きはいつも市民である。ゲリラを掃討するということは市民に銃を向けるということであり、市民を戦争に巻き込むな、という日本人の大好きなスローガンがある限り、先制攻撃でゲリラを掃討することもできない。福田官房長官などは初め「安全を見極めた上で」派兵を決めるなどと言っておられた。安全というものは「物質の状態」以外では見極められない。人の心は刻々変わるから、安全という状態はどこにもありえない。

 11月6日付けの「正論」でも志方俊之氏が日本が戦時捕虜の取り扱いに関するジュネーブ条約の追加議定書に調印していないことにふれ「心配なのは、自衛隊員が武装勢力の捕虜となる場合だ。調印なしでこの議定書に定められた捕虜としての権利を主張し通すことが果たしてできるのか」と書いておられる。

 志方氏といえば日本の戦略を指導できる最高の方だが、志方氏の頭の中にも正規軍同士の戦いしかないように見える。ゲリラがジュネーブ条約を守るなどということは初めからありえないのだ。ゲリラはその日その時の気分次第で、捕虜を好き勝手に扱うだけである。

 今は自衛隊と警察と合同で、一刻も早く「対テロ戦略学校」のようなものを作るべき時だろう。既に実質的にあるとしたら、整備しなおして学生の数を増やすべきだ。そこでは私たちの知る範囲の通常の人間社会にはない、あらゆる無法と愚かさを学ぶことになる。
 



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